ウィアード・ワンダラー・アンド・ワイアード・ウィッチ #3
「ウイルスってのを作るのに、どれだけかかる」ジェノサイドが問う。ゾンビーはその方面に疎い。「データを見たけど、少なくとも…3日」ホリイが答える。腐れた脳に染み付いた、呪わしい殺し屋の勘が、ジェノサイドに警告する。「そこまで引き延ばしはできねェ」「2日なら?」「…ギリギリだな」90
2014-08-13 00:24:37ヤクザとギャングは一触即発の状態だ。ヨージンボーの動きが決まれば、一日以内に、大規模な襲撃か全面戦争が始まるだろう。ホリイの勝機は、それまでにウイルスを完成させ、ジェノサイドとギャング側につくこと。そして決闘で戦力が出払っている間に、ウイルスで地下システムを崩壊させる。 91
2014-08-13 00:33:01ジェノサイドにも、それは妥当な作戦だった。まずはギャング側に付き、ブラックハンドを殺して喰う。そこでニューロンを再生できれば、あとはどうとでもなる。喰えなかったとしても、ブラックハンドを殺しギャング側のアジトに戻ってきた時に、地下の混乱に乗じドレッドノートを殺して喰えばいい。92
2014-08-13 00:36:56ニンジャ喰らいの真実については伏せたまま、ジェノサイドはこう忠告した。「ドレッドノートは頭がキレる。油断はできねえ。テクノギャング共は義理も何も持ち合わせちゃいねえ。ブラックハンドを始末できりゃ、俺たちが邪魔になる。だから、可能な限り早くドレッドノートもブチ殺す必要がある」 93
2014-08-13 00:40:35「何かそれについて、出来る事は?」「殺すのは俺の仕事だ。嬢ちゃんは、ウイルスを作ンだろ。とっとと続けろ」「解ったわ。……あと」ホリイはサイバネアイから掌の間に仮想投影したウイルス構造モデルを回しかけ、止めた。「あなたのために、何かできることは。例えば、その、記憶を補うとか」 94
2014-08-13 00:47:09ジェノサイドは酒を呑みに向かおうと、部屋のドアを開けていた。ホリイの方を向き、心底不思議そうに言った。「俺のためにだと?」「そう」ホリイは頷いた。「くだらねェ…」彼は不機嫌そうにドアを締め、真ん中に銃弾の貫通痕を持つウェスタンハットを目深に被り、ブーツを鳴らして階段を下りた。95
2014-08-13 00:55:26…それからホリイは、ほぼ不眠不休でウイルスを作った。ニンジャの支配を転覆させ、虐げられた仲間を助けるために。そしてその先に……イメージは酷く朧げだが、何らかの形でジェノサイドに恩を返したいと思いながら。二人はギャングとヤクザのビルを交互に訪れ、危険な引き延ばし工作も行った。 96
2014-08-13 01:07:03……そして二日後、ホリイは大仕事を完成させた。テクノギャング団の警備システムを崩壊させるためのウイルスをコーディングし終えたのだ。ヤクザとギャングの寛容さは限界に達しつつあり、いつ暴発してもおかしくない状態だった。夕刻、ジェノサイドは両勢力の交渉人をMASUDAに呼びつけた。97
2014-08-13 01:14:09「待たせたな、俺はどっちのヨージンボーになるか、決めたぜ。それは今夜の夜十二時から有効だ」ジェノサイドはいつものテーブルに向かい、腕を組んでいた。両勢力の交渉人がその前で正座し、固唾を呑んで答えを待った。しばしの沈黙の後、動く死体は言った。「……DシズムIIIファミリーだ」 98
2014-08-13 01:20:42「ヤッタ!」GNマサルVIがバンザイし、歓喜の涙を流した。「チックショー!」ハクイはその場で床を叩いて悔しがり、さらにドスダガーで指をケジメする。ナムサン!「チックショー……」彼はブザマに泣きじゃくり、よろよろと出て行った。ジェノサイドは何の感慨も見せず、サケを呑んでいた。99
2014-08-13 01:29:35「チックショー……」夕闇に包まれた大通りを歩きながら、ハクイは恐怖に震えていた。ブラックハンドは激怒するだろう。ジェノサイドが向こうについた戦力差も顧みず、怒りに任せ全面戦争を受けて立つだろう。「死にたくねえなァ……」その前にブラックハンドが彼を撲殺する可能性も実際高い。 100
2014-08-13 01:33:58「ジェノサイド……ちくしょうめ……上手い事言いやがってよォ」ハクイは死刑宣告を受けた囚人めいて、よろよろと、十分で帰れる道をその三倍もかけて歩いた。辺りには何やら、不吉な夕霧が立ちこめていた。……ガゴガゴガゴガゴ、ガゴガゴガゴガゴ……大通りの外れから、何か妙な物音がした。 101
2014-08-13 01:40:44ドルルルルルルルルン、ガガガガガガガゴガガガ!「アイエエエエ!棺桶!」「アイエエエエエ!」後ろで悲鳴と騒音が聞こえた。「オウイエー、たわわに実った魔女だぜェー」武骨なストーナーロックの音。「何だよ……うるせえな……それどころじゃねえんだよ……」ハクイは苛立ちながら歩いた。 102
2014-08-13 01:46:26ガガガガゴガガガ!「アイエエエエ!」前方から歩いてきたハッカーが、何か恐るべきものを見て腰を抜かした。「うるせえって言ってんだよ!ザッケンナコラー!」BLAM!ハクイは自暴自棄に陥り、目の前のハッカーを射殺!「ペケロッパ!」無惨!「おい、テメェー」背後から不気味な嗄れ声! 103
2014-08-13 01:52:06「ダッテメッ」ハクイは銃を構えたまま後ろを振り向いた。「……アイエエエエエ」そして声を失いへたり込んだ。そこには、鋼鉄棺桶を引きずるチョッパーバイクと、それに跨がる山高帽の男がいた。ジゴクの最下層からバイクで飛び出してきた悪鬼めいて、何もかもが異様なアトモスフィアだった。 104
2014-08-13 02:03:38「テメェー、ヤクザだろォー」体を黒包帯とボロボロのコートで覆ったその男は、気怠そうにソードオフショットガンを構えた。「アッハイ」ハクイは恐怖に震えた。「ならハッパ持ってンだろォー、たんまりとよォー……」「あります」「案内しろよォー、それから、聞かせろよォー」「な、何を」 105
2014-08-13 02:10:02「ハ、ハ、ハァー……決まってんだろォー……」不気味に濁った死者の目で、その男はハクイを睨め下ろした。乾燥ハッパ葉巻を咥えた彼の口からは、エクトプラズムめいて盛大な煙が吐き出された。「あの湿っぽい野郎のことを……ジェーノサイドのコトをよォー」 106
2014-08-13 02:14:50