ストレイトロード:ルート140(7周目)
- Rista_Bakeya
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訪れた町の入口で看板を見上げた藍は言った。「ここは前に来たことがあるの」魔女になる前、両親と共に夏のひと時を過ごしたという。石造りの町並みは当時と変わらないらしい。「でもなんだか昔より狭くなった気がする。あの空ってこんな近かったかな」藍は建物に挟まれた青空を見上げ、首をかしげた。
2014-07-30 19:36:40魔女の力には先例などなく、自転車に乗せるのと違い制御を「教える」ことができない。修行は常に藍自身が作る。「何か掴めそうですか」「全然」竜巻を特集したテレビ番組を何度も見ることが本当に上達への近道なら、私にできる手助けはなさそうだ。彼女がうっかりここに暴風を呼ばないよう祈る他には。
2014-07-31 19:31:12雨に煙る草原の一本道で葬列に出会った。近くの農村の人々らしい。私は車を端に寄せて停車し、彼らに道を譲った。静かになった車内からすれ違う悲しみを見送る。「ああいう儀式ってまだ残ってたのね。ずっと昔の話だって本に書いてあったのに」藍は珍しい生物にでも出会ったような顔で彼らを見ている。
2014-08-01 20:10:09140文字で描く練習、315。葬列。 燃え尽きる前に出会ってこそ何かを変えていけるのか。倒れたからこそ生まれるものもあるのか。
2014-08-01 20:10:40「こうなる気がしたのよね」本当は今まで微塵も考えていなかったはずだ。自分の軽率な一言のせいで店を追い出されたのに、藍に省みる様子はない。裏口脇に置かれた古い樽をテーブル代わりに、ちゃっかり持ち出した飲み物の残りを味わっている。「そこにいてください」私は財布を持って店に引き返した。
2014-08-02 19:00:42次に向かう土地の情報を集めようとしたら、街の人々に何度も引き止められた。その辺りは特に治安が悪いという。具体的な話を聞くほど私は行くことをためらった。だが報告を受けた藍は「だから何だっていうの」数々の心配を一蹴した。忠告を軽んじる子供の顔ではない。不穏を焼き尽くす魔女の目だった。
2014-08-03 21:42:22敵がいるのに武器の一つもなければ、手近な物で対抗するしかない。藍はそんな時の立ち回りに慣れている。今夜は暴漢に掴まれた手をねじって振りほどき、拾った空き缶を使って相手を怯ませ、私が取り押さえる隙を演出した。事が片付いた後で私は納得した。だから爪を伸ばしているのかと。まだ耳が痛い。
2014-08-04 19:49:44公園の入口に色褪せた手配書が掲示されていた。「この街にはもう居ないみたい」藍が見てきたように言う。容疑を読んで「物騒ね」と呟いた彼女の隣で私はつい思った。彼女も起こした騒ぎの為に手配されていないか、と。「まさか」笑いながら否定された。「わたしが何回警察に手を貸したと思ってるの?」
2014-08-05 22:07:24即席の衝立の向こうで窓を開ける音がした。犬の遠吠え、そして暖かく湿った空気が耳に触れる。不快な感触は昼間の風ほどではないが眠気を覚ますには充分だ。「あなたも眠れないの」藍は窓際にいるらしい。私は言いつけに従い、衝立に背を向けてから答えた。「貴女が出かけるのでしたら私もお供します」
2014-08-06 19:12:00夏の暑さが最も厳しい時間帯に、走行中の車が突然進まなくなった。辛うじて荒野は脱したが街はまだ遠い。「まさかこの暑さで壊れた?やっぱり中古なんか買うんじゃなかった」「ただのガス欠です。今入れますが、目的地まで持つかどうか」行き先を教えてくれない藍は何故か無言で車を降りて歩き出した。
2014-08-07 19:44:59藍の機嫌は分かりやすい。言葉にする前に大体のことは察しがつくので、私は口数が少なくても仕事をやっていける。今日は長距離走行の休憩中、睨む仕草一つにも違いがあると気づいた。人間とは興味深い存在だと改めて思う。「あ、学者の顔してる。また変なこと考えてたでしょ。休憩没収、すぐ発車して」
2014-08-08 19:56:03「捕まえてくる!」藍が食堂の外へ飛び出した。制止を聞かず、雨に濡れるのも構わず、食い逃げ犯の足音を懸命に追う。その姿を見ていたら腕を叩かれた。「娘さんを一人にしちゃダメだ、さあ早く」店の主人に促された私は二本の傘を持って走った。すぐに横殴りの風が私の傘を破壊し、雨が眼を直撃した。
2014-08-09 18:51:42今夜は森で夜を明かす。火を消してから車に戻ろうとして、藍が座ったまま動かないことに気づいた。「最近思うんだけど、流れ星に願ってもしょうがないのよね」木々の影に囲まれた空には無数の星が輝いている。「一瞬でいなくなるのに人の話なんて聞いてられないでしょ。流れない星にお願いしようかな」
2014-08-10 20:10:08かつて災害に蹂躙されたその町は一度全てを取り払い、更地から再興したという。町長の得意げな話を聞いた後、藍は納得いかないと言って町の外に出た。荒野の片隅で野晒しになっているのは家屋の残骸だろうか。「本当はこうやって自分に都合の悪いものを片付けたのよ」藍の足元には白骨が転がっている。
2014-08-11 21:44:02