タイムスクープハンター code:864192 「抜錨せよ!カレーおつかい奮闘記」 5

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伊月遊 @ituki_yu

摩耶「・・・こいつは酷ぇな」 呟く彼女の視線の先には、腹を真っ赤に染めて担架の上でうずくまる小柄な少女。 傍目から見てもかなりの出血だという事が分かる。 少女を見た瞬間、私は驚きの声を出してしまう。 しかしそれは傷の深さのせいだけでは無い。私はその少女を知っていたからだ。

2013-12-26 00:01:15
伊月遊 @ituki_yu

沢嶋「なっ、那珂さん!」 担架の上の少女、それはあの島風達のチームの一員、那珂であった。 私の言葉にその場の二人がこちらを見やる。 摩耶「なんだ。アンタ、こいつの知り合いか?」 沢嶋「はっ、はい。取材で同行させてもらっていた艦娘達の一人です」

2013-12-26 00:04:48
伊月遊 @ituki_yu

摩耶「取材・・・?まあいいや、おいお前」 作業員をギロリと睨む摩耶。 摩耶「どうしてもっと早く連れてこなかった」 作業員「だから言ってるだろ、急患だって!今さっき運ばれてきたんだよ!それにアンタの言うとおり風呂だって空いてないだろ!」

2013-12-26 00:09:12
伊月遊 @ituki_yu

摩耶「そうかよ。くそっ、もう少し早く着いてれば別だったんだがな・・・こいつは応急処置じゃあもう助かるか分かんねえ」 摩耶が舌打ちして風呂と呼ばれる機械を見やる。 菊月「・・・今の話、本当か・・・?」 と、か細い声と共に、部屋の入り口に少女が一人、いつの間にか立っていた。

2013-12-26 00:12:38
伊月遊 @ituki_yu

倒れそうになるのを、壁により掛かるようにして堪えている。 その少女にも私は見覚えがあった。 沢嶋「菊月さん・・・」 菊月「・・・お前か、無事逃げられた様だな」 私たちのやりとりに、摩耶は「こいつも知り合いかよ」とため息をつく。

2013-12-26 00:16:07
伊月遊 @ituki_yu

と、菊月が軽くふらつく。慌てて駆け寄り肩を貸す作業員。 作業員「おっ、おい!まだ休んでろよ!」 摩耶「誰なんだ、こいつ」 作業員「さっきこの娘を連れてきた艦娘だよ。背中に背負ってな、自分もボロボロだっつうのに、着くなりに『こいつを早く助けてくれ!』ってすげえ剣幕で叫んでよ」

2013-12-26 00:18:50
伊月遊 @ituki_yu

作業員「40ノット以上出して来たっつうんで、タービンシャフトからなにから、色んな部品がイカレてやがったんだ。まだ立ち上がれるような状態じゃないんだが・・・」 菊月「・・・そんな事はどうでもいい」 作業員「おっ、おい!」 作業員の止める手を振り払い、フラフラと摩耶の前に立つ菊月。

2013-12-26 00:22:53
伊月遊 @ituki_yu

彼女はそのまま、睨むように摩耶を見る。 菊月「先ほどの話、本当か。那珂がこのままでは助からぬという話だ」 摩耶「・・・チッ。ああ、マジだ」 沈痛な面持ちで唇を噛む摩耶。 摩耶「今すぐ風呂に入れないと、こいつはもう危険な状態だよ。だけど・・・」

2013-12-26 00:26:12
伊月遊 @ituki_yu

続く言葉は言わずとも分かった。 先ほどの話だと、那珂を修理する為のスペースは今のこの鎮守府には無いはずだ。 つまり。 菊月「そんな・・・なんとか、なんとかならぬのか」 力無く言う菊月に、摩耶は口惜しげに首を振る。 それは明確に、彼女の状態を表していた。

2013-12-26 00:30:42
伊月遊 @ituki_yu

?「フフーフ、そんな心配要りまセーン」 ?「ああ。全くな」 聞き覚えのある声。 全員が顔を上げ、振り向く。 そこには。 菊月「こっ・・・金剛さんに、長門さん!」 そこに居たのは二人の女性。 それはまさしく、第一艦隊の金剛と長門、その二人であった。

2013-12-26 00:34:24
伊月遊 @ituki_yu

摩耶「ど、どうして?アンタら、まだ修理完了は先のはずだろ?なのに何で・・・」 言いかけてハッとする摩耶。続く言葉は「まさか」という驚嘆の語である。 その投げかけに答えたのは、金剛と長門、二人の背後に立つ男であった。 提督「はっはっは、そのまさかデース」

2013-12-26 00:38:10
伊月遊 @ituki_yu

朗らかに笑う男。選抜試験の開会式にて艦娘達に概要を説明していた男である。確かこの鎮守府の提督であった筈だ。 その男を睨み付ける様に、摩耶は眼光を鋭くする。 摩耶「てめえ、アレ、用意できたのか?」 提督「おうともさ。いやあ、他の鎮守府に頭下げてな、やっとこさ調達出来たよ」

2013-12-26 00:41:22
伊月遊 @ituki_yu

提督「まあ、10個だけなんだけど。あ、今金剛と長門の分を使ったから残り8個か」 摩耶「チッ・・・10個かよ。遅ぇ上に少ねぇし、相変わらず使えねえんだよ、このタコ」 提督「おいおい、折角苦労して持ってきたってのに、相変わらず辛辣だな」 やれやれ、と頭を掻く男。

2013-12-26 00:43:44
伊月遊 @ituki_yu

その男に吐き捨てるように言った摩耶の表情は、厳しい言葉とは裏腹に、少しだけ微笑んでいた。 沢嶋「あ、あのー。『アレ』ってなんの事ですか?」 摩耶「ん?ああ、アレってのはあれだよ、あれ。バケツ」 沢嶋「はあ・・・バケツ・・・?」

2013-12-26 00:45:18
伊月遊 @ituki_yu

提督「バケツっていうのは通称さ。正確には急速修復材。平たく言えば艦娘達を通常では有り得ないスピードで修理する事が出来る物だな」 素っ気なく説明する摩耶の説明を補足する男。 なるほど。通常時間が掛かる修理を短縮すれば、その分だけ他の艦娘の分が空くということだ。

2013-12-26 00:47:29
伊月遊 @ituki_yu

そしてそれはつまり、より多くの艦娘を救うことが出来ることを意味している。 菊月「つまり、これで那珂は・・・!」 提督「ああ。遅くなってすまんな、菊月。しかし喜ぶのはまだ早い、まだ待たせてる奴らが居るだろう?」 と、感極まり、今にも泣き出しそうな菊月。

2013-12-26 00:50:16
伊月遊 @ituki_yu

その頭を優しく撫でながら、男は懐から一枚の紙を取り出す。 救援を求める文章と、その座標だけが書かれた印字された簡素な電文。 それは飛鷹から鎮守府へ送られた、救援の電文だった。 菊月「それは・・・!」

2013-12-26 00:50:49
伊月遊 @ituki_yu

提督「君の仲間が送った物だ。ここから北東80km、そこにウチの艦隊を送るのが、俺にできる限界だ。後はそこの紅茶好き達に任せるよ」 金剛「こっ・・・!・・・なんだか最近みんなの私に対する扱いが酷くなってきた気がしマース・・・」 長門「まあまあ・・・。とにかく了解です、提督」

2013-12-26 00:53:30
伊月遊 @ituki_yu

がっくりとうなだれる金剛の肩を叩きながら、長門は提督に二ヤっと笑みを飛ばす。 その笑みを受け取るように、提督も眼光をその帽に隠すようにして、悪戯めいた笑いを浮かべた。 提督「急げよ。あいつらがやられちまったら元も子もない」

2013-12-26 00:56:43
伊月遊 @ituki_yu

長門「フフ・・・分かってますよ。これだけやられた借りは、是非とも返さねばなりません。だろう?金剛」 金剛「ふぇ!?え、ええ。とっ、当然デース!奴には絶対痛い目合わせてやるデース!」 いきなり話を振られ、慌ててながら立ち上がる金剛。

2013-12-26 01:00:10
伊月遊 @ituki_yu

その金剛の腕を弱々しく掴み、しかし目の光は強く、菊月は頭を上げる。 菊月「金剛さん・・・、頼みます。師匠達を・・・!」 金剛「・・・フフーフー、任せるデース!」 その問いかけの答えとして、金剛はドンと自分の胸を叩き、大きく頷いた。

2013-12-26 01:03:16

 
 
 
 

伊月遊 @ituki_yu

  限界に近かった。 各所装甲はいうに及ばず、機関部などにも決して小さくはない破損。 何度も無茶な使い方をしたせいだろう。膨大な熱量に耐えられないタービンの一部がへしゃげ、先ほどから異音を発している。 燃料、残り僅か。弾薬、あと数発程度。 それでも彼女たちは立っていた。

2013-12-26 01:06:00
伊月遊 @ituki_yu

  水が切り刻まれる。 高速で飛来する鉛のつぶては、まるで雨の様に水面へその軌跡を残していく。 波紋と波紋の連なり。その隙間をかいくぐる様にして、島風は走り抜ける。己自身を冠する、島渡る風のごとく。 島風「まだまだぁ!」 己を奮い立たせるために、島風は叫ぶ。

2013-12-26 01:08:50
伊月遊 @ituki_yu

その島風に距離を詰める艦娘、飛鷹と隼鷹である。 飛鷹「島風、大丈夫?」 島風「まだ余裕、って言いたいところだけど・・・正直厳しいわ。燃料も尽きかけで、装備だってあと酸素魚雷が三発っきり。それで全部よ」 飛鷹「よね・・・。こっちの艦載機も尽きたわ、お陰で軽くはなったけどね」

2013-12-26 01:11:24