- akigrecque
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350作超えおめでとうございます!
140字小説いつのまにか350を超えてました。100になったときはたくさん書いた!と思ったけど、いまはふつう。短歌俳句なら1000書いて一人前みたいだし。淡々と書いてこう。
2014-09-02 21:18:27では、350から。
小さな無人駅の古い柱に、僕はこっそり「こんにちは」って書いたんだ。だれかに宛てたものじゃなく、文字に気づいた人みんなに宛てて。書き手が僕かどうかも問題じゃない。だれかからだれかへの挨拶として、いつまでも文字がそこにあったらいい。そう思って駅を出た。木漏れ日の道に蝉の声が響いてた。
2014-08-11 18:14:21雨上がり、久しぶりの街を歩いた。並んだビルも店もずいぶん変わった。よくここを歩いていたころ、わたしはまだ学生で、あそこは中古カメラの店だった。むかしの風景が目の前にだぶり、わたしはすこうし透けていく。舗道の水たまりを若いわたしが飛び越えていく。軽やかな後ろ姿がきらきら光っている。
2014-08-12 22:59:27毎晩ノートに記憶を書く。小さいころの出来事や住んでいた家のこと。空き地に茂る草や蝉の抜け殻、覗き窓からはいってくる虹色の光。いくら書いても書き尽くせない。どれももう存在しないのに。原っぱ、永遠の光。生きてることに泣きたくなる。あれもこれも蜃気楼のように、彼方でゆらゆら揺れている。
2014-08-15 20:40:40明け方、鳴き出した蝉の声を聞きながら、君のことを考えていた。どうしても許せないと思ったり、もう会うことはないだろうけどそれでもどこかでつながっているような気がしたり。でもきっと、それは全部まぼろし。汗のようなまぼろし。のぼってきた太陽が雲を照らし、しずかにしずかに喉が渇いてくる。
2014-08-17 09:29:05どうもこうも、こう暑いと身体の輪郭が溶けてくね。動物とか植物とか言ったって、生きもんなんて所詮どれもたぷたぷした水の塊なんだからさ。溶けて、蒸発して浮かんで、みんな混ざって雲の大陸になって、空を流れて。生きてるってなんだろ。広い平原を行く動物たちの眼に映る空のようなもんだろうか。
2014-08-18 11:28:40子どものころ、よく父がいなくなる夢を見た。父は家にいて、平穏な暮らしだったのに。でも記憶のところどころに穴があり、見たくないものが詰まっていたのだとあとで知った。そう、父はほんとはここにいなかった。あの身体は空っぽだった。父の椅子に座る。背負われたときの暗い温かみをたどっている。
2014-08-30 17:23:44原っぱを歩いている。空が青くて、ひょっとしたらわたしたちみんな、まだ生まれてないんじゃないか、ここは大きなたまごのなかで、あの外にもっと大きな世界があるんじゃないか、なんてくだらないこと考えたりして、おーい、と手を振ってみる。だれかいませんか。走り出す。空がどんどん近づいてくる。
2014-08-31 10:45:10小学校からピアノの音が聞こえてくる。夏休みが終わったのだ。濃い影を踏み、わたしが死んだあとの世界を思う。どうせ忘れ去られるんだから墓なんかいらないよ。夏の終わり。跡形もなく消える虫たち。こんな季節をあと何回過ごせるのか。懐かしい、生きてることがなにもかも。空に蜩の声が満ちていく。
2014-09-02 21:15:01幼いころ父が死んだ。母の話では父は龍を見たらしい。龍を求めて日々その淵に出かけ、龍に食われた。わたしは龍を憎み、殺すために日々淵に出かけた。やがて母も逝き、わたしは龍を見た。龍は美しかった。わたしを食うことなく透明な玉を残し去っていった。それからひとり龍の玉を磨いて暮らしている。
2014-09-03 19:37:09昨日は人工のサバンナでシマウマやキリンと眠ったんだ。動物たちはじっと動かずに、暗い空の下にいた。僕はゆっくり星を数え、ほんとのサバンナのことを思った。ここの動物もサバンナの動物も僕もいつか死ぬ。星もいつか燃え尽きる。今だけいっしょにここにいる。さざ波みたいに、遠い風が吹いていた。
2014-09-05 19:23:06