1943 ザ・バトル・フォア・ミッドウェイ #3

ヤンデレvsヤンデレと某所で言われたが、どっちかっていうと頭のアレな子vs頭のアレな子って言ったほうが正しい
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劉度 @arther456

伊豆大島、北岸洋上。とうの昔に住民たちは本土に疎開し、何年も打ち棄てられた廃港にて。「ぷぇぷぇぷぇーい」なんとも気の抜ける声とともに、上空にメッサーシュミットが射出される。西国の使い魔を操るのは、33地区で居候している港湾棲姫であった。つまり、深海棲艦である。 22

2014-08-30 21:47:58
劉度 @arther456

魔法陣もなければ甲板すらない。それでも港湾棲姫は悠々と陸上戦闘機を操っている。それが姫と大地の名を冠した実力であった。「安眠妨害……病んどる場合か……」更に言うと、二度寝と昼寝を空襲警報に邪魔されて、大分機嫌が悪くなっていた。 23

2014-08-30 21:51:11
劉度 @arther456

「ほえー……」港湾棲姫の横では、北方棲姫が次々撃ち出される式神を見上げている。「おねえちゃんおねえちゃん」と、北方棲姫は港湾棲姫に向き直って、言った。「私もそれ欲しい!」「うるせえスツーカでも食ってろ」ぺちん、と北方棲姫の顔にスツーカが投げつけられた。 24

2014-08-30 21:54:29
劉度 @arther456

「ぷぇぷぇぷぇーい!ぶんぶーん!」新型のBf109ではなく、前から日本でも使われている式神だが、北方棲姫にとっては飛ばせればなんでもよいのだろう。すぐにスツーカで遊び始めた。「これでよし」呟いた港湾棲姫の頭上の空を、B-29たちが通り過ぎていった。「あっ」 25

2014-08-30 21:57:57
劉度 @arther456

「だああああ!やられた!爆撃機30ぐらい、突破されちゃったよ!」飛燕で後を追っていた隼鷹が悲鳴を上げた。Bf109の参戦により直掩機は倒せたものの、やはり肝心のB-29の数が多すぎた。屠龍も精一杯、いや、限界以上の働きを見せているが、それでも撃ち漏らしは出てくる。 27

2014-08-30 22:01:38
劉度 @arther456

そして屠龍よりもB-29の方が、スピードは速い。一度逃げられたら追いつくことはできなかった。隼鷹の飛燕が必死に追いかけるものの、B-29の弾幕は厚く、その上飛燕の20mm機関砲では力不足。「やっぱあの子じゃダメか!」港湾棲姫が何とかしてくれると思っていたのが馬鹿だった。 28

2014-08-30 22:04:56
劉度 @arther456

リンクした飛燕の視界の隅で、海上の港湾棲姫が式神を離陸させるのが見えた。しかし遅い。加速している間にB-29を見失ってしまうだろう。「私がやるしかないのかねえ!」飛燕に鞭打つ。本土の防空網はアテに出来ない。式神が飛べる限界一杯まで追い込む、そう決意した矢先に通信が入った。 29

2014-08-30 22:08:13
劉度 @arther456

『隼鷹、聞こえているか?』声の主は、ドイツ東方艦隊元帥、ゲルト・ホラニアであった。「なによぅ、ホラニアのおっさん!今忙しいんだよう!」『航空隊をそこから動かせ。加速の邪魔になる』「……何、こっちの様子見えてんの?」『無人偵察機を飛ばしている』 30

2014-08-30 22:11:30
劉度 @arther456

飛燕の後ろを確認すると、確かに小さな無人機械が飛んでいた。「何、あれを突っ込ませるの?」『違う。港湾棲姫の式神が先行する』「先行って……何言ってんの。さっきのメッサーだって、私の飛燕と同じぐらいの速さでしょ?どうやって先行するつもり?」 31

2014-08-30 22:14:57
劉度 @arther456

『ヒエン?』「そうそう。空飛ぶツバメって意味よ」『ああ、シュヴァルベか。なら気をつけろ』通信機の向こうで、ホラニアがニヤリと笑った気がした。「ドイツのツバメは、ジェットで飛ぶぞ」 32

2014-08-30 22:18:16
劉度 @arther456

ゴゥッ!突如、飛燕の頭上を何かが高速で通り過ぎていった。「はぁ!?」飛燕は時速600km程度で飛んでいる。それを一瞬で追い越すとなれば、時速800kmは必要だ。高速の影は瞬く間に敵に喰らいつく。機銃の火線が影を追うが早すぎて捉えられない。逆に影の機銃でB-29は爆散! 33

2014-08-30 22:21:35
劉度 @arther456

『ハッハァ!今度こそ302機目だ!』豪快な笑い声が聞こえた。あの影、いや、式神に乗った妖精さんのものだ。『驚かせてすまない、フロイライン』『あの人スピード狂だからなあ』『ジェット戦闘機での防空戦闘。念願叶ったり、か。行くぞ!』通信と共に、次々と飛燕が追い抜かされていく。 34

2014-08-30 22:24:52
劉度 @arther456

ようやく隼鷹の目が速さに慣れてきた。信じたくないが、あれはやはり航空機の式神だ。魚雷の先を尖らせたような胴体に、緩いV字型の翼、その下にエンジンがある。双発戦闘機かと思いきや、プロペラがついていない!『ジェット戦闘機だ』隼鷹の疑問に答えたのは、ホラニアだった。 35

2014-08-30 22:31:54
劉度 @arther456

『メッサーシュミットMe262"シュヴァルベ"。30mm機関砲とロケットランチャーを搭載し、高度一万一千mまで上昇可能。そして最高速度は時速870km。我が国がかつて作り上げた、世界初のジェット戦闘機だよ』「……それ、式神にして空母に積もうとしてたの?」『うむ』無茶な話だ。 36

2014-08-30 22:35:12
劉度 @arther456

ドイツのツバメ達は、みるみるうちに爆撃機を落としていった。『この空域は、我々第44戦闘団に任せてくれ!そちらは屠龍の直掩を頼む!亜也虎が降りてきてるぞ!』「えっ、マジ!?」慌てて飛燕から視線を戻して、自分の目で見てみると、確かにあの巨人機が降下してくるところだった。 37

2014-08-30 22:38:28
劉度 @arther456

「ワレ、敵艦隊発見セリ。コレヨリ攻撃ニウツル」亜也虎と、その周りのB-29の爆弾投下槽が開く。一機あたりの爆弾搭載量は9トン。上空のB-29の数は、およそ百。900トンの爆弾が容赦なく投下される。地上、あるいは海上に展開していた艦娘たちは、慌てて逃げていく。 39

2014-08-30 22:41:58
劉度 @arther456

猛爆撃が始まった。民家が、ビルが、学校が、炸裂する爆弾で次々と崩れていく。高高度からの爆撃であるため、一ヶ所に爆弾が集中するということはないが、代わりに爆撃範囲は島全域に及んだ。陸上だけではない。海上の横須賀艦隊やドイツ艦隊も、容赦の無い爆撃を受けた。 40

2014-08-30 22:45:19
劉度 @arther456

素朴ながらも美しい町並みは、一瞬で廃墟と化した。だが、爆撃の真の恐ろしさはここからだった。廃墟から次々と火の手が上がる。爆発し、建物を粉砕するのではなく、燃え上がり、町を焼き尽くすことを目的とした焼夷弾が始動したのだ。黒煙が渦を巻き、ますます大きくなっていく。 41

2014-08-30 22:48:39
劉度 @arther456

「沈め……沈め……!火の塊となって、沈んでしまえ!」燃え上がる都市を眼下にして、空母棲鬼は歯をむき出して笑う。「これが一航戦だ!これが連合艦隊だ!私たちは負けていない!私たちは弱くない!アハハハハ!」その笑いが、ガクンと途切れる。「加賀さん。慢心してはだめよ」 42

2014-08-30 22:52:04
劉度 @arther456

空母棲姫が窘める。「ごめんなさい、赤城さん」「……周辺部隊は?」「鎧袖一触よ、心配いらないわ」「上々ね」空母棲姫の目は燃える島を満足気に見渡してから、一点を睨み据えた。「でも、生き残りは少し厄介ね」「そうね。……必ず、倒してみせるわ。一航戦の誇りにかけて」 43

2014-08-30 22:55:28
劉度 @arther456

「一航戦、一航戦と、まだそんなことに拘っているのですか?」炎で巻き上がった風と、空母棲鬼と空母棲姫の視線を受けて、グラウンドに平然と立つ人影がある。銀髪をなびかせて、薄ら笑いすら浮かべている彼女の名は、翔鶴。「たった一度の負けすら認められないなんて、かわいそうな人たち」 44

2014-08-30 22:58:46
劉度 @arther456

「私たちは負けていない」空母棲鬼の目が剣呑な光を帯びる。「いいえ、負けましたよ。何度も何度も」対する翔鶴の目はどこまでも穏やかだが、光がない。「ソロモンで、南太平洋で、マリアナで、レイテで。瑞鶴は何度も何度も戦って、傷ついて、火に呑まれて沈んでいったんです」 45

2014-08-30 23:02:02