【第二部-弐拾五】穢れと祓いと五月雨と夕張 #見つめる時雨

第二部、完 夕張,五月雨,由良
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とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…知ってた?五月雨ちゃんね、貴女のこと好きだったのよ。多分、ずっと前から」 「……」 「五月雨ちゃんね、元気になってたわ。提督も、もう大丈夫でしょうって」 「…よかった」 「うん…本当によかった…。だから、最後に残った問題はひとつ。…貴女」

2014-09-07 21:20:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…私ね、五月雨ちゃん…傷つけちゃった…」 …由良は少し間を置いてから、再び口を開いた。 「…五月雨ちゃん、泣きそうになってたわ。夕張さんが部屋にいない。工廠にもいない。何処にもいないって。きっと今も、必死に貴女を探してる」

2014-09-07 21:25:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…あのコはどうして私に会おうとするんだろう。私は貴女に会わせる顔がないというのに…。 「…夕張は五月雨ちゃんのこと、どう思ってるの?」 「…え?」 「縁のある僚艦?護ってあげたい存在?愛おしい存在?」 「……」

2014-09-07 21:30:24
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

由良の言う通り…私にとって五月雨ちゃんは、過去に辛い思いをさせたコで、護ってあげたい存在で、愛おしい存在で…。だからこそ、また傷つけてしまったことを悔やんでいる。護りたかった。助けたかった。でも…。 「…それ、違うと思うわ。彼女に失礼よ」

2014-09-07 21:35:23
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…五月雨ちゃんはね、護られるような弱いコじゃない。身体の感覚が消えていく恐怖とたった一人で戦って、ずっと笑顔を作り続けて、そして、過去の記憶に飲み込まれそうになっても、あのコは戻ってきた。自分の力で」 「あ…」 由良の言葉ひとつひとつが、胸に刺さった。

2014-09-07 21:40:23
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「私に言わせれば夕張の方が繊細で、か弱いわよ。あのコがどうして貴女探してると思う?貴女はあのコを傷つけてしまったかもしれないけれど、あのコは先に進もうとしてる。貴女がここで立ち止まっててどうするのよ」 「由良…」

2014-09-07 21:45:23
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「…もう少し時間が必要みたいね。多分、もう少ししたらあのコ、ここに来るから、その時までにしゃんとしなさい」 由良から思いもよらない言葉が出てきた。 「…え?ど、どういうこと?」 「私が教えたもの。きっと夕張はここにいるって。少し時間を置いてから来るように言ってあるけど」

2014-09-07 21:50:23
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「貴女が五月雨ちゃんの気持ちをどう受け止めるかは自由だけど、あのコの言葉は聞いてあげて。じゃ、私はこれで」 「…由良…行っちゃうの?」 「情けない声出してるんじゃないわよ。五月雨ちゃんに見られたら…あ…」

2014-09-07 21:55:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

ベンチの後ろを振り向く由良。私もつられて振り返る。そこには…五月雨ちゃんが立っていた。 「五月雨ちゃん…」 「はい、夕張さん」 五月雨ちゃんの呼吸は落ち着いていたけれど、ここへ来る前に色んなところを探し回ったせいだろうか、服が少し汚れている。でも…その顔は生気に満ちていた。

2014-09-07 22:00:53
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「私、夕張さんにお礼が言いたくて…」 …私は首を振った。私にそんな資格ない。貴女を苦しめた私に、そんな資格…。 「夕張さん。夕張さんのおかげで、私はこうしてここにいます。本当に…ありがとうございます」 五月雨ちゃんが私達の前に回り、深々とお辞儀をした。

2014-09-07 22:05:23
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五月雨ちゃんは顔を上げると、私の目を見ながら…言った。 「…私、夕張さんに…その…してもらってる時、つい、言っちゃいました。夕張さんのこと、好きだって。それが夕張さんを苦しめてるんだとしたら、本当にごめんなさい。あの、気にしないでください」 …何で…謝るのよ…。どうして…。

2014-09-07 22:10:24
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「夕張さん」 「…ほら、顔を上げなさい」 由良に促され、涙が滲んだ顔を上げる。五月雨ちゃんを見ると、彼女の手に、懐中時計が握られていることに気が付いた。あれは…。

2014-09-07 22:20:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「私、あの気持ちは本音です。でも、夕張さんを苦しめるつもりは…本当になかったんです。私は夕張さんの"好き"が欲しいわけじゃありません。勿論、もらえたら嬉しいですけど…でも、それよりも、夕張さんとまたこうして時間を刻んでいける命を手に入れられたことが嬉しいんです」

2014-09-07 22:25:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「五月雨は、一回目は浦賀の船渠で、二回目は運命の悪戯で、そして三回目は夕張さんから命を貰いました。かけがえのないものを貰いました。私はそれで十分です。だから、泣かないで…ください…」 五月雨ちゃんの瞳からは、涙が溢れていた。 「…夕張さん…泣かないで…。私も…悲しいです…」

2014-09-07 22:30:25
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…私は、気づいたら五月雨ちゃんを抱き締めて泣いていた。もう頭の中、真っ白。何も考えられない。五月雨ちゃんも、私に抱き付いて泣いていた。でも…五月雨ちゃんは、崩れ落ちそうな私をしっかりと支えてくれていた。五月雨ちゃんは、こんなにも強い…

2014-09-07 22:35:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

懐中時計の音が耳に届く。一秒一秒、時を刻んでいく。その時の中に、私も五月雨ちゃんもいた。…五月雨ちゃんは、こんな私とこれからも一緒にいてくれるの…?…五月雨ちゃんは何も言わず、彼女の手が、私の頭を優しく撫でた――

2014-09-07 22:40:21

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誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「由良」 僕は廊下をひとりで歩く由良を呼び止めた。 「五月雨から伝言だよ。"ご迷惑をおかけしました。次は由良さんが本当に素直になる番です"だって」 由良は目を丸くさせていたけど、やがて小さく微笑んだ。 「…"ありがとう"。そう伝えておいて」――

2014-09-07 22:58:26