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伊月遊 @ituki_yu
―――コンクリートが剥き出しになった、広く四角い部屋。 私が立っていたのはそんな所であった。 周囲には人、人、人。 大量の荷物を持って慌ただしく辺りを走り回る者。 何かの紙を広げ、周りの人間に指示を出す者。 何か巨大な機械を操作する者も居た。
伊月遊 @ituki_yu
皆せわしなく、何かを急いでいるような印象。共通しているのは皆同じグレーの作業服を着ている事位であろうか。 私は周りをぐるりと見回し、小さく息を吐く。 沢嶋「・・・ワープ、成功です。ありがとうございます」 古橋(了解です、良かった・・・) インカムの向こうから安堵の声。
伊月遊 @ituki_yu
沢嶋「それにしても、ここはどこなんでしょうか・・・」 古橋(待って下さい、データを検索します) 古橋が通信の声を止め、何かを打ち込む音が聞こえ始める。 直後、 ?「ちょっとアンタ、ボーッと突っ立てるんじゃないよ!作業の邪魔だ邪魔!」 と、いきなり背後から威勢の良い女性の声。
伊月遊 @ituki_yu
慌てて振り向くと、他の人間と同じくグレーの作業服を着た目つきの鋭い女性が、腰に手を当てて立っていた。 沢嶋「あ、えっと、すいません」 ?「全くもう、このクッソ忙しい時に・・・」
伊月遊 @ituki_yu
声に圧され思わず謝ると、女性は苛つきを表すようにボリボリ頭を掻いて、それから、 ?「まあ良いや、とっとと作業に入っとくれよ」 と親指で右を指す。 指の先では、作業服姿の男たちが鉄鋼や何かの工業部品をあくせくと運んでいる最中だった。
伊月遊 @ituki_yu
沢嶋「・・・え?」 ?「『え?』じゃないよ!アンタも補充の要員だろ?そんなよう分からん服着てどこの隊だか知らないけどさ、早くして!」 沢嶋「い、いえ。私は」 ?「返事っ!」 沢嶋「はっ、はい!」 怒鳴り声に思わず返事をし、資材運びの現場へ駆け出す私。
伊月遊 @ituki_yu
沢嶋「あ、あの。手伝います」 作業員「おっ、すまね!んじゃあここに転がってる奴をあそこに持ってってくれや!」 指さされた先には、一方には雑多に積まれた様々な部品、もう一方には巨大な機械の塊。 中央に人がちょうど一人入りそうな筒状の物が備え付けられた、複雑な機械の集合体である。
伊月遊 @ituki_yu
沢嶋「あの、あれは?」 作業員「なんでえあんちゃん、風呂も知らねえんか?おいおい、いっくら人手不足だってよ・・・」 沢嶋「風呂・・・ですか?」 呆れかえる作業員に、私は思わず聞き返す。 作業員「ああ、あいつん中には今、あのお偉い第一艦隊どのが眠ってるんさ。修理すっためになあ」
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沢嶋「はあ、修理・・・」 ?「こらアンタら、何くっちゃべってんだ!さっさと手を動かす!」 と、気っぷのいいがなり声が部屋に響く。先ほどの目が鋭い女性である。 作業員「おっといけねえ、摩耶姉さんに怒られちまった」 沢嶋「彼女は?」 作業員「ん?ああ、第二艦隊の摩耶姉さんだよ」
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作業員「人手が足りねえんで自ら手伝いに来てくれたんさ。ほれ、そんな事どうでも良いだろ。あんた、早く運んで!」 沢嶋「は、はい!」 言われるまま、置いてある資材を幾つか抱えて持ち上げる。 沢嶋「グッ・・・!」 かなり重い。
伊月遊 @ituki_yu
ワープ以前から既にフィジカルバージョンアップシステムを起動しているにも関わらず、思わず取り落としそうになる私。 足元がふらつきながらも、なんとか荷物を運び始める。
伊月遊 @ituki_yu
古橋(あの、こんな事をしている暇があるんでしょうか・・・島風ちゃん達や菊月ちゃんは・・・) インカムから古橋の声。 少しの間。 沢嶋「・・・とりあえず、この場所のデータをお願いします」 古橋(分かりました・・・あの・・・) 沢嶋「言わないで下さい」
伊月遊 @ituki_yu
古橋の言葉を遮りながら、私は風呂と呼ばれた機械を見やる。 このだだっ広い部屋の半分を占めるほど巨大な機械。その周りでは二十人以上の作業員が、今もせわしなく何かの作業が進められている。 古橋(沢嶋さん、分かりました。どうやらここは艦娘達の修理工場の様です)
伊月遊 @ituki_yu
沢嶋「工場、なるほど・・・あそこの機械は?」 古橋(あれが艦娘を修復させる為の機械の様です。残念ながら詳細なデータは見つかりませんでしたが、『風呂』という呼称の施設みたいです) 沢嶋「・・・なぜ風呂なんでしょうか」 古橋(すいません、分かりません。何分データが少ないもので・・・)
伊月遊 @ituki_yu
古橋(風呂は艦娘の建造技術と同じく当時の軍事機密扱いだったらしく、データが殆ど開示されてないみたいです) 沢嶋「・・・了解です」 とりあえず資材をそのまま風呂と呼ばれる機械の近くに運ぶ。 作業員の指示に従い、資材を置いて一呼吸。 一往復だというのに、肩で荒い息をしてしまう。
伊月遊 @ituki_yu
摩耶「こー、っら!」 と、いきなり背中を叩かれる強い衝撃。 倒れそうになるのを必死でこらえながら振り向くと、両腕を組んでこちらを睨みつけてくる女性が一人。 先ほど作業員の一人に摩耶と呼ばれていた艦娘である。
伊月遊 @ituki_yu
摩耶「おいおい、一個運んだだけでこのザマかい?なっさけないねえ、アンタそれでも男かよ」 沢嶋「す、すいません。力仕事に慣れていない物で・・・」 摩耶「はぁ・・・まあしゃあないか、補充要員だしな。けど急いでくれよ?なにせ、一秒遅れるだけで人の命に関わるんだからな」 沢嶋「命?」
伊月遊 @ituki_yu
不穏な響きである。 思わず聞き返すと、「知ってんだろ?」と真横の機械を手の甲で軽く叩く摩耶。 摩耶「こいつは艦娘の修理用の設備だ。けど、一度に決められたら数の艦娘しか修理出来ねえ。ポッドに限りがあるからな。お前、ウチで同時に修理出来る艦娘の数、分かるか?」 沢嶋「い、いえ」
伊月遊 @ituki_yu
摩耶「二人だよ。金持ってる所だったらもっと多いらしいけどね。通常だったらこの個数だけで足りるんだが・・・『姫』が暴れまわったせいでな、今も大破の奴らがあぶれちまってら」 沢嶋「あぶれ・・・そ、それって・・・」 摩耶は深く頷く。 摩耶「ああ。急がにゃ取り返しがつかねえ」
伊月遊 @ituki_yu
摩耶「一応傷の度合いとか重要度で順番は決めてんだけど、それでも大破の連中はまだまだ居る」 沢嶋「・・・」 摩耶「畜生、なんでよりによって鎮守府前海域になんか現れんだよ・・・しかもこのタイミングだぜ?最悪だ」
伊月遊 @ituki_yu
タイミングというのは選抜試験の事だろうか。 確かにタイミングとしては最悪である。なにせ参加者の殆どは未実戦者だ、あの怪物による犠牲は格段に増えるだろう。 作業員「急患ーーー!急患だーーー!」 部屋に突然響く声。 作業服の男が血相を変えて走ってくる。
伊月遊 @ituki_yu
その姿に摩耶は「おいおいまたかよ・・・」と頭を抱え、男に近づく。 摩耶「ちょっと待ってくれよ、ポッドだってまだ全然空いて無いんだ。そう何人も連れてこられちゃ」 作業員「ホントにヤバいんだ!今すぐ修理しねえと轟沈しちまう!」 落ち着いて押しなだめる摩耶に、肩を怒らせる作業員。
伊月遊 @ituki_yu
互いの言葉も言い終わらぬ内に、男にやや遅れて、誰かが担架で運ばれてくる。シーツを目深に被されており、ここからでは誰だかは分からない。 摩耶「仕方ねえ・・・風呂が空いてなくたって応急処置くらいは出来らぁ。見るぜ」 舌打ちしながらシーツをめくる摩耶。 瞬間、彼女は思わず息を飲む。
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