ほむほむなアーチャーまとめ

Fateのアーチャー(ガングロの方)を、まどマギの叛逆にパロったよ
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戚 泰継 @isyutamu

やがて切嗣は願いを決めた。ほんの少し優しい世界をやはり彼は望んだ。それによりほんの少し男もまた救われた。でも切嗣の存在は永遠に世界から弾き飛ばされた。男は残るのに、彼は生まれてすらいない。こんな事を願ったわけじゃなかった。こんな結末の為に這いずったわけじゃない。魂は濁り続ける。

2014-08-26 23:04:14
戚 泰継 @isyutamu

それでも魔族にならず黒く成り果てずに消えゆく未来をくれた彼に感謝した。たとえ自分の願いは叶わなくても彼の願いは叶ったのだと、納得した筈だった。しかし男は夢を見る。影が無力になった筈の世界で、彼と共に過ごす夢を。失われた全ての英霊が揃って悪夢を拭う戦いの夢を。そこは暖かく歪であった

2014-08-26 23:06:36
戚 泰継 @isyutamu

居ない筈の存在。倒した筈の悪夢が友となり蘇り、違和感は軋む。それでも男は幸せだった。彼が居た。二度と会えない筈の彼がそこに。己は無力な存在に逆戻りしても、それでも彼が居た。影は揺らめくだけで男には見えない。彼が居た。幸せの再開だった。違和感が悪霊を模っていたとしても幸せだった。

2014-08-26 23:08:47
戚 泰継 @isyutamu

男は幸せの中で違和感に気付いてしまう。幸せを壊す謎に触れればこの夢は終わるかもしれない。それでもかつての彼の願いの為に、男は悪夢へ手を伸ばす。「聞いてほしい事がある」英霊を一人道連れに、世界の外へ探りを入れた。ここは袋小路だと知らしめる為に。誰にでもなく、自分自身を追い詰める為。

2014-08-26 23:11:10
戚 泰継 @isyutamu

道連れの英霊は驚愕と嫌悪を持って男の懸念を理解した。これはヤバい何かが起きている。無理はするな、一緒に調べよう。手分けして綻びを辿る最中、男は彼と鉢合わせた。そこでふと吐露した弱音に、彼は微笑んだ。幸せを崩すのが怖いなら、そのままでもいいんだよ。誰だって不幸は怖いさ。僕だって。

2014-08-26 23:13:14
戚 泰継 @isyutamu

不幸は怖いかと男は尋ねる。彼は頷いた。孤独も恐ろしいかと彼は訪ねる。彼は首肯した。一人は寂しいかと男は聞く。彼は応えた。「僕は弱い人間だから、きっとガタガタ震えちゃうだろうね」そうか、と男は呟いた。貴方は怖かったのに、それでも選んだのか。誰の心からも世界からも消える選択肢を。

2014-08-26 23:15:06
戚 泰継 @isyutamu

男は歩き出した。道連れの男に連絡を入れる。答えはすぐそこにあったのだと。最初からおかしかったのだと。道連れは叫ぶ。今どこにいる!男は続ける。前提がおかしい。この世界がおかしいのにそれに気づくこともおかしかった。狂気を狂気と知れる事こそ、狂った世界では狂気そのものではないか。

2014-08-26 23:17:16
戚 泰継 @isyutamu

魂の形を取り出し、口元へ寄せる。私だけが知っていた筈の歪み。歪みの中では気づかない筈のものに気付いた私は、では一体何だったのか。魂は淀んでいる。真っ黒に、ヘドロの様な虹を浮かべて。何をしている!電話を切る。さあ検証だ。今からこの乗り物を爆破しよう。吹き飛んだ後に真実が残る筈だから

2014-08-26 23:19:56
戚 泰継 @isyutamu

そして何もかもが吹き飛んで、男もまた千切れた。その筈なのに、魂は壊れたままそこにあった。既に英霊の形を成していないそれを前に男は膝をつく。何故だ。いつの間に私は魔族に成り果てていたのか。彼が消し去った筈の存在に何故……。男の目からは網の目の様な血涙が零れ落ち、輪郭が歪んでいく。

2014-08-26 23:22:32
戚 泰継 @isyutamu

やがて現れた怪物は、処刑台へと至る死刑囚。両手を重い鎖で括られ、首を垂れて粛々と刑場へ向かう。その全てを影が見ていた。失われた彼の存在を認識し再び取り込む為に。男はいつしかモルモットへ成り果てていた。それと知って男だったバケモノは全てを諦める。呪いを更に重ね誰も来ないうちに決着を

2014-08-26 23:25:26
戚 泰継 @isyutamu

影は焦った。自己消滅を早められては困るのだ。観測して彼を捕えねばこの実験の意味はなくなる。思いとどまるよう彼の姿をまねて影は諭した。男は更に激怒し呪いは濃くなる。全て滅べばいいのだ。あの人の手を煩わせる前に、全てを!だがその前に英霊が立ち塞がる。男の泡沫の夢に沈んだ英霊たちが。

2014-08-26 23:28:26
戚 泰継 @isyutamu

お互いに馴れ合いながら死に行く怪物を止めようと、英霊は駆け出した。全てを悲劇にするには早すぎる。男はもっと救われるだけのことをした筈だと。呪いは綻びて処刑を待つ偶像は崩れ囚人服を着た男が露出する。影の監視の全てを、再び現れた彼と共に打ち壊した。まだ何も終わっていないよ、と彼は言う

2014-08-26 23:31:48
戚 泰継 @isyutamu

やがて概念の彼が迎えに来た。もう頑張らなくていいんだよ、よく頑張ったねと手が伸ばされる。男は微笑んだ。彼の手を取り、抱き寄せる。そして男は爪を立てた。英霊達がざわめくのを余所に、硬直する概念の端末から無理やり彼を引きずり出して引き千切った。余った部分は綺麗に再利用する為に丸呑みだ

2014-08-26 23:33:53
戚 泰継 @isyutamu

そして世界はひっくり返る。今度は彼の願いではなく、男の願いの為だけに。少し世界を弄くろう。動揺する影すらも必要な駒として今度はこちらが飼い慣らす。超越者を気取る意識集合体など、所詮人の意識に踊らされる道化でしかないのだと嘲笑う男は、怪物から今度は悪魔に成り果てたのだった。

2014-08-26 23:36:04
戚 泰継 @isyutamu

彼は一人は怖いと言った。寂しいと嘆いていた。恐ろしいと震えていた。だから彼を孤独にする世界などいらない。彼を暖かく包む世界さえあればいい。他は要らないのだ。悪魔は嗤う。たとえそこに彼の願いがなくとも、彼の幸せはそこにある。だって誰も悲しまない。誰も恐れない。幸福の為の不幸だった。

2014-08-26 23:39:32
戚 泰継 @isyutamu

男の魂は歪む。男の物ではない力を無理やりに受け入れた為だった。無理を押し通す為には代償が必要だった。ほんの僅かに記憶を留めていた英霊は男を咎めた。お前は何という罪を犯したのだと。男は哂う。では一体これで誰が不幸になったのだ?と。彼もお前も皆も幸せではないかと男はカップを傾けた。

2014-08-26 23:41:46
戚 泰継 @isyutamu

お前の気掛かりだった知人達もちゃんとこの世界に居て、お前は死なずにその傍に居られる。死ぬ筈だった人々も生きて居る。いつかは死ぬだろうが、それは当たり前の事だ。私がしたことはそんなに大それたことか?男の目は死んでいた。本当はもうあまり見えないのだ。あんなに目がいい事が自慢だったのに

2014-08-26 23:43:41
戚 泰継 @isyutamu

切嗣はこれを望んでなどいなかったと英霊は言う。そうだろうか?男は首を傾げた。あの人は怖いと寂しいと恐ろしいと言っていた。だったらその痩せ我慢、その犠牲、無為になっても幸福を手放さないで欲しいと思うのは、そんなに傲慢だったろうか。英霊は口ごもる。記憶が歪む。ここは男の世界だった。

2014-08-26 23:45:07
戚 泰継 @isyutamu

君もこの世界を堪能するといい。きっと気に入ると男は微笑んだ。英霊の戸惑うような姿も目に映らない。狼狽した顔が見れないのは少し勿体なかったかな、と男は紅茶を飲み干した。やがて彼が戻ってくる。初めまして、衛宮切嗣です。君が■■君かな?今日からよろしくね。伸びた手が懐かしく肩を叩いた。

2014-08-26 23:47:49
戚 泰継 @isyutamu

男は笑んだ。彼は戸惑う。何か思い出しそうになる度に、男は彼の目を塞いだ。耳を両手で覆った。「僕は、何か大事な事を」気のせいだよ切嗣。そんなものは何もない。概念なんかなかったんだよ。それはもう君とは関係ない。貴方は自由だ。この箱庭でただの人間としての幸せを楽しんで?

2014-08-26 23:50:35
戚 泰継 @isyutamu

概念なんて生贄にならなくても、他にいくらでも当てはあるんだ。家族に囲まれて振り回されて疲れ果てながら幸せだろう彼の背中を見つめて男は目を閉じた。いくらだって生贄になる。あの人が幸せになってくれるなら。今も時々思い出した英霊が物言いたげに睨んでくるが、その視線ももう気にならない。

2014-08-26 23:52:11
戚 泰継 @isyutamu

どんなに魂が壊れても、貴方の願いを叶えよう。 ここは夢幻の果てと無限の血潮で築いた箱庭。 何度でも何度でも私は処刑台に上がるだろう。 自己完結の化け物は、そうして削れる魂の音を聞きながら彼へ背を向けた。 神様のような概念の力を奪い取って好き勝手にする存在は、もはや敵なのだろうから

2014-08-26 23:55:01
戚 泰継 @isyutamu

そして箱庭は綴じられる。 幾重もの運命を束ねて、悲劇を糧に車輪は廻っていく。 ここは自己完結の悪魔の世界。 神様だって逃がさない。

2014-08-26 23:57:29
戚 泰継 @isyutamu

というまどマギパロでしたー。はー長かった。

2014-08-26 23:57:45