【逆行荒北 番外編】雨の中で

弱虫ペダルの二次小説 そういうあからさまな描写はありませんが、腐向けなのでご注意ください。 ねこぜさんはぴばリクで逆行荒北番外編で荒北と巻島の出会い 時間軸は、本編14の後あたり
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ひな@復旧中 @newgibbousmoon

ねこぜさんはぴばリク ただ一度の永遠から巻島と荒北 たとえば、運が悪い時というのはとことんまで悪いものなのだ、と巻島は思う。 (ったく、ついてねえなぁ) 最初から今日はケチがついていた。 (クソ兄貴がドタキャンしやがるし!) 一緒に出かけるはずだった兄に約束をキャンセルされた。

2014-08-21 22:16:04
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 秋物を物色しながらいろいろ買ってもらう予定だったのだが、スポンサーがいなければ無意味だ。 中学生の小遣いではとてもじゃないが、巻島がいつも買うようなものは手が出ない。 なので予定を変更し、サイクリングに行くことにした。 いつもとは違うコースを選ぶ

2014-08-21 22:24:14
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon それが間違いの元だった。 (まさか、パンクするとは) それも、下り部分だったせいで軽い落車もした。 幸い、コケた程度で済んだが、足をおおきくすりむいた。 (こんな日に限って何も準備しなかったんだよな) 思い付きだったせいでいろいろと準備が不十分だ

2014-08-21 22:42:29
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「しかも、天気まで崩れてくるし……」 あれほど青く澄んでいた空は、今や重苦しい灰色の雲に覆われている。 これで雨でも降り出したらシャレにならない。 (楽しい週末になるはずだったのにな……) 巻島に甘い兄が新しい自転車を見に行こう言っていたのだ。

2014-08-21 23:35:03
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 今乗っているこのTIMEはそろそろサイズが合わなくなってきている。 妹が欲しがっていることもあり、新しいのを買ってやるから譲ってやれといわれていた。 新しい自転車を選ぶなんて、最高に楽しい時間の一つに違いない。 しかもスポンサー付だ。

2014-08-21 23:41:55
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 服を見たいというのも嘘ではなかったけれど、一番の目的は自転車だった。 「無茶、させちまったな」 乗らないでひいているTIMEは、黒地に白と赤のロゴ入り。あちらこちらに小さな傷はあるがめだったものはなく、状態も良好だ。 巻島の最初の相棒である。

2014-08-21 23:47:02
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 乱暴に乗って悪かった、と思いながら、サドルをそっとなでる。 (とりあえず、麓まで下るか) 怒りのあまり、めちゃくちゃに走ってきたのでここがどこなのかすらよくわかっていない。 それでも、山を目指して走るのが巻島の巻島たるゆえんだろう。

2014-08-21 23:51:59
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon (たぶん、オレは、クライマーってやつっショ) 山を登るのが好きなのだ。 登りが好きだなんていえば、知らないやつには変人扱いされるが、ロードレーサーならば簡単に納得してもらえるだろう。 (下まで乗っていっちまうか……いや、やっぱやめよう)

2014-08-21 23:55:34
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon パンクといっても前輪だけ。だましだまし乗れないこともないが、そのせいでホイールが歪んだりしたら笑えない。 巻島は新しい自転車を手に入れるからいいとしても、このTIMEは妹のものになるのだ。 変なクセはつけたくないし、きれいにして渡してやりたい。

2014-08-21 23:59:18
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 登ってきた山道を半分ほど下ったところで雨がぱらつきはじめる。 「……最悪っしょ」 (運が悪い日っつーのはトコトン、運が悪いんだな) そういえば、今日の朝のテレビの占いは、最下位だった、と巻島は思い出す。ここまでついていないといっそすがすがしい。

2014-08-22 00:06:00
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon (この鬱憤は、買い物で晴らす!) もちろん、スポンサーは兄である。 これはもう問答無用で決定だ。もちろん、兄に断る権利などあるはずがない。 (そん時は、梨奈もつれてってやろう) 巻島とですら8歳離れている兄は、妹の梨奈とは12歳離れている。

2014-08-22 00:12:39
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 年が離れていることと、『妹』をどう扱っていいかわからないということで、兄の裕一と梨奈の間は、巻島とほどは近くない。二人きりにしておくと、無言のままで終ることもあるくらいだ。 そして、梨奈は、スポンサー付の買い物に大喜びするに違いなかった。

2014-08-22 00:18:05
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「……ってか、楽しい想像してても全然気は晴れねえから!!」 吼えるその声すら、天から叩きつけるように降る雨のその音にかき消される。 幸い気温が高かったせいで、濡れてもそれほど体温は奪われていないが、このまま降り続けるとちょっとやばいだろう。

2014-08-22 00:22:40
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「……あ……」 白くかすむ視界。 雨に覆われた世界の片隅に、ぽつんと立つバス停……その傍らに屋根付の待合所がった。 「助かった……」 天気予報では雨だなんていっていなかったから、おそらくは今流行りのゲリラ豪雨というやつなのだろう。

2014-08-22 00:26:16
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 古びた待合所に早足で駆け込むと、そこには先客がいた。 「……ども」 「どうも」 互いに軽く頭をさげる。 (大学生かな?) 巻島と同じく、かたわらには自転車がある 「……ビアンキのルナ?」 「そ。……そっちはTIMEだろ。イイ自転車乗ってんな」

2014-08-22 00:30:50
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「そっちもな。初のフルカーボンだろ?それ。雑誌で見た」 「うん。すっげえ軽い。輪行すんのもすげえ楽」 「へえ」 クラスではあまり……というか、まったく積極性がなくて、根暗だとか言われている巻島だったが、自転車のことならば普通に会話が弾む。

2014-08-22 00:37:40
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 巻島がくしゅっと小さくくしゃみをすると、ほら、とタオルが投げつけられた。 「やるよ。その濡れっぷりじゃ役に立つかわからんけど。髪だけでも拭いとけよ」 「……いや、でも……」 「そもそも、それ、年始挨拶用のいただきもののタオルだから」

2014-08-22 00:44:48
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon マジ気にするな、と言われて、巻島はありがたくそのタオルに手を伸ばした。 「じゃあ、遠慮なく」 「おう。着替えとか貸してやれればよかったんだけど、予備はなくてさ」 「いや、大丈夫っしょ。そっち、濡れなかったのか?」 「まさか。レーパンまで濡れた」

2014-08-22 00:50:31
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 着替えた、と事も無げにいう。 「ここで?」 「そ。そこのベンチのカゲで。……車どころか、人も通らなかったし」 「度胸あるな」 「そうか?」 巻島にそんな勇気はない。 「……ところで、ここ、どこかわかるか?」

2014-08-22 00:56:01
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「佐倉のゴルフ場近くの山ん中」 「……なんだ、まだ市内か」 「地元民?」 「一応は」 「なのに迷子?」 「迷子ってか……知らねえ場所だけど、別に帰れるっしょ」 「本当に?」 巻島の言葉に、目の前の相手は軽く首をかしげて疑問を示す。 「とーぜん」

2014-08-22 01:14:58
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「そっちは?」 「あー、オレはサイクリング」 「どこから?」 「横浜」 「え?」 「たいした距離じゃねえよ」 そう言ってサイコンをのぞく。 「80キロ切ってんもん。これくらいなら別にたいしたことないだろ」 「……そうなのか?」 「ああ」

2014-08-22 01:19:17
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon あまりにもあっさりとした口ぶりで言われると、そうなのか、としか思えないのが不思議だった。 「帰りは、面倒だったら輪行しちまえばいいんだし」 「いや、どうだけど」 けれど、目の前の相手は走って帰るんだろうな、と巻島は何となく思った。

2014-08-22 01:22:04
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon はずむ、というほどではないが、会話は途切れることなく続く。 それは、不思議と心地よい時間だった。 待合所から一歩でれば、叩きつける雨が路面を白く染めるほどの大雨だ。 (まるで雨に閉じ込められているみたいに) 「何か雨に閉じ込められてるみたいだ」

2014-08-22 01:30:06
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon ドキリと心臓がはねた。 (……同じこと、思った) 「ん?」 「いや、何でもないんだ。いや、ないっていうか……あるっていうか……あ、そうだ。名前、名前聞いてない」 あせった巻島は、強引に話題をかえる。 「オレ?」 「そう」 「靖友」 「裕介」

2014-08-22 01:33:32
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「ふうん、よろしく、裕介」 「こちらこそ」 靖友、と口に出そうとして、なぜか口にできなかった。 (べ、別に照れてるわけじゃないっしょ) 「裕介?」 「なんでもないっしょ」 挙動不審な巻島に、靖友と名乗った相手は軽く首を傾げた。

2014-08-22 01:38:11