【邪悪の樹】第一戦闘フェイス――第五の樹

『智の剣』陣営『貪欲』(@ToEvil_yuina) 『理の盃』陣営『不安定』(@Aiyatsbusy
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人間《ディアドラ》 @actSkbz

ぱしり、とまばたきひとつ。こてりと首を傾げるその動作は、まるで幼子のようで。 「……いいの、?」 恐る恐る、見上げ。また、ぱしりと。 告げられた“はっきり”という言葉を口の中で転がして、視線を下ろす。 「えっと、……林檎。林檎は、好き?」

2014-08-17 23:09:23
人間《ディアドラ》 @actSkbz

曖昧と溶ける思考の中で、唯一、はっきりと捉えられるそれを掴んで、口にして。理由などなく、ただ、何かを言わなければという焦燥感と、彼の赤に見た既視感を捕まえたくて。 胸の前でぎゅっと手を握り合わせ、身体の向きを変えれば、男を見上げて。じっと見つめた。

2014-08-17 23:09:26
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

「……ああ」 いいの、そう尋ねる声に静かに頷く。本当は、良くない。良いわけがない。殺し合う者同士が交わす会話など、デメリットにしかなり得ない。頭では、そう理解している。しかし、同時に『貪欲』は己に言い訳をしていた。今だけだ、と。 「林檎……林檎なぁ」 白い女を見下ろし、考える。

2014-08-17 23:52:13
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

林檎と言えば、なんだろう。赤くて、丸くて。青いのも、あって。味は、と思い出そうとしたが、思い出せない。当然だ。物を舌で味わった覚えなど、一度もないのだから。 「まあ、好きと言えば、好き、か?多分」 それでも、林檎は食べ物だ。食べ物は、燃やして取り込めば自身のエネルギーになる。

2014-08-17 23:52:27
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

嫌いでは無いことは確かだ。『貪欲』は頭を掻きつつ返事をし、女を見つめ返し。 「……隣、座っていいか。ずっと見上げてたら、首、疲れるだろ」

2014-08-17 23:52:35
人間《ディアドラ》 @actSkbz

ぱあ、と表情を明るくする。先程の微笑みよりも、更にはっきりとした表情。問われた言葉に、こくこくと頷きを返して、広がる白い髪を纏めるように、手櫛を通しながら。 「わたしは、赤が、すきで。だから、あなたの色も、きれいだなって」 溶け逝く前に、言葉を捕えようと、口を動かして。

2014-08-18 00:01:48
人間《ディアドラ》 @actSkbz

「えっと、……名前……は、わたし、言えないから……」 自分が答えられないのでは、相手に問うのもあんまりだろうか。 「ん、ん……」 朝露に濡れた花々の上に広げていたからだろうか、しっとりと濡れた自身の長い髪を梳いて、ふと、金色を見詰めて。 「……好きな、色は?」 おずおずと、問う。

2014-08-18 00:01:56
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

明るくなった表情に釣られるようにして、眉間に寄っていた皺が解れる。ゆっくりと白い女の隣に座す表情に険しさは無く、髪を梳かす女の姿を眺めるその視線は何処か穏やかでさえあった。 「……きれい、か」 懸命に紡がれる言葉に、呟く。『貪欲』は、己の髪の色を綺麗だと思ったことがない。

2014-08-18 00:24:27
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

それどころか、厭いてさえいた。そして、反対に。 「俺は……青だ。青が、好きだ」 自分には無い色を、自分とは正反対の色を、好いていた。理由は、きっとただの憧れだ。あおいモノは、どうにも触れられないものばかりだから。 溜息を吐く。お前の目は蒼いな。頬杖をついて、そう呟いた。

2014-08-18 00:24:29
人間《ディアドラ》 @actSkbz

「あなたの色は、お日様の色……あたたかい、きれいな色」 曖昧となる前に言葉を放って。返る言葉には、まばたきをして、首を傾げて。 「わたしの、目……」 ぱしりと、またまばたき。──ああ、そういえばそんな色をしていたかもしれない。鏡を久しく見てない。つきりと、こめかみがまた痛む。

2014-08-18 00:43:20
人間《ディアドラ》 @actSkbz

「──ああ、」 そうだ、と。吐息のような声が、零れ。曖昧と揺らめくその前に、言葉を形にして。 「わたしは、きっと、あなたの赤が好き」 無意識に伸ばし掛けた手を、引っ込めて。ゆらりと、微笑みが揺れる。思考が波間に揺蕩う。 「……、みた、ことが、?」 揺れる。頭を振る。わからない。

2014-08-18 00:43:24
人間《ディアドラ》 @actSkbz

何かがわかる気がした。けれど、やっぱりわからない。思考は波間に揺蕩って、揺れて、離れていって。 「……うう、」 小さく唸る。目の前にある何かがどうしても掴めない。それが哀しくて、寂しくて、ほろほろと涙が落ちる。 「赤が、──赤が、はなれちゃう、」 涙を孕んだ蒼が金を見詰めて。

2014-08-18 00:43:27
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

あたたかい、きれい。その言葉に、首を横に振る。そんなことはない。『貪欲』の目は、太陽なんかではない。両耳につけたイヤーカフと同じ色。欲の色だ。 まばたく蒼に、口を噤む。揺れる言葉を一つ一つ聞いてやる。どうしてか、そうしなければならないような気がした。

2014-08-18 01:25:11
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

己の赤が好きだと伸ばされ、触れることなく離れる手。その手を、己は——己は? 空転した思考。何かが引っかかる。しかし、それが何かが分からない。これが“記憶”とやらのせいならば、なるほど、“記憶”はよほど重要なものらしい。要る要らないに拘らないのが、腹立たしくて苛立った。

2014-08-18 01:25:20
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

ふと、唸り声がした。苦しいような、悲しいような、そんな声だった。いつの間にか伏せていた目を再度女に向ければ、蒼から幾つもの雫が零れていて。赤が、と泣くのを、どうしてか、どうしてか、苦しく思った。 「……泣くなよ」

2014-08-18 01:25:26
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

手を伸ばす。その頬に触れるのを、一瞬躊躇した。これは『敵』だと理性が言った。それでも触れ、涙を拭う。——濡れた指先が、痛む。 「お前にどんな言葉をかけたら涙を止めてやれるのか、俺は知らねぇんだ」 蒼と重なる金色は、困ったように笑った。

2014-08-18 01:25:30
人間《ディアドラ》 @actSkbz

「わた、しは、」 困らせてはいけない、と咄嗟に思った。いつものように笑わねば、と思った。──いつものように、と何故思ったのか。きっかけすら掴む事は出来ず、思考は揺蕩う。 男の指が、零れた涙を拭った。させてはいけない事だった、となぜだか、……思って。 「ごめん、なさい、」

2014-08-18 01:47:27
人間《ディアドラ》 @actSkbz

拭うものも持たず、おろおろと見回して。──その手を、力なく、両手で包み込んで。 「ごめん、なさい、」 ただ零れるばかりの涙に、その手が触れないように。俯いて、ただその手を握って。 「──ごめんなさい、」 どうしてだろう。なにも、わからないのに。言葉は勝手に放たれて。

2014-08-18 01:47:30
人間《ディアドラ》 @actSkbz

ふるりと首を振る。指先から、眠りを伝わせるでもなく。ただ胸の内に渦巻く複雑な何某かに堪えるように、ただただ、祈るように、その手を包み込んで。困ったように笑う金を、見詰めて。 「──やっぱり、あたたかくて、きれいな色」 ほろりと雫を零しながらも、口元に笑みを湛えて、そう、告げた。

2014-08-18 01:47:32
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

手が、女の両手に包まれる。謝罪の言葉が零される。何度も、繰り返される。その間にも女の目からは涙が零れ落ちて行く。女の両手が、『貪欲』の手に涙が決して触れぬようにしているように見えた。——何故? 知らない筈だ。痛む指など、その理由など、決して分からない筈だ。『貪欲』は言っていない。

2014-08-18 02:30:13
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

表情に出してもいない。だから、分かる筈もない。なのに何故、この女は、己の手を、涙から——否、水から離したのか。 祈るような両手。見つめてくる蒼。チリリと脳を焼く既視感。笑みを浮かべ、再度告げられた言葉。一つも疑わない、綺麗だと信じきっているようなその姿。 「……お前、」

2014-08-18 02:30:17
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

俺を、知っているのか。そう口から出かけた言葉を飲み込んだ。聞いたって、知ったって、仕方が無い。女は敵だ。『貪欲』の欲する物を遠ざける敵だ。過去の繋がりなど、たとえあったとしても、それがなんだと言うのか。 深く深く溜息を吐く。謝らなくていい。『貪欲』は静かにそう言った。

2014-08-18 02:30:22
人間《ディアドラ》 @actSkbz

胸が締め付けられるようだった。心がきゅう、となって、痛くて、辛くて、哀しくて、切なくて。 静かに告げられた言葉に、ふるりと首を振る。──しかし、それ以上、言葉が落ちる事はなく。 無言の間は、どれほど続いたのか。不安定はようやく、口を開く。 「……はじめて、」

2014-08-18 02:47:43
人間《ディアドラ》 @actSkbz

零れ落ちないように。曖昧になる前に。縺れそうな舌を動かして。 「はじめて、見た気が、しないの」 涙は未だ止まらず落ち続ける。ただ、男にそれが触れぬようにとしながら、肩を震わせる。 「あなたの、きれいな赤も、あたたかい金も、」 わからないわ、と。小さく、小さく呟いて。

2014-08-18 02:47:46
人間《ディアドラ》 @actSkbz

「わたしは、あなたの、敵……で。でも、わたしには、やっぱり、理由がないわ」 掴み損ねる其れの名を、揺蕩う波間の其れを、追いながらも。 「わからない、けれど……」 泣き腫らした目。ほろほろと滑り落ち、涙は白いドレスに染みを作っては消えて。 「わたしは、あなたを敵と、おもえないわ」

2014-08-18 02:47:49