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伊月遊 @ituki_yu
  夜。 靄のような暗がりの中に、ぽつぽつと灯りが浮かんでいる。 その灯りの一つ、鎮守府の見張り台で、飛鷹は一人海を見ていた。
伊月遊 @ituki_yu
彼女が行っているのは夜警と呼ばれる任務である。 夜警とは文字通り夜間の警備の事で、敵の侵入を防ぐ重要な任務だ。 鎮守府の夜警は通常補欠の艦娘達によって持ち回りで行われ、この日の当番は飛鷹であった。
伊月遊 @ituki_yu
飛鷹「全くもう、なんでよりによってあんな娘が・・・」 嘆息。白い息が空に溶ける。 鼻をすすり、小さく震える飛鷹。 飛鷹「うぅ~さっむぅ~・・・。あー、もう、こんな気分の日に夜警なんてもう、最悪よ」
伊月遊 @ituki_yu
金剛「あら、辛くない夜警なんてないワ」 飛鷹「こっ、金剛さん!?」 背中からいきなり声、振り返ると金剛がそこに居た。 両手には湯気の立ったマグカップ。片方を飛鷹に渡す。 金剛「はい、ホット燃料ネ。夜警お疲れ様」 飛鷹「あ、ありがとうございます・・・脅かさないで下さいよ、もう」
伊月遊 @ituki_yu
金剛「フフーフ、ごめんね。ちょっと貴女にお話があって」 飛鷹「話?」 受け取ったマグカップに口を付けながら、飛鷹が聞く。 金剛も同じ様に一口、それから少し困ったように微笑みながら、こう言った。 金剛「・・・島風さんの事、なんだけど」

 
 
 
 

伊月遊 @ituki_yu
  チーム結成の翌日。 それぞれの任務の後、早速チームメンバーが集まり、一回目の訓練が始まった。 那珂「むぅー、上手く止められないー」 飛鷹「ああ違うわよ那珂ちゃん、もうちょっとね、こう、手首の角度に気をつけるの」 那珂「ふむふむ」
伊月遊 @ituki_yu
今彼女たちが訓練しているのは、羅針盤回しというものである。 第二次世界大戦時、日本海軍は伝統として彼女ら艦娘の回す羅針盤の方向に従って針路を決めていた。 これは一種の願掛けの様なもので、21世紀の海上自衛隊にも受け継がれているという。
伊月遊 @ituki_yu
ただ羅針盤を回すだけの簡単な仕事だが、その責務は重大だ。 真剣に訓練に励む彼女たち。しかしその中には真面目にやろうとしない者も混じっていた。島風である。 島風「あーあ。なんで私が今更こんな事やんなくちゃなんないのよ。こんなの補欠の仕事でしょ?」
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隼鷹「おい、訓練だからって手抜いてないで真面目にやんなよ!」 島風「たかが羅針盤回すだけじゃない。こんなの、誰だって出来るわよ」 隼鷹「そう言うんだったらやってみろよ。北側に止めてみな」 島風「そんなの楽勝よ。ふふん、見てなさい。ほりゃ」
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言いながら適当に羅針盤を回す島風。 からからと音が続き、やがて止まる。 南を向いた。 島風「むうっ!」 隼鷹「なっ?ムズいだろ」 島風「もっ、もう一回よ!今のは本気じゃないの!」
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もう一度、今度は深呼吸してから慎重に回す。 南南西だった。 島風「もっ、もう一回!」 東南。 島風「もう一回!」 今度は西だ。 島風「むぅー!なんなのよもうー!」 半泣きになりながら地団駄踏む島風。
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一見簡単そうに見えるこの羅針盤回しであるが、実際の任務にはかなりの修練が必要とされていた。 事実、連れて行った羅針盤回し要員がこの修練を怠ったが為に、幾ら経っても目的地に着かず、2の4で毎日風呂これ化している提督が数多く居たという記録が当時の文献に残っている。
伊月遊 @ituki_yu
飛鷹「もう。あなたもほら、ちょっと貸してみなさい」 島風「お゛ぅっ!?な、なによいきなり!」 見かねた飛鷹が島風の手に自分の手を添える。 慌てて引き剥がそうとする島風だったが、飛鷹の手は離れない。
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飛鷹「いいから。こう、しっかり端を持ってて」 島風「え、こ、こう?って良いから早く離してよ!」 飛鷹「まあまあ。で、こうやって、こう!」 声と一緒に回される羅針盤。 ガラガラと威勢良く回る羅針盤を、島風と飛鷹が見つめる。 止まった。ピタリ北だ。 島風「おぉーー!!」
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飛鷹「ね?手首のスナップ大事なのよ。さっ、やってみて」 島風「うん!」 笑顔で頷き、すぐに羅針盤に向かう島風。 にこやかに笑う飛鷹。その肩を軽く叩く艦娘が一人、隼鷹だ。 隼鷹「なあ、どういう事だい?あんな風に親切に教えちゃってさ」
伊月遊 @ituki_yu
飛鷹「あら、別に他意なんてないわよ。ただちょっと困ってたから助けただけ。それにほら、見てみなさいよ」 視線の先には顔を笑顔に染めながら楽しげに羅針盤を回す島風が居た。 先ほど飛鷹が教えた手順を必死に再現しようとしている。
伊月遊 @ituki_yu
飛鷹「あんなこと言っててもやっぱりまだ子供ね、あんなに夢中になってる。あの子、構って欲しかったんじゃない?」 隼鷹「・・・知らねえよ」 眼を細めながらそう言って、隼鷹は自分の訓練に戻る。 それを見ながら飛鷹は「やれやれ」と少し困った顔で呟いた。

 
 
 
 

伊月遊 @ituki_yu
  この日は100m障害物走の訓練である。 艦娘達にとって速力は重要だ。一部の戦艦や重洋艦を除く大抵の艦娘は皆装甲が薄く、一撃で致命的な打撃を与えられることも珍しくはない。そのため、極力敵の攻撃は回避する必要があり、スピードは重要な要素となる。
伊月遊 @ituki_yu
また、様々な状況を的確に判断して行動を起こすという能力もまた必要不可欠といえよう。戦場ではなにが起こるか解らないのである。 この障害物走は一度にそれらの訓練を行うことのできる都合の良いものなのだ。
伊月遊 @ituki_yu
島風「ふっふーん。今回は私の圧勝ね」 菊月「スピードだけならな。だが障害物走なら菊月にも分があるぞ。そっちは今回が初だろう?ふふ、菊月の訓練の成果を見せてやるさ」 那珂「そうだそうだー!やっちゃえー!」 島風「あーら、駆逐艦の最高峰を目指して作られたこの島風さまに勝とうっての?」
伊月遊 @ituki_yu
駆逐艦同士、軽く睨み合う二人。 飛鷹「まぁまぁ、とりあえずやってみましょうよ。ほら準備して」 パンパンと手を叩きながら二人を急かす飛鷹。 にらみ合いながらも両者、コースの前につく。
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