■ エマニュエル
![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
白い壁、白い床、白い天井。シミ一つない白で統一された広い部屋。そんな、何処か神聖な印象さえ与える空間には風もなく、音もなく、まるで時が止まっているかのような錯覚に陥る。部屋の中央に位置するベッド。純白のシーツに流れるように広がる少女の淡い金髪だけが唯一この部屋に色を添えていた。
2014-08-24 10:31:13![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「とうにとじこめられたしょうじょはくるひもくるひもうたをうたいました。ただひとり、あいにきてくれるおうじをまちながら……」ガチャリと鍵の外れる音がすると透き通るような声は止まってしまった。「アハ、続けてヨ」「……」振り返る少女にあわせて淡い金の髪が白い肩を滑り落ちた。
2014-08-25 00:10:43![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
真っ白なシーツにくるまれている少女はなにを見るでもなくその瞳をぼんやりと瞬かせる。暫くして少女が起き上がるのに合わせて長い光の色の髪がシーツから引き上げられた。白い壁に手を添え部屋の中を歩く。備え付けられた同色のクロゼットで立ち止まると少女は躊躇いがちにその扉を開いた。
2014-09-05 17:34:00![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
ハンガーにかけられて何枚も並んでいる真っ白なシャツ。その中から一枚を外すと再びベッドに横たわった。膝を寄せ、丸くなってシーツと一緒にシャツを抱き込む。「……ヴィゴ、」鼻先を埋めて息を吸い込むと洗剤に混じって微かに男の愛用しているフレグランスの香りがした。
2014-09-05 18:01:03![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
はぁ、と息を吐くと少女の手は自然と自身の下半身へと伸びる。「……、……ん、…っ」控えめに息を乱し、つま先に力を込もる少女の姿は成人女性とはまた違った艶かしさを感じさせる。ヴィゴ、ヴィゴ、と男の名を呼ぶ少女の声が抱き込んだシャツに染み込んでいった。
2014-09-05 18:06:14■ ヴィゴ
![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「ヴィゴさまはまた夜遊び?」「夜会がお好きな方よねえ」「誰に似たのかしら」「あら、そんなことを言って誰かに聞かれたらと思うと恐ろしい!」「でもとても美しいわ」「わたしもヴィゴさまと夜を過ごしてみたい」「こら、あなたたち。お喋りしてないでお仕事をなさって!」「「「はい、チーフ」」」
2014-08-25 02:42:49![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
音楽の溢れるホールの中。酒と香水の香りが混ざって混沌とした会場では溢れかえりそうな人々が皆一様に仮面をつけ、賑やかしく踊ったり談笑を重ねていた。その中を歩く白いスーツの男は少し進む度に右から左からと忙しなくかけられる声に愛想良く応えていく。
2014-08-25 03:26:49![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「ねぇヴィゴ、遊ばない?この前よりずっといいことしてあげるわよ」「ホント?んー、どうしよっかナ」「ヴィゴ、それより私と前の続きをしましょうよ」「アハ、キミとは長くなるカラまた今度ネ」「ねえ、ヴィゴ」「ヴィゴったら、」「はぁい!ヴィゴ」 「うーん、キミたち仮面の意味忘れてなイ?」
2014-08-25 03:30:40![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
漸く全ての声を振り切ってテラスへ抜けると、男は胸にさしていた花を抜いてくつくつと笑った。「火遊びはほどほどにってパパが教えテくれなかっタのかナ?お嬢サマ♡」眼前に花を差し出された女性と呼ぶにはまだいくらか幼さが残る容姿の少女は驚いたように顔をあげ、それから少しむくれて顔を逸らした
2014-08-25 03:57:39![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
少女が俯くと前髪がかかって表情はわからなくなる。「……あなたには、関係ありませんわ」「アハ、こんなトコロにまで顔を出したノに?」「私だって…夜会に出ることくらい……あります」「嘘ツキ♡」男が優しく髪を掻き分ける。顔を隠す布越しに瞳を合わせれば、少女は明らかに動揺して頬を染めた。
2014-08-25 04:08:30![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「ボクを追いかけテ、こんな"ハシタナイ"ところまで来たんでショ?素直じゃないよネ、キミは」「……、」図星をさされた少女は恥らうように視線を逸らし、逃げるようにホールへと足を向けた。それを男の手が許さない。
2014-08-25 04:18:12![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「私、やっぱり帰ります……他の女性と、…お話すればいいじゃないの」わかりやすく拗ねたように言う少女の手を引くと、腰に手を回してぴったりと体を抱き込んだ。息を止める少女。それを見下ろす男は酷く楽しそうだ。「ダーメ♡勇気を出してお城を飛び出したイケナイお嬢サマを攫いたくなっちゃっタ」
2014-08-25 04:22:53![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「キミが選んデ」男は再び少女に白い花弁の愛らしい花を差し出す。「可愛いキミにこんな場所は似合わなイ。望めばボクが連れ出してあげル」騎士にも王子にも到底見えない笑みで囁く男の手から、少女は戸惑いながらもマーガレットの花を受け取った。その瞬間、男は少女の唇を奪う。「よく出来ましタ」
2014-08-25 04:40:00![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
バン、と銃声が轟くと一斉に鳥たちが日の傾いた空へと飛び立った。「ウン、とっても上手になったネ、アデル」「あ、ありがとうございます」先ほどの銃弾は数メートル先の狐を見事に打ち抜いており、その弾を放った少年は自分の主人に褒められると照れたようにはにかんだ。
2014-08-30 21:45:32![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「今日はもう帰ろっカ。ボクお腹空いちゃった」狩った獲物を拾い上げた青年はそれを少年に手渡すと軽く頭を撫でて馬に跨る。「ヴィゴさまにお仕事教えてもらってるんじゃ世話ないわね」「う、うるせーよ!アリス!」惚けるようにそれを見つめていた少年を隣に居た少女がくすくすと笑った。
2014-08-30 21:49:26![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「俺はまだ狩猟番”見習い”だからいいんだよ!すぐにアリスより使えるようになってやるからな!」「はいはい、期待しないで待ってますよ後輩くん」完全に少女にあしらわれまだなにか言いかけながらも少年も渋々と馬に跨る。「だいたい、狩猟の腕じゃアリスだってあの人には適わないじゃねーか」
2014-08-30 21:56:17![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「ヴィゴさまはちょっと恐ろしいくらい腕が良いからね。暇つぶしだからって大会には出場されませんけど、このあたりじゃヴィゴさまの右に出る人なんていないんじゃないかしら。生まれ持っての狩人よ、あの人は」同じくして馬に跨った少女の言葉を聞いて少年はただただ頷くしかなかった。
2014-08-30 21:59:55![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
確かに、銃を構えるヴィゴさまは驚くほど気配がない。ヴィゴさまの正確な射撃は動く獲物でも簡単に仕留めてしまうのだ。まるで弾に獲物が吸い寄せられるように。獲物に狙いを定めるヴィゴさまはとても楽しそうでいつものように飄々としているのに、引き金を引く瞬間のあの笑みは、正直ぞっとする。
2014-08-30 22:08:08![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
”生まれついての狩人” 同僚のその言葉は正確に的を得ているように思えた。「ネー、はやくしないと先行っちゃうヨー?」少し前方からぶんぶんと手を振るヴィゴさまは相変わらず歳不相応なほど無邪気に笑っていた。「はーい!」「いま行きます!」子供のように急かす主人に慌てて馬を走らせた。
2014-08-30 22:13:20