【邪悪の樹】第一戦闘フェイス――第五の樹

『智の剣』陣営『貪欲』(@ToEvil_yuina) 『理の盃』陣営『不安定』(@Aiyatsbusy
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人間《ディアドラ》 @actSkbz

それだけは、わかるの。と、微笑んで、静かにそう告げた。 「不思議かしら、おかしいかしら……」 ゆらゆらと、思考の波間を漂いながら、しかし表情が揺らめく事は無く。吹いた柔らかな風に、目を伏せて。また、一滴。涙が、零れ落ちた。

2014-08-18 02:47:51
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

無言が落ちる。その間、『貪欲』は手を振り払うことが出来なかった。振り払うべきだと分かっていて、しかし手が動かなかった。話してはいけない、話しすぎてはいけない。頭が警鐘を鳴らしている。『貪欲』は、それに従うべきなのに。 女が言う。初めて見た気がしない。この髪も、この目も。

2014-08-18 03:15:19
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

そう言って女は泣く。そのくせ、敵とは思えないと、微笑んで言う。チリリと脳裏が焼ける。知らない。知る筈がない。こんな女、『貪欲』は知らない。知らなくていい。そう思考が叫ぶのに、どうやったって引っかかる。蒼い目が、零れる涙が、浮かぶ微笑が、心の何処か奥底の底に引っかかる。

2014-08-18 03:15:30
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

「……手を離せ」 引っかかって、引っ掻かれる。心の何処かが言っている。この女だ。そう叫んでいる。意味も理由も分からないのに、喚き散らして思考を叩く。 「離してくれ」 だから、『貪欲』は外を想う。己の知らない外を想う。其処にはあの屋敷では得られない幾千もの何かがある。

2014-08-18 03:15:42
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

それが『欲しい』、それを『得たい』。全てでなければ気が済まない。その全ては、この女などではないだろう? 『貪欲』は下を向き、握られていない方の手で己の顔を覆った。もうダメだ、これ以上はダメだ。理性が叫ぶ。 「お前を……殺せなくなる前に」 けれど、手を振り払うことが、出来ない。

2014-08-18 03:17:20
人間《ディアドラ》 @actSkbz

手を離せ、と男は言う。離してくれ、と繰り返す。瞬きを繰り返し面を上げる。澄み切った、青すぎる程に蒼い目が、金を見詰める。 「でも、はなしたら、」 声が震える。視線が揺れる。首を振る。握る手に力が入る。──それは微々たる力で、男であれば簡単に振り解けてしまう程度の力であったけれど。

2014-08-18 04:31:55
人間《ディアドラ》 @actSkbz

離さなきゃと思えば、思うほどに。指先が震えて、涙はドレスに染みを作り。一体何が自分をそうまで頑なにさせているのか己ですら理解出来ない。曖昧に揺れる思考の中、しゃくりあげるように肩を震わせて。 「わた、し、」 唇が震える。何を言葉として形作ればいいのか。端からほろほろと崩れ落ちて。

2014-08-18 04:40:42
人間《ディアドラ》 @actSkbz

「──、っ、ごめんなさい、」 どうしたらいいのかわからない。思考すればするほど、混ざり合って、波間に消えて、陽炎のように揺らめいて。 ぼろぼろと落ちる涙から、男の手を遠ざけて。それでも、離す事は、出来ずに。 「ごめ、ん、なさ、」 離したくない。離せない。

2014-08-18 04:45:33
人間《ディアドラ》 @actSkbz

こめかみが痛む。わからないけれどわかるような、わかるけれどわからないような。曖昧な感覚が、脳髄を刺激する。 届きそうで届かないもどかしさに、喘ぐように息を吐いて。──その様子はどこか、苦しげであり。切なげであり。 「はなれたくない、」 無意識に零れ落ちた言葉に、自身すら気付かず。

2014-08-18 04:48:39
人間《ディアドラ》 @actSkbz

「もう、ひとり、で、まつのは、」 いやなの、と。霞み消えるような声が漏れる。 頭を振る。欠片は曖昧と揺れて、陽炎のように消えて。──ただそこには、涙だけが、残って。 「……わたし、は、」 ──彼に苦しい思いをさせるくらいなら、 「まけで、いい」 絞り出すような声。涙は落ち続ける。

2014-08-18 04:52:10
人間《ディアドラ》 @actSkbz

は、と荒く息を吐く。ぐるぐると回る。思考が揺れて、何だか気分が悪い。 「わたしは、」 ──わたしは? 見えたものはすぐ消えて。浮かんだものは果てに去って。今まで自分が何を言っていたのかすら、曖昧になって。 「わたし、は……?」 首を傾ける。わからないわ、と。ちいさく、呟いた。

2014-08-18 04:56:33
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

女の手に力が篭る。どうってことない力だ。それこそ簡単に振りほどけてしまうような、弱々しい力だった。なのに、振りほどくことが出来ず。 泣き濡れて震える声に、胸が痛い。しゃくりあげる肩が、見ていられない。謝るなと、泣き止めと、そう言って抱きしめてやれるなら、どれほど楽か。

2014-08-18 10:21:01
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

涙から遠ざけるようにしているのに、それでも離されない手。女の必死な声。頭の中で誰かが叫ぶ。コイツは敵だ、呑気な間抜け!そんなんだから、お前は全部奪われた! 金の瞳が歪む。眉間に皺が寄る。赤い髪が揺れる。聞いてはいけないのだ。もうこれ以上、聞いては。分かっているのに、離せず。

2014-08-18 10:21:41
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

もう一人で待つのは嫌——悲痛な声を拾って。有りもしない記憶が叫んだような気がした。——会いたい。 どうしようもなく泣き出したくなった。負けでいいなどと言う女の肩を掴んで、揺さぶってやりたいと思った。良いわけがないだろう、分からないのか、俺の苦しみはお前の苦しみではないんだぞ!

2014-08-18 10:22:49
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

そう泣いて、喚いて、怒鳴って、当たり散らして、何もかもを投げ出したいとすら思った。それをしなかったのは単に『貪欲』に涙が無いからだ。前髪の下、とうに癒えた火傷痕が、激しく痛むような心地がした。 揺れる。思考が揺れる。頭が痛い。何かが引っかかって、訳も分からぬまま引き裂かれて行く。

2014-08-18 10:23:13
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

何かが浮かびそうで、掴めそうで、しかし消えていくのに、感情だけが引き摺られて泣き喚いて怒鳴っている。訳の分からぬ情動だ。気持ち悪い。鬱陶しい。馬鹿馬鹿しい。混濁する頭の中、何処か冷静な自分が言った。——既に失くしたものだろう?

2014-08-18 10:24:08
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

俯いて、目を閉じて。溜息を、吐き出して。再び曖昧になった女に、『貪欲』は全ての情動を打ち捨てた。 「選べ」 感情を見せない、硬い声だった。 「此処で俺に殺されるか——俺と来るか」 金の眼光が、睨むように鋭い。 「選べ、女」 『貪欲』は、遂に手を振り払った。

2014-08-18 10:24:25
人間《ディアドラ》 @actSkbz

「わたし、は……」 振り払われた両手は、所在なさげにしながら空を掴む。──嫌だ。この曖昧は、受け入れたくない。霞む。ぼやける。ふる、と頭を振って。 「わたしが……選ぶ、」 蒼が、二度、瞬きを繰り返して。 「……わたしは、」 切なげに、喘ぐような、声。震える肩。

2014-08-18 19:06:20
人間《ディアドラ》 @actSkbz

「……わたしは、」 靄がかった思考。曖昧と揺蕩う。──だけれど、考える必要なんて、きっと無かった。何かを思う前に、何かを考える前に。何故だか、答えは出ていた。 「──あなたと、いきたい」 胸元で、強く握った手。まるで、それは祈りのような。潤む蒼は、鋭い金を真っ直ぐ、見つめ返して。

2014-08-18 19:06:45
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

答えを聞き、『貪欲』は立ち上がった。切なげな声も、震える肩も、潤む瞳も。掻き毟りたくなるようなざわめきも。もはや気にすることではない。彼は、思い出せもしない過去の『誰か』ではないのだ。彼は彼だ。『貪欲』という『邪悪』だ。欲しいのはこの女ではない。この女の先に在るものだ。

2014-08-18 20:34:49
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

『貪欲』は、女を睨みつけたまま、言う。 「お前が『理の盃』に戻れることは二度とない。戻ろうとすれば、俺はお前を殺す。俺と来るってことは、そういうことだ」 深く息を吸い、吐き出して。 「それでも、お前は俺の手を取れるのか」 『貪欲』は右手を差し出した。

2014-08-18 20:34:52
人間《ディアドラ》 @actSkbz

不安定は、何を躊躇する事なく、何に迷う事無く、差し出された手に触れる。 何かを言おうとして、それよりも動いた方が早いかと口を噤み。男の指先を握り込むように、握って。 「わたしは、」 ──どの言葉が適切だろうか。蒼を瞬かせ、思考を揺らしながら、一瞬、目を伏せて。

2014-08-18 23:25:20
人間《ディアドラ》 @actSkbz

「──すきに、して」 こくりと、頷きを交えてそう告げ、顔を上げる。金を真っ直ぐに見詰めて。──何が正しいのかわかる事など恐らく無い。ただ、不安定は不安定の中にある安定を求める何かに基づいて、言葉を零す。本来の真意すら、すぐに曖昧に紛れてしまうけれど。

2014-08-18 23:25:22
人間《ディアドラ》 @actSkbz

「わたしは、あなたのそばにいたい」 落ちる前に掬う。波間に消えてしまう前に形にする。 「もう、はなれるのは、いや」 ふるりと首を振る。どうしてそんな言葉が己から出るのか考える余裕は無い。 「だから、──だいじょうぶ」 あなたのそばにいる時だけ、わたしはわたしであれる。

2014-08-18 23:25:24
人間《ディアドラ》 @actSkbz

唇から零れ落ちる言葉を思考する余裕など、不安定には無い。そも、言葉の真意を自身で読み解けるほど安定もしていない。それでも。 ──それでも、きっと、これが言いたかった言葉なのだろう、と。半ば確信めいた何かを感じながら。確かな微笑みを、向けた。

2014-08-18 23:25:29