ラバウル少佐日誌:AL/MI作戦編其ノ肆
そして熊野の眼前に迫った少佐は、ゆっくりと両腕を広げた。 「Fraulein(お嬢さん)……君は勘違いをしている。君が今迄生きてきた『人の誇りと金の駆け引きの世界』その外に、此処は存在する……分かるかね?」「ひぅっ!」 熊野の両肩へ、少佐は手を置いた。#ラバウル少佐日誌(26)
2014-09-19 01:13:58「君が幾らはした金で龍驤を足蹴にしようと、口先だけで私達を貶そうと、明日君が不幸に見舞われて死ねば何の意味も無くなる……そして、君は愚かだ。そんな世界への、帰りが何時になるかも知れぬ船旅へ、私の浅知恵によって行かされてしまったのだ……!」 #ラバウル少佐日誌(27)
2014-09-19 01:19:54「い、嫌っ!」 熊野は少佐の腕を振り払い、 「狂ってますわ!御父様に言いつけてやる!」 吐き捨てると、執務室のドアを開けた。 「あ」 そこには、鈴谷がいた。 但し、彼女の四肢は、失われていた。 #ラバウル少佐日誌(28)
2014-09-19 01:23:17「えっ……」 恐る々るに、熊野は彼女に近寄る。 ……何かぼそぼそと呟いている。 「……鈴谷?」 呼び掛けに応じない。 何と言っているのか、熊野はもう一歩近付いて、耳を傾「こうくうせんかんのじだいこうくうせんかんのじだいこうくうせんかんのじだいこうくうせ」#ラバウル少佐日誌(29)
2014-09-19 01:27:59悲鳴すらも上げられないまま、熊野はドサリと倒れた。 「……ちょっとやり過ぎたかな」 「だから言ったじゃん提督、熊野意外とこういうのには弱いんだって」 倒れた熊野を跨いで、少佐は廊下に出る。 「それより早くバケツ持ってきてくんない?」 #ラバウル少佐日誌(30)
2014-09-19 01:33:29「いいだろう」 ひょっこりと横から入って来た日向が、 「べぶぉっ」 鈴谷へ修復材を頭から被せた。 「熊野の親御さんにトカゲの尻尾切りやられた時は、瑞鶴の二の舞を覚悟したが……有難う、日向」 「いや、暴論を尤もらしく言ってのける、君の能力には及ばない」#ラバウル少佐日誌(31)
2014-09-19 01:46:16「それよりもだ」 日向は、何時ものこけしの様な、張り付いた微笑みを浮かべながら静かに頷いた。 「ああ。それをやらねば、決まりが悪くてミッドウェーへは行けんな」 #ラバウル少佐日誌(32)
2014-09-19 01:57:28「う……!」 眼鏡を失った彼女は、突如差した光に思わず目を細めた。 「生きていたか!」 そして直後に向けられた甲高い男の声に、やや安堵した。 「少佐、た、大変です、スパイが……!」 「分かっている。心配するな」 彼女はその言葉と共に、何かを握らされた。 #ラバウル少佐日誌(34)
2014-09-19 02:17:23「この通り、眼鏡も取り返したからな」 少佐は、彼女の腕脚を縛る昆布を解き始める。 「有難う御座います……私、急に襲われて……艦娘でもないのに……!」 「もう大丈夫だ」 「少佐……っ!」 泣きじゃくりながら彼女は少佐の肩を借りて立ち上がり、眼鏡を掛けた。 #ラバウル少佐日誌(35)
2014-09-19 02:27:26視界が明瞭になった彼女は、少佐の主力艦娘達に火砲を向けられ、囲まれている現状をやっと把握した。 「え」 改めて彼女の前に立った少佐は……、 ここ最近の中で一番の下卑た嗤みを見せた。 #ラバウル少佐日誌(36)
2014-09-19 02:34:37「熊野の親父さんに、あこぎな商売バレてる事漏らした一件だけじゃないからな、容疑は」 「え」 「誰からの指図だ?羅針盤に細工したのは」 「え゛」 「噂によるとマイアミにいる私の友人からのお中元、ネコババしたそうだな」 「な゛」 #ラバウル少佐日誌(37)
2014-09-19 02:40:39……静かに土下座をした、眼鏡の女。 「顔を上げろ」 「許して下さるまでは……」 「ゴネんな、こら」 「嫌です……私、前線になんて出たくないです」 「諦めろ」 「嫌ァ!」 「往生際悪ぃんだよテメエ!」 「やだやだやだ!」 「蒼龍はそんなあざとくねえぞ!」#ラバウル少佐日誌(38)
2014-09-19 02:45:14------その後、約半時間に渡って彼女は土下座姿勢のまま第三倉庫の床にへばり付いていたが、遂に日向と長門によって引き剥がされた。 そして彼女が同倉庫内に隠していた『大淀』の艤装は、無事に彼女自身への取り付けが完了したのであった。 #ラバウル少佐日誌(続く)
2014-09-19 02:49:36