【第二部-二拾】春雨の教育係 #見つめる時雨

夕立×時雨,時雨×…
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誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「春雨の教育係ですか?」 夜、僕たち白露前期型は提督室に召集された。 「ええ、龍鳳みたいに練度を積んでいれば必要はないのだけれど、春雨は艦娘として着任してから日も浅いから、誰かについて欲しいと思って」 提督が僕らを見渡しながら言う。

2014-08-13 21:10:09
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「春雨の艦歴から見て、貴女達が適任だと思ったの。練度も十分だし、どうかしら、誰か頼まれてくれない?」 ふむ。春雨の教育係。僕がやってもいいけど…。そう思いながら皆の様子を見る。 「はいはい!質問です、提督!」 「はい、どうぞ村雨さん」 「部屋割りも変更になりますか?」

2014-08-13 21:15:10
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「そうね、その方がいいと思うのだけれど」 そっか、教育係ってことは、僕らのパートナーシップと同じ、つまり部屋も春雨と一緒になるってことか。となると、僕が立候補すると夕立が一人になる。大丈夫かな…?でも心配しすぎ?うーん…。

2014-08-13 21:20:09
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僕が悩んでいる中、村雨が手を挙げた。 「じゃあ、私がやりま…」 そこで村雨は言葉を止めた。どうしたんだろう? 「あっ!えっと…」 見ると、白露が村雨の服の裾をつまんでいた。 「白露…どうかした?」 「な…何でもないよ!」

2014-08-13 21:25:09
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「…ねぇねぇ、白露。もしかして、私に行って欲しくない、とか?」 村雨がイジワルな笑みを浮かべる。あ、これ、わかってて言ってるな。 「え!?そ、そんなことないよ!?だってあたし、一番上のお姉ちゃんだし、寂しくなんか、ないし」 言いながらどんどん元気なくなってるよ、白露。ふふ。

2014-08-13 21:30:11
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「白露の意地っ張り」 素直じゃない白露を見て、村雨がくすくすと笑った。でもどうしよう、やっぱり僕が…。 「ぽい!…じゃなかった、はい!」 僕が手を挙げるより先に、隣にいた夕立が手を挙げた。 「夕立…?」

2014-08-13 21:35:10
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「あたしにやらせてください!春雨の教育係」 …驚いた。夕立が立候補するなんて。 「いいの?夕立」 僕が聞くと、夕立ははりきった顔を見せた。 「うん!夕立は、春雨のお姉ちゃんだからね!しっかり面倒見るから!」

2014-08-13 21:40:09
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もしかして、この前言ってたのはこの事だったのかな。…そっか、ふふ。 「五月雨はどうかしら?」 今まで黙っていた五月雨に、提督が問いかけた。 「…え、私ですか?私は夕立でいいと思います。妹の私が教育係っていうのは、春雨もやりづらいんじゃないかなって思いまして」

2014-08-13 21:45:11
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「決まりっぽい?」 他のみんなも、異論はなさそうだった。提督はそれを確認すると、再び口を開いた。 「じゃあ、夕立にお願いするわね。…あと、サポートとして村雨もついてくれるかしら?」 「え?勿論、構いませんけど」 「ありがとう。よろしく頼みます、夕立、村雨」―

2014-08-13 21:50:09

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―部屋で自分の荷物をまとめる夕立。荷物は主に着替えになるから、僕はあまり手伝えないでいた。 「よし、これで終わったっぽい」 夕立が借りた特大のキャリーケースの蓋をする。…部屋は近いけど、少し寂しくなるかな。

2014-08-13 22:01:00
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「…どうしたの、時雨。さっきからずっと夕立のこと、見てる」 「え?」 夕立がキャリーケースの上にうつ伏せになりながら僕を見ていた。視線が交わった時初めて、僕は夕立の指摘通りのことをしている自分に気づく。 「…ううん、何でもない」

2014-08-13 22:05:09
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「じゃあ、何でずっと見てたの?」 夕立が微笑む。…うん、理由なんてわかってるんだけどさ。でも何だか…言えない。 「…夕立がいなくなったら、寂しい?」 確信を突かれて、僕の胸が鼓動を鳴らした。 「…少し、寂しいかも」

2014-08-13 22:10:10
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「…よかった」 夕立が嬉しそうに言った。 「…どうして?」 「時雨に寂しいって思って貰えたから。夕立は、時雨の日常の一部になれたんだって思ったら、嬉しくなっちゃったっぽい。えへへ」 「…当たり前だよ」

2014-08-13 22:15:10
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「ねぇ、夕立達、まるでお別れをするカップルっぽい?」 「…それにしては、随分平和なんじゃないかな」 「少女漫画みたいにはなってないね。バチーン!って」 夕立がくすくす笑う。 「…そっち行って、いいっぽい?」 「…いいよ、おいで」

2014-08-13 22:20:09
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夕立が僕の肩に寄り掛かる。まるで子犬みたいに、身体を僕に摺り寄せながら。 「部屋は近いから、また遊びにおいで」 「…いいの?時雨」 「うん、勿論」 夕立は頭を撫でると、気持ちよさそうに頬を緩めた。 「春雨の前じゃ、もうこんなことできないね」 「…うー」

2014-08-13 22:25:09
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「…あ、そろそろ時間っぽい。春雨が部屋で待ってる。行かなきゃ」 「うん。春雨をよろしくね、夕立姉さん」 立ち上がった夕立にそう声をかけると、夕立は意気込んだ顔を見せた。 「ぽい!夕立に任せて!!」 ふふ、頼りになるお姉ちゃんだ。

2014-08-13 22:30:12
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「じゃあ、行ってくるね、時雨!」 キャリーケースを引いて扉を開けようとしたところで、夕立が僕の方を振り向いた。 「うん、行ってらっしゃ…」 …そこで僕の唇は塞がれた。キスをされたんだと気づくのに、少しの間があった。しっとりとした夕立の感触が…僕に伝わる。 「…んっ…ふ…」

2014-08-13 22:35:09
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「…ゆ、夕立…あっ…ふ…」 夕立の舌が僕の唇をこじ開けた。夕立は僕の舌を探し当て、自分の舌を絡ませてきた。夕立と僕の唾液が絡まり合い、混ざり合った。本当にあっという間の出来事だった。僕はただ、されるがままになっていた。 「あっ…はぁ…ぁ…」

2014-08-13 22:40:09
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「ふぅ…。ふふ、急にごめんね、時雨。これで気合入ったっぽい!じゃあ、行ってきます!」 …僕の唇を解放した夕立は、そう言うと元気に扉を開けて、春雨の部屋へ向かっていった。 「…もう…夕立…」 …僕は自分の指を咥えていた。…どうしよう、口が寂しい…。はぁ…夕立ってば…怒るよ…?

2014-08-13 22:45:11
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…僕は夕立のいなくなった部屋を振り返った。…本当に、寂しくなるな…。壁の隣にいるのはわかってるのに、不思議と孤独感を感じる。僕って、こんなにも寂しがりだったんだな。 「はぁ…」 …馴れるまで、時間がかかりそうだ――

2014-08-13 22:50:09

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―ひとりで壁に寄り掛かる。寮の防音壁はしっかりしていて、隣の部屋の音は聞こえない。入口扉からは廊下の音は聞こえてくるけど、今はみんな部屋に戻っている。とても、静かだ。 「……」 …指を、軽く噛む。

2014-08-13 23:35:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

うぅ…夕立のせいだ…。夕立があんなことするから…。無意識か、意識的か…両の脚が勝手に擦り合う。…これが、ひとりでしたくなるってこと、かな…。

2014-08-13 23:40:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

僕の部屋をノックする音。とても控えめな。しかし僕はそれを聞いて飛び起きた。そして両手で頬を叩く。…何とか雑念を振り払おうとした。ふぅ…大丈夫。それにしても誰だろう。僕は入口へ向かった。扉を開けるとそこには…。

2014-08-13 23:45:08