ウィアード・ワンダラー・アンド・ワイアード・ウィッチ #3

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「丁度いい。俺の時間も省ける。会ってやる」ジェノサイドは重いブーツで床を軋ませながら、ゆっくりとシャッターへ向かう。ホリイはやや急ぎ足で、彼の横に寄り添う。「なあ、嬢ちゃん。名前はどうすんだ。本名は、ちいとマズいだろ。通り名を考えろ」ジェノサイドが小声で言う。ホリイが頷く。 19

2014-08-11 22:45:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ウィッチ…」ホリイは呟いた。咄嗟に思いついたのは、頭の中にエコーし続けるその蔑称だった。追っ手もコードロジストの秘密までは知らぬ。だがそれだけでは不足。自分はジェノサイドのゲイシャなのだから。「……ワイアード・ウィッチ」「そりゃ、おっかねえ名前だな」ジェノサイドが笑った。 20

2014-08-11 22:45:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ジェノサイドがシャッターを開け、交渉に応じることを告げると、交渉人GNマサルVIは失禁しそうなほど驚いた。「サケ飲んだら行くから、ギャングビルで待ってろ」「わ、私が同伴しますが……」交渉人が汗を拭きながら言った。「テメエの歩くペースに合わせてたら、俺は腹が立ってくるかもな」 22

2014-08-11 22:54:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

GNマサルVIは失禁しながらサイバー車椅子を操作し、大通りへと戻った。かくしてジェノサイドとホリイは、MASUDAで最低限の作戦を立ててから、悠々とギャングビルへ向かったのだ。ジェノサイドの姿を見ると、住民たちは逃げるように道を開け、暗い窓の奥からは奇異の視線を投げかけた。 23

2014-08-11 23:00:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ジェノサイドの近くには誰も寄り付こうとせず、見ようとすらしない。「そろそろ出ていく頃合だったのさ」歩く死体が言う。ホリイは、彼がストリートの英雄めいた存在かと思っていたが、実際そんなことは無かった。彼は不吉な流れ者の無差別殺戮者だ。ヤクザやギャングと同じ、恐怖の対象なのだ。 24

2014-08-11 23:06:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼の正体はゾンビーでニンジャ。それを知っているのはツルギ老人とホリイだけ。その事実が知れ渡れば、彼はサルーンにも居られなくなるだろう。大通りに達する頃、もう彼らの行く方向には誰独りもいなくなった。乾いた風が吹き付け「ワンドフォー」「高価買取」などと書かれたビラが砂埃に舞う。 25

2014-08-11 23:10:42
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「MASUDAの酒場で話してるのと、何も変わりゃしねえ」ジェノサイドは吐き捨てるように言った。「……サルーンに留まっていた理由は?」ホリイが問う。「いい店だったからな」「それだけ?」「……」ジェノサイドは立ち止まった。彼はいつもは、立ち入った質問を許さない。 26

2014-08-11 23:19:06
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だが今は別だ。彼はいつ“停止”するか分からない。それは数十秒かもしれないし、数分かもしれない。驚くべき事に、彼自身はそれに対し切羽詰まった危機感を抱いていない。おそらくは、ニンジャで、既に死体だからだろう。いずれにせよ、可能な限り情報を共有しておくべきだろう、と彼は考えた。 27

2014-08-11 23:23:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ジェノサイドは実際そのまま、蝋人形めいて一分近く立ち止まっていた。飛んできた基板ビラが顔にはり付いた。ホリイは何も言わず、返答を待っていた。死体は思い出したように再び歩き出し、ビラを払った。「昔、あの爺さんには世話になった」「このストリートに来た事が?」「十年前かそこらだ」 28

2014-08-11 23:29:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「俺は何かヘタを打って、身を隠した。それを、訳も聞かず、匿ってくれた。あの爺さんはモウロクしちまって、覚えてないようだが」ジェノサイドはそう答えたが、実際、彼の記憶のほうがあやしいものだった。何より彼自身がそれを分かっていた。「そういう事でな。頼まれりゃ、無下に断れんのさ」 29

2014-08-11 23:36:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「解ったわ」ホリイは頷いた。「ギャングどもに話す必要は無さそうだけど。でも、話してくれてありがとう。間を持たせるのに役立つかも」「奴らにゃ言うな」ジェノサイドが恐ろしげな唸り声で言った。「ナメられるだろうが。間違っても、俺をお人好しのイディオットだと思わせるんじゃねえぞ」 30

2014-08-11 23:41:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「解った」ホリイは身を強張らせ、それでも何か腑に落ちず、返した。「じゃあ何で、話してくれたの」「万が一、俺がそれを忘れて、爺さんをブチ殺そうとした時のための保険だ。いいか、俺は……」死体は少し間を置いて言った。「俺はジェノサイドだ。冷酷非情の殺し屋で、ゾンビーで、ニンジャだ」31

2014-08-11 23:48:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ジェノサイドと彼のハッカー・ゲイシャは、そのような会話を繰り返しながら、ギャングビルへ向かった。黄色と黒のペンキで粗く塗装された鉄柵の上には、「ギャング」「支配」「集団的な暴力」と書かれた荒々しいネオンカンバンが掲げられ、トミーガンを持った屈強なスーツの男二人が立っていた。 32

2014-08-12 00:01:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

車椅子の交渉人が、彼らをうやうやしく迎え入れた。途中、ゲイシャに対して銃を突きつけ誰何しようとした愚かなギャングがいたため、ジェノサイドはその男をネクロカラテで殴りつけ、壁の染みへと変えた。二人は手のつけられぬ凶悪犯めいた眼差しを浴びながら奥へ進み、交渉のテーブルについた。 33

2014-08-12 00:10:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「途中でひとり殺した。俺をナメやがったからだ」ジェノサイドはソファに身を沈めて言った。ホリイも精一杯アウトローじみた調子で、彼の横に座った。「構わないとも」ギャングの幹部DシズムIVが、大テーブルを挟み、大層な防弾ガラス越しに彼らと向かい合った。「それはこちらの落ち度だ」 34

2014-08-12 00:15:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

歓迎の意志を示すため、上等な酒がいくつも運ばれてきた。ジェノサイドは旧世紀バーボンを目ざとく見つけると、蓋を開けて呷り、暗い室内の様子をうかがった。壁に並ぶUNIXの電子光。防弾ガラスの向こう側。腕を組んで壁に寄りかかり、目を合わせず横を向いているサイバネの男。ニンジャだ。 35

2014-08-12 00:23:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

防弾ガラスは分厚い。対ニンジャ用だ。一撃で割れるか?難儀だ。閉所ではバズソーも使い難い。何より、女が死ぬだろう。何事もそう簡単には行かぬのだ。「俺をヨージンボーとして雇いたいってのは、アンタか」ジェノサイドはDシズムIVに言った。「先に言っておくが、ヤクザも俺に声をかけてる」36

2014-08-12 00:29:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「俺はメンツを大事にする。声をかけられたからには、向こうとも会わなくちゃいけねえ」旧世紀バーボンの複雑な香りが、腐った鼻孔をくすぐる。何か、朧げな古い光景が、白黒モンタージュめいてフラッシュバックする。彼はいい気分だった。これならば、少し面倒な交渉事もやろうという気になる。 37

2014-08-12 00:39:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「だが俺は、最初に声をかけてきたあんた方により敬意を払う。だからこうしてやって来た。それにあんたらは懐も広い。細かい事でグダグダ言わねえ」「ああそうだ」DシズムIVは頷いた。ニンジャ慣れしており、肝もすわっている。「最初に流れ着いた時、うちの兵隊も多少殺したが……まあいい」 38

2014-08-12 00:46:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「うちの幹部が命拾いしたからだ。逆にあんたは、厄介なグレーターヤクザをネギトロに変えていた。それは次の日、ピザにして奴らに送りつけてやったぜ」「ハ!」ジェノサイドは短く笑った。ホリイは恐るべき暴力の洪水に小さく身震いした。だが怖くはなかった。己の隣にはニンジャがいるからだ。 39

2014-08-12 00:55:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ならとっとと、交渉に入ろうぜ。俺の腕は確かだ」ジェノサイドは適当な酒瓶を取ってコルクを抜くと、ホリイにぞんざいに手渡した。「相応の代価を支払うなら、グレーターヤクザだろうがニンジャだろうが、何でもブッ殺してやるぜ」「……」ニンジャの言葉に反応し、サイバネ男が彼を一瞥した。 40

2014-08-12 01:01:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「お察しの通り、向こうにもニンジャがいる。直情的で愚かだが相当なカラテだ。うちのドレッドノート=サンですら……」DシズムIVは咳払いした。「なら、相応のカネを提示するんだな。俺を安く買おうなんざ思うなよ。一回こっきりだ。それを見て、俺は何も返事せず、向こうの話も聞きに行く」 41

2014-08-12 01:13:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「解った、少しショドーとハンコの時間を……長くは掛かるまい、酒をいくらでも」DシズムIVが言う。「……なら、その間に見たいモノがある」ジェノサイドが立ち上がった。「地下にUNIX鉱脈があるらしいじゃねえか。退屈しのぎに見せてもらおうか。うちのハッカー・ゲイシャが物好きでな」 42

2014-08-12 01:23:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「勿論だ。ファミリーの客人を向かわせるには、いささか気が引ける、クソみてえな場所だがよ」DシズムIVはこれを了解した。彼としても、ジェノサイドを雇うための金額について、またこの男を本当にヨージンボーとして信用して良いか、ドレッドノートや副官らと最終調整を行いたかったからだ。 43

2014-08-12 01:28:18
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