ほしおさなえさん(@hoshio_s)の140字小説34

ほしおさなえさん(@hoshio_s)の140字小説34 その340~その349です。 ほしおさんのサイトはこちら⇒ http://hoshiosanae.jimdo.com/ 続きを読む
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ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その340。

2014-07-15 20:54:00
ほしおさなえ @hoshio_s

雲がのびている。地球の写真を思い出す。白いものを薄くまとって、これが雲なんだ、この下に僕らがいるんだ、と思ったら、くらくらした。不思議だね。こんなに近くにいるのに全体は見えない。地球、君は知っているのかな。僕らがここにいることを。窓辺でいつも君を思うよ。遠い星のように君を思うよ。

2014-07-15 20:56:15
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その341。

2014-07-16 22:47:59
ほしおさなえ @hoshio_s

真夏の陽の下を歩いていると、浮き上がりそうになる。熱い空気の中を泳ぐように、金魚みたいな赤いひれで、ひらひら飛んでいくんだ。地面も建物もしゅわしゅわと溶けて、命のあるものもないものも全部蒸発してしまう。ふわりと風が吹く。アスファルトの上の影につながれて、なんとか形を失わずにいる。

2014-07-16 22:48:41
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その342。

2014-07-17 10:05:37
ほしおさなえ @hoshio_s

壁に娘の背を記した鉛筆の跡が残っている。幼いころのものは信じられないほど低くて、小さいね、と娘と笑う。娘はここにいるけれど、あのころの娘はもういない。笑って、走り回っていた小さいあの子は消えてしまった。時はいつも淡く流れる。あの子を思いながら、娘の頭のうえに一本、新しい線を引く。

2014-07-17 10:06:07
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その343。

2014-07-23 22:39:36
ほしおさなえ @hoshio_s

身体の底のどこか遠いところで、ぽちゃんと水の音がする。光る魚が泳いでいる。夏の川だ。父さんも母さんもいる。妹とわたしはじゃぶじゃぶ川にはいり、冷たい水が心地よい。疲れて河原に寝転んで、まだ子どもなのに生きることに少し飽きてた。あのころは長かった。一日も人生も無限みたいに長かった。

2014-07-23 22:40:06
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その344。

2014-07-26 11:53:53
ほしおさなえ @hoshio_s

とても暑かったので、夢が現実に混ざり込んできてしまう。床からも机からも草が茂り、小さな虫が顔を出す。翅は薄く、身体はないみたいに細い。小刻みに羽ばたき、浮かび上がる。生きるって儚いことだ。わけもなく悲しくなって泣いている。ひんやりした床にぺたんと座り、迷子になったみたいだと思う。

2014-07-26 11:54:51
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その345。

2014-07-28 14:28:14
ほしおさなえ @hoshio_s

恩師と会った夢を見た。客の少ない店で外国の民芸品を眺めていた。近況を話す。笑った目が胸に染みて、長い間足りなかったのはこれだったのだと思う。亡くなって何年経つのか。長く生きれば知った人はだんだんいなくなる。世界がぼろぼろ欠けていく。笑った目が浮かび、意外と近くにいるのかもと思う。

2014-07-28 14:28:45
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その346。

2014-07-30 17:22:44
ほしおさなえ @hoshio_s

アスファルトに蝶が落ちている。力尽きたのか、もう羽ばたけない。蟻が蝶を引いてゆく、ヨットのようだ、という詩を思い出す。蝉の声がする。たくさん生まれ、たくさん死ぬ。夏は死骸に満ちているはずなのに、滅多に見ない。死んだそばから食べられていくのか。鮮やかな羽が、右へ左へはためいている。

2014-07-30 17:23:13
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その347。

2014-08-02 22:45:27
ほしおさなえ @hoshio_s

真昼、影が濃い。西瓜の匂いを思い出す。ふたりで食べて種を弾いた。強い愛着は相手を縛る。自分も縛る。これ以上近づいちゃいけないと思う。心なんてどこにもないのに、身体は借り物にすぎないのに、縛られているのはなんなのか。西瓜の青い匂いを思い出す。幻が幻を縛って、陽炎のように揺れている。

2014-08-02 22:45:54
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その348。

2014-08-03 22:44:42
ほしおさなえ @hoshio_s

大きな果実を抱いて眠っている。夢のなかでわたしは大地だった。果実が割れ、芽がするするとのびていった。わたしはどんどん広がって、だれかに会いたいと思った。空が白み夜が明ける。花が開いたとき目が覚めた。果実はない。あれも夢だったか。これもまた夢か。薄闇にほんのり土の匂いが残っていた。

2014-08-03 22:45:30
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その349。

2014-08-07 09:43:18
ほしおさなえ @hoshio_s

繭のなかに乾涸びた塊がはいってた。蚕の死骸だ。あんなに大きかった幼虫がこんなに小さくなるなんて。あれだけ糸を吐くんだから当然か。繭は煮立てられ、蚕は外に出ずに死ぬ。何千年も飼われるうちに蚕蛾は真っ白になり、羽化しても飛べなくなったんだそうだ。繭玉が積まれている。白い白い棺の山だ。

2014-08-07 09:43:53