フラグゲーム(第二軸章)
- momizitou_5
- 1263
- 0
- 0
- 0
路地を抜けた先の明るいエリアに、極彩色のシャツを揺らしながら男が嗤った。「ンっの野郎!!」激昂した奈美が飛びかかろうとする。しかし、謎の男はそれよりも早く飛び退き、逆立ちまでしてみせた。「ふざけやがって!!」フォーワードも応戦を試みるが、遅すぎた。「残念だったね。また来世ー!」
2014-09-01 19:57:41「どう、しよ」奈美がガチガチと震えだす。「とりあえず落ち着け」宥めるフォーワードも、内心恐怖に支配されかかっていた。フラグを立てられた。「なんで、こん、な、うぇ」狼狽がおさまらない奈美をフォーワードがなんとか立たせる。「ブレイカー探すしかないな」薄くとも望みは望み。探すしかない。
2014-09-01 20:03:16「呼ばれた気がした!!!」「いや絶対お前ちゃうわ!!!」「杏仁豆腐おいしいです」かのん、ジョン、床代はすっかり最初の中華料理店に入り浸っていた。奥の畳席で仮眠もとれる上に、軽食からデザートまで頼めるこの店から出ようという気にはならなかったのだ。もうすっかり住民となりつつある。
2014-09-01 20:10:39誰も襲撃してこないあたりを見ると、ピッカーの数はそんなに多くないだろう。と三人は踏んでいた。「ずっと籠城してるのもアレな気がしなくもないですが」床代が言った。「命かかってるんだからこのぐらい身長でいいだろ」すっかりお気に入りになったワンタン麺をはふはふと食べながらジョンが答える。
2014-09-01 20:15:00「まあ籠ってても外が全滅してくれれば俺らの勝利は確定的に明らか!!」かのんがゴマ団子を咀嚼しながら叫ぶ。「せめて口閉じて喋ってくださいよゴマ飛んできたじゃないですか」「床代氏が無茶振りするー!」「ワロスwwwwww」悪ふざけが出来るほどに打ち解けた彼らの元にも、アナウンスは響く。
2014-09-01 20:20:57「また死にましたか」いろおにが朝食代わりのチーズマドレーヌをかじりながら呟く。「あ、椛刀さんも食べます」「もらうわ、腹減った」焼き菓子を受け取りながら椛刀が呟く。「おまえ、気づいてたか?」「あれのことですか?」指さす方向には、朝日に照らされた死体達があった。「一本、増えてますね」
2014-09-01 20:31:15同じ色のフラグ。つまり同一犯の被害者だ。「今なら明るいし調べられそうですけど、どうします?」このまま籠っているのも悪くは無いが、手掛かりがあるなら手に入れておきたい。「……行くか」路地裏とはいえ一本道、襲ってくる者がいればすぐ対応できるだろう。「行きますか」いろおにも立ち上がる。
2014-09-01 20:36:51死体につられて路地裏入ってきた少女を、ベランダ仮面は名前の通りベランダから狙っていた。オブザーバーには悪いが、ピッカーの勝利条件が他二種の殲滅である以上彼女も殺さねばならない。せめて静かに死なせてやろう。排水管づたいに降り、ひっそりと手の内に旗を隠して少女に近づき、手を伸ばした。
2014-09-01 20:45:40突然金属音が鳴り響く。思わず手を止めたベランダ仮面は、目の前の少女がただならぬ気配を漂わせながら振り向き構えたことに気づくまで数秒を要した。その間に。「自分のフラグで死ぬがいいですよ、黄緑変態仮面」ナイフを持った暴漢に対して行う、関節を叩き折り、手のひらを相手の胸に押しつける技。
2014-09-01 22:18:13続けざまに走り寄ってきた男が、鉄パイプでベランダ仮面のひざ裏を殴りつける。「ぎ……ッ!」このままではフラグ以前に殴り殺されかねない。椛刀が振り上げた鉄パイプをかわし、そのまま走り去る。「追いかけるか?」椛刀が訊く。「フラグ返ししましたから、ほっといても死にますよ」いろおにが返す。
2014-09-01 22:27:26残されたのは、生存者が二名と死体がふたつ。「うまいこといきましたね」いろおにがポケットからダックワーズを取り出して食べ始める。「どんだけ焼き菓子持ってるんだお前は」「食べます?」「いらんわアホ」まだ腐敗も始まらない死体に、一応手を合わせておく。「では、仏さんの所持品拝借っと」
2014-09-01 22:32:02中華料理店にプレイヤーの女が入ってきた。しかもほとんど発狂状態だった。「わーお」かのんが感嘆の声を漏らす。「ピッカーがピッキングされたのか。可哀相に」かのんの記憶が正しければ、確か彼女はジョンが街外れの地点で見た、いの一番に仲間と結託して男を殺害した緑フラグの女だったはずだ。
2014-09-01 22:40:51「あああああ私が、私があああふぉわさああああいやだしぬのやだああああああああ!!!!!!」それにつけても見事な発狂である。そしてやかましい。ので。「ぬんッ!」「げうっ」かのんの独断で彼女には気絶してもらう事にした。ついでに手足を縛っておく。「ふー。さて、どうしたもんかな」
2014-09-01 22:45:41「どうしたもこうしたもないですよ」ふわぁ、とあくびを漏らしながら床代が言った。「あらー起きちゃったか」「あんだけ騒いでたら起きますって」頭を掻きながら床に転がる奈美を見やる。「折ってやります?」「悩ましいとこだな」放っておいても死ぬ、だがフラグブレイクは見知らぬピッカー殺害法だ。
2014-09-01 22:52:11「彼女が起きるまで保留にしときますか」床代が言った。「ちなみにフラグは?」「右肩ちょい後ろだな」「背後からやられましたか、よほど油断してたんですね」「おおかた、仲のいい友達がやられたんだろ。よほどダメージでかかったんだろうな」かのんが奈美の頭をなでる。「しばらく休んでいくといい」
2014-09-01 22:57:32自分はフラグの扱いには長けているほうだ。ジクジクと痛む脚にテーピングを施しながらベランダ仮面は反芻する。決して早くは無い逃げ脚を捕らえることはしなかったあたり、少女は自分にフラグが刺さっていると思っているようだった。(若い子は甘いよね)自分のフラグの方向性くらい自分で定められる。
2014-09-01 23:03:00(残念だけど、ぼくにフラグは刺さってないよ)ぎちりとテーピングを巻き終える。ある程度訓練を積んだピッカーはフラグの対象をあらかじめ設定できる。ベランダ仮面の経験上は、そういうことになっていた。少女を対象にしたフラグは自分に刺しても効果は無い。事実、自分の胸には黄緑の旗はなかった。
2014-09-01 23:07:56昼間の路地裏に見つけた死角で、休憩をとる。ベランダ仮面は、目もくらむような賞金よりも、刺激的な遊びを求めてこのゲームに参加した。それなのに、なんだかつまらない。人間の最も醜い部分が垂れ流されている、そんな胸糞悪い感じがした。(……疲れた、少し眠ろう)座ったまま、彼は眠りにおちた。
2014-09-01 23:13:33