犬さん深夜tweet

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Yuu Yamamoto 🥚 山本悠 @yuuuuuuuuuuuuuu

ヤンスーは、誰かをかばい、姿を消した。その誰かの受刑番号はおそらく、千百番未満、千番以上の百名のうちの誰かだ。しかしおれは模範囚だから、交流を断っているから、受刑者たちについて何も知らないんだ。俺が刑務所で知っていることは、理髪師の資格取得に関することだけだ。おれは悲しくなった。

2014-08-13 04:32:18
Yuu Yamamoto 🥚 山本悠 @yuuuuuuuuuuuuuu

おれは、ヤンスーに庇われた受刑者に嫉妬していたのだと思う。ヤンスーが俺に近づこうとすることを、疎ましく思ったのは確かだったが、それとは別にある実感も与えてくれていたのだ。食事が運ばれてきた。手を付ける気が起きない。もう毎回のことだ。喉を通るものすべてみな漢方薬みたいな味がするんだ

2014-08-13 04:36:43
Yuu Yamamoto 🥚 山本悠 @yuuuuuuuuuuuuuu

この刑務所では、残飯が計量されていて、食べた量に合わせて次回の食事の量がコントロールされるという。完食すればその量がちょうどいいということ。減らされはするが、増やされることは二度とない。だから食事に手をつけないのはゆっくりと自殺するのと同じことなんだ。とにかく今は食べよう。

2014-08-13 04:39:52
Yuu Yamamoto 🥚 山本悠 @yuuuuuuuuuuuuuu

ヤンスーに対する気持ちの整理がつかないまま、俺は別の棟に移された。俺が模範囚だったからだ。懲りずに新しい棟に行けばヤンスーにまた会えるかもしれないと発想したが、われながら愚かだと思う。おれはその棟で理髪師の資格を取るための実習に励むはずだったのだが、全くやる気が起きなかった。

2014-08-13 04:46:53
Yuu Yamamoto 🥚 山本悠 @yuuuuuuuuuuuuuu

新しい棟に移り、部屋と貸与品を与えられた時、おれはあの中国語で書かれた手紙をなくしていることに気がつき、つい、それがヤンスーと関係しているのではないかという推理をこころみてしまったのだ。自分には何もできなかっのではなく、その逆で、取り返しのつかないことをしてしまったんだと思った。

2014-08-13 04:50:29
Yuu Yamamoto 🥚 山本悠 @yuuuuuuuuuuuuuu

刑を受け直せることなら、受け直したいとすら思うようになった。面会の後、穴掘りに出たあの日、ヤンスーの働きかけに応じる機会を逃したことで、自分の人生の意味がなくなったかのように思った。理髪師の資格はあともう少しでとれそうだったし、刑務官たちも大人しいおれのことを安心して見守っていた

2014-08-13 04:53:18
Yuu Yamamoto 🥚 山本悠 @yuuuuuuuuuuuuuu

この棟に移ってから、他人に対する正常な関心を取り戻すための機会は十分にあった。散髪をするのがおれの刑務なのだ。我々理髪班は、鏡の前に受刑者を座らせ、ハサミを持って後ろに立つ。模範囚でなければ成し遂げられない刑務に違いないのだ。おれは誰彼構わず刺し殺す衝動をこらえるのに必死だった。

2014-08-13 05:01:57
Yuu Yamamoto 🥚 山本悠 @yuuuuuuuuuuuuuu

受刑者がヤンスーであるかそうでないかだけがおれの関心で、ヤンスーでなければとにかくサシ殺せという命令を脳が発するのだった。「今日はいかがいたしましょうか」おれは命令とはうらはらな文句を口にする。受刑者は決まってろれつの回らない返事をする。「耳が出るまで切ってほしいでヤンス」

2014-08-13 05:08:47
Yuu Yamamoto 🥚 山本悠 @yuuuuuuuuuuuuuu

おれの耳はいつも錯覚した。持ってもいない携帯電話が鳴ったり、「千七十九番、面会だ!」という声で真夜中に目が覚めたりする。ほどなくして理髪師の資格を取得したおれは、釈放を待つだけの身となった。さらに別の棟へ移され、真人間になるための、最後の矯正を受ける機会を与えられたのだ。

2014-08-13 05:11:30
Yuu Yamamoto 🥚 山本悠 @yuuuuuuuuuuuuuu

意外だった。おれがブチ込まれた牢は、あの穴掘り刑務に励んでいた時の牢にそっくりじゃないか。ただ細かいところが違う。食事の出入りする窓が大きいし、流しはお湯が出る。それに少しだけ広いんだ。よく似せて作ってあるのだろうか。では、房全体はどうだろう。おれは初めての刑務のために牢を出た。

2014-08-13 05:17:56
Yuu Yamamoto 🥚 山本悠 @yuuuuuuuuuuuuuu

ここはやっぱり、おれが始めにブチ込まれた房と同じ房なのかもしれない。穴掘り場まで続く廊下の床をじっと眺めているが、汚れが作る不規則な模様に、見覚えがあるとしか思えなかったのだ。ただしおれには、周囲に見知った受刑者の顔があるかどうかを、見分ける自信がなかった。

2014-08-13 05:21:11
Yuu Yamamoto 🥚 山本悠 @yuuuuuuuuuuuuuu

おれは穴掘りを終えた。牢までの帰り道、なぜ俺はこの房に戻されたのだろうか。おれは出所できないのだろうか。おれは様々に推理した。おれは出所できないことを不幸に感じたのではなかった。刑務官たちの思惑を興味深く感じたのだ。牢の扉を占める時、刑務官は緑色の封筒を俺に手渡した。

2014-08-13 05:25:21
Yuu Yamamoto 🥚 山本悠 @yuuuuuuuuuuuuuu

ぼんやりと考えていたことがようやくはっきりした。湯けむりの中からまん丸とした温泉まんじゅうが飛び出てきたみたいだ。おれは刑務官の内通者として、囚人たちの間に不穏な企てをする者がないかを、調査する役割を負っていたのだ。囚人を採点するためのシートも何通か用意されていた。

2014-08-13 05:29:59
Yuu Yamamoto 🥚 山本悠 @yuuuuuuuuuuuuuu

どぶ底レベルの囚人たちに混じって、おれはやつらをスパイするのだ。目をそらし続けていた真実だ。ヤンスーも、やっぱり組織の目的のために俺に近づいたにちがいないのだ。わが身かわいさのために行動してただけなのだ。真実から目を逸らしたらだめだ。ヤンスーなんて最低だ。刑務所なんて最悪だ。

2014-08-13 05:32:32
Yuu Yamamoto 🥚 山本悠 @yuuuuuuuuuuuuuu

しかしおれは眠れなかったのだ。夜が白んできた。おれが模範囚と認められたということは、ヤンスーは俺に高得点をつけたということではないか?核心ではないことばかり気にして、焦点の定まらない思考をする。違う、もっと他に考えることがあるだろう。なのに意識がはっきりしない、疲れているからだね

2014-08-13 05:35:24
Yuu Yamamoto 🥚 山本悠 @yuuuuuuuuuuuuuu

ヤンスーと会話をしたことはないのに、夢のなかでヤンスーと話すことがある。刑務作業のこと、ハサミで刺し殺したいと思ったやつのことや、スコップで殴り殺したいと思ったやつのことだ。ヤンスーは相槌しか打たない。ヤンスーのことは、おれは何も知らないからだ。夜明け近くにまた夢を見た。

2014-08-13 05:37:23
Yuu Yamamoto 🥚 山本悠 @yuuuuuuuuuuuuuu

この囚人は何点かな?おれは夢の中でヤンスーと一緒に囚人を採点していた。幸せだった。そんな風に暮らすことができたらよかったのに。おれたちは地獄の番人だ。番人ではなく番人の飼い犬だ。ヤンスー、君はもう出所できたかい?ぼくの開いた理髪店に、髪を切りにきてよ。

2014-08-13 05:40:37
Yuu Yamamoto 🥚 山本悠 @yuuuuuuuuuuuuuu

あくる日、おれは不眠のままスパイ活動に励んだ。興味を持って囚人たちを眺めた。ヤンスーの気持ちになろうと努めたのだ。それがおれにできる唯一のことだった。ヤンスーはどんなにんげんだったのだろうか?眺めているだけじゃだめだ。話しかけなきゃ。スコップ配り役の囚人が俺のところにやってきた。

2014-08-13 05:45:24
Yuu Yamamoto 🥚 山本悠 @yuuuuuuuuuuuuuu

「タバコが欲しくないか」おれに話題はなかったから、スパイ活動のために与えられた七つ道具を使って相手を誘惑することにした。答えは無視だった。無視は全て。全ては無視。こいつには見どころがある、とおれは確信した。刑務の間見守ったが、真面目そうな受刑者だった。サイレンが鳴った。

2014-08-13 05:48:16
Yuu Yamamoto 🥚 山本悠 @yuuuuuuuuuuuuuu

広場を後にしようとした時、「俺らの仲間に入りたいのか?」と声をかけられた。振り向くとさっきの受刑者だった。おれは裏切りを感じたが、「タバコなら用意できる、他のやつにも伝えといてくれ」とスパイらしく100点まん点の振る舞いをして見せた。自分の人間を見る目がないことに腹が立った。

2014-08-13 05:51:09
Yuu Yamamoto 🥚 山本悠 @yuuuuuuuuuuuuuu

翌日、おれはリンチされた。煙草くらいで認めてもらおうってんじゃねえよとのことであった。お前らの仲間というのは、かつあげ同盟かよ、と連中を見下した。しかし、またあくる日には、連中はおれにボールペンを手渡してきた。聞けばこれは、武器だと言う。もしもの時に持っておけと。

2014-08-13 05:54:11
Yuu Yamamoto 🥚 山本悠 @yuuuuuuuuuuuuuu

スパイの自覚を持ち続けることで必死だった。やつらはおれに冷たくし、期待し、痛めつけ、最後には武器を与えようとした。自分たちがスパイされているとも知らずに。哀れみが沸き起こったが、それは彼らに対してなのか、自分に対してなのか。ヤンスー、きみもこんな気持ちでスパイしていたのか。

2014-08-13 05:57:35
Yuu Yamamoto 🥚 山本悠 @yuuuuuuuuuuuuuu

やがて、新入りであるおれにある事実が明かされた。スコップ修繕の刑務の伝説だ。ねじを締め直すためにドライバーの詰まった工具箱が支給され、備品室への立ち入りも許されるという。実在するのかは定かでない刑務だ。しかしまことしやかにささやかれている。脱獄のための最後のチャンスだと。

2014-08-13 06:20:44
Yuu Yamamoto 🥚 山本悠 @yuuuuuuuuuuuuuu

おれは囚人たちに淡い期待を抱いたのだが、それは心の底からの軽蔑に変わってしまったよ。こいつらはちょっとした、刺激のあるルーティーンが欲しいだけなのだ。しかしそれは誰かを不幸にすることなのだ。こいつらがスコップのねじを緩めておいたせいで、おれは刑務官にリンチされたのだ。

2014-08-13 06:23:03
Yuu Yamamoto 🥚 山本悠 @yuuuuuuuuuuuuuu

脱獄することには反対じゃないんだ。ある囚人は飯を食べ終えると、突然牢から姿を消したという。不審に思った刑務官が牢に踏み込んだが、そいつは天井に張り付いてたのだ。そして刑務官を殺してピストルを奪い脱走した。結局刑務所の敷地を出ないうちに射殺されたという。

2014-08-13 06:28:17