「メリークリスマス・ネオサイタマ」 #5

B・ボンド&P・モーゼズ作。ネオサイタマを舞台としたサイバーパンク・ニンジャ活劇「ニンジャスレイヤー」の私家翻訳物 詳細はこちら http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

動脈血のように赤黒いニンジャ装束を纏い、フジキド・ケンジはシャチホコ・ガーゴイルの上に独り佇む。あの日から、全てが変わってしまった。もう、決して元通りにならないものがあるのだ。 重金属酸性雨で羽を傷めた鴉たちが群れ集い、フジキドの体に停まり、黙々とフロストバイトの肉を啄んでいた。

2010-11-24 23:58:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「「「ニンジャ殺すべし。だが、俺の供えるセンコは、本当にフユコやトチノキの魂を慰めているのだろうか。彼らは、オーボンの夜にも還らなかった。俺は、正しいのだろうか。俺は本当に、正気なのだろうか」」」 ひときわ大きな三本脚の鴉が、生首から片眼を抉り出し、顔を上げてごくんと呑みこんだ。

2010-11-25 00:04:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「「「なんたるマッポーの世だ!」」」フジキドは心の中で苦悶する。「「「もしかすると、俺の魂は、俺の中に憑依したあの謎のニンジャソウルと溶け合って、ひとつになっているのではなかろうか。だとしたら……いや、待て、これは何だ!」」」 ニンジャスレイヤーが不意に動いた。鴉たちが飛び去る。

2010-11-25 00:08:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フジキドは生首を手早くシャチホコの口に詰め込んでから、ニンジャロープとニンジャ脚力を巧みに使って屋上から飛び降りた。果たしてそれは、いかなる偶然であったのか。遥か遠く離れた地上から、ごくごく微弱な……焚かれたオーガニック・センコの香りが……奇跡的にも彼の嗅覚細胞に結びついたのだ。

2010-11-25 00:13:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

スゴイタカイ・ビルの中階層付近まで降りた彼は、垂れ幕を吊るす突起に手を引っ掛け、そこから鋭いニンジャ視力でビル前広場を見た。そこには、マルノウチ抗争慰霊碑の前で静かに手を合わせる、ノボセ息子夫妻とムギコの姿があった。 「おお……ナムアミダブツ!」フジキドのメンポを血の涙が伝った。

2010-11-25 00:18:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

祈り終えたムギコの父は、ノボセ老から託されたオリガミ・メールを読み返した。『ムギコや、わしにはひとつ、心残りがある。お父さんたちと遊びに行くついでに、わしの代わりにスゴイタカイ・ビルに御参りに行っておくれ。お前にはまだ何のことやら分からないだろうが、それで皆、少しは救われるのだ』

2010-11-25 00:23:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「さあ、もう帰ろう。風邪を引くと悪い」ムギコの父が後ろを振り向くと、彼らの護衛についていたデッカーたちは、まだ手を合わせオジギの姿勢を取っていた。無理もない、マルノウチ抗争で多くのマッポも死んだのだ、と彼は神妙な顔を作った。 「あっ、これ、カワイイ!」不意に、ムギコが声を上げる。

2010-11-25 00:27:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ムギコの履いていた汚染除けハイカット・ブーツに、寒さと恐怖でガタガタと身を震わせるミニバイオ水牛が擦り寄ってきたのだ。ツチノコ・ストリートを抜けて来た時に、あちこちに小さな傷を負ったようだ。 「ねえ、うちで面倒見てもいい? そう! まだ貰ってないもの、クリスマス・プレゼント!」

2010-11-25 00:31:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「最後まで面倒を見るかい?」「うん」「じゃあいいよ」 「やったあ! お爺ちゃんにもすぐに見せるんだ!」ムギコはPVCレザー手袋でミニバイオ水牛を抱き上げ、大きくネコネコカワイイ・ジャンプを決めて叫んだ。「メリークリスマス! ネオサイタマ!」 ミニバイオ水牛が驚き、静かに失禁した。

2010-11-25 00:36:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「メリークリスマス・ネオサイタマ」 終わり

2010-11-25 00:39:14