稲川淳二のつぶやき怪談　2014年9月25日投稿分

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「いいか！」 とＡ君が言って、壁のスイッチを入れると、 黄色味がかった古い照明がついて、ボンヤリとリハーサル室を照らし出した。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そこは、板の床のガランとした広いスペースで、奥の壁の隅に大きな鏡があるのが目に入った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

扉を開けたままにして、３人が一歩一歩、辺りをうかがうようにして入って行く。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

舞台の準備で慌しい上の階とはうってかわって、物音ひとつ聞こえてこない。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

久美子という女の子が鏡の方へ近寄って行った。 と不意に、 「あっ！」 と声を上げた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「どうした？」 とＢ君が聞くと 「今、鏡の端から顔が半分こっちを覗いてた。」 と、声を震わせて言った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

すると、Ａ君が、 「それ違うよ、俺達のどっちかの顔が鏡のはしに映ったんだよ」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と言うと、 「ううん、女の人だったよ」 と答えた、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「またァ、おどかすなよ」 「本当だってば」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と言い合ってると、３人の背後で、 ギィィィ・・・と音がして“バタン”と扉が閉った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（アレ？） と、３人が顔を見合すと、 リハーサル室の照明が、突然ふっと消えて室内が一瞬にして真っ暗闇になってしまった。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「オイ！何かまずいぞ、出よう！」 闇の中でＡ君の声がして、３人がおよその見当をつけて出口に向かうと不意に、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『アタシ、ここで殺されたよ』

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、背後で、低くしゃがれた女の声がした。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「よせよ、ふざけるなよ久美子！」 と、Ａ君が言うと、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「アタシじゃないよォ・・」 という、久美子という女の子の、泣きそうな声が前から聞こえた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「ええっ？じゃ今、後ろから俺の服引っ張ってるの誰だァ？」 と、Ｂ君が叫んだ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

その途端、 「キャーッ！」 「ウワーッ！」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と３人は悲鳴を上げて、リハーサル室から飛び出すと、 一目散に通路を走り抜けて、階段を駆け上がると、息も絶え絶えに楽屋へ逃げ帰った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

時間が経って、その日、舞台の本番が無事に終ると、 劇団員と親しい観客が何人か楽屋に顔を出してお喋りするうちに、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「ねえ、ひとっ言も台詞が無くてさ、 ずっと後ろ向いてた女の人がいたけど、 彼女の名前も写真もパンフに載ってないのね」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と言ってるのを聞いた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そんな出演者は、初めからいない。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「つぶやき怪談」いかがでしたか？ 怖・楽しい時間を、楽しんで頂けましたでしょうか？ 喜んで頂ければ、何よりです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

不定期なんですが、また「つぶやき怪談」やりますんで、よかったら遊びにきて下さいね。