フォロワーさんの好きな要素を可能な限り詰め込んだショートストーリーを書いた結果

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碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「ナンデ!?」少女は叫ぶ。いきなりアーサー王となったショック、そして怪物に追われるストレスによって、彼女の自我もまた崩壊の淵にあるのだ!おお、マーリンよ!寝ているのですか!……だが、未熟とはいえエクスカリバーを持つアーサーを追う怪物は、いったい何者なのだろうか? 13

2014-10-14 00:20:59
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

標準的なアーサー王の戦闘力は、およそ戦闘機一機分に相当すると言われている。だが百万本近く製造されたエクスカリバーは在庫が溢れ、今や露店で売られている。興味本位でエクスカリバーを手に入れアーサーとなってしまう若者も多く、「聖剣、ダメ、ゼッタイ」の標語と共に回収が試みられてきた。14

2014-10-14 00:27:20
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

それでも、アーサーになれぬ者はいた。聖剣から見放され、尚も力を欲したある男は遂にゾンビとなり、そして原子力を手に入れた。原子力ゾンビとなった男は、アーサーを殺すもの……アーサースレイヤーとなって舞い戻って来たのだ!それこそが、アーサーを追いかける怪物の正体なのである! 15

2014-10-14 00:35:24
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

エクスカリバーを不用意に振りかざしていた少女が標的となったのは、怪物にとっては僥倖、少女にとっては不幸な偶然であった。「ア■■ー!!」怪物はチェレンコフめいた青白い光を放ちながらアーサーを追う!少女は逃げる!怪物の腕が飛ぶ!ロケットパンチ!「アイエエエ!」ナムサン!科学の力!16

2014-10-14 00:42:23
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

……だが!次の瞬間、怪物の腕はエクスカリバーめいた鋭利な刃物で切り払われた!ロケットパンチはワタアメの如く裂ける!怯えるアーサーの技では有り得ない。「アー■ー!!」怪物は唸る!この高密度ARS(アーサー・リアリティショック)空間において、活動できる者が他に居るというのか!? 17

2014-10-14 00:51:57
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

それはアーサーか、円卓の騎士か。その威光を知らぬ蛮族か、或はそれらに倒されるべき異形の者か。その何れかに他ならぬであろう。アーサーたる少女の前に現れたのは、暗殺者(アサシン)装束の少女であった。 18

2014-10-14 01:02:45
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「ドーモ、ジャック・ザ・リッパーです」女はアーサーネーム(アーサーを区別するための便宜上の呼び名)を名乗った。鋭利な刃物。……エクスカリバーのような。ブリテン史に詳しい読者の方は既に察しておられることだろう。……そう、ジャック・ザ・リッパーもアーサーの一人だったのだ。 19

2014-10-14 01:04:39
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

『アーサー同士は惹かれ合う『これはブリタニア列王史にも記述されていることである。この巡りあわせもまた、聖剣の導きなのであろうか?アーサー(怪物に追いかけられていた少女)は、熱っぽい瞳でジャック・ザ・アーサー(便宜上こう呼称する)を見つめている。 20

2014-10-14 01:13:24
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「あンた、新米かい?」ジャック・ザ・アーサーはコックニー(ロンドンの下町訛り)でそう言った。「は、はい……」アーサーは答えた。「抜きな」ジャックは言い放つ。「あんたにも、剣(エクスカリバー)があるだろう」『エクスカリバーは一本でいい』七王国時代の詩人アーサーの格言にもある。 21

2014-10-14 01:25:05
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

だが、今は聖剣に見捨てられし原子力ゾンビの始末が先だ。ジャック・ザ・アーサーは彼女のメス型エクスカリバーを構える。とてもではないが剣とは呼べない代物。かつて連続殺人犯の手に渡り、穢れた曰くを持つ聖剣。「そんなもので……」そんなもので、あのゴリラめいた殺人鬼怪物を凌いだのか。 22

2014-10-14 01:29:47
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「エクスカリバーの大きさは、関係ない。アーサーは、いつだって器を極めた奴が上を行く」アーサーの驚きに、ジャックは応える。これは、ブリタニア列王史からの引用だ。言葉遣いとは裏腹に、ジャック・ザ・アーサーの高い教養を伺わせる。……彼女もまた、一体何者なのか。 23

2014-10-14 01:33:53
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

しかし、それは今は問題ではない。穢れた聖剣と、聖剣にすら見捨てられた男は対峙する。「……参る」ジャックは跳んだ。暗殺者(アサシン)装束の少女が、ロンドンの空を舞う。「……Ar……thur-----‼!!」原子力ゾンビは青白く光る!サイエンス! 24

2014-10-14 01:43:18
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

……そして。ジャックの聖剣(エクスカリバー)はいともあっさりと男の喉元に到達し、喉笛を掻き切った。「■■■■----!!」怪物は悶絶し、青白く発光する体液を撒き散らしながら倒れ伏す。「アーサーでなければ、こんなものか」着地し、ジャックは呟く。 25

2014-10-14 01:52:54
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

あまりにもあっさりしすぎている。怪物を倒したなら、残るは目の前の新しいアーサーのみ。だがアーサーの目は恐怖に見開かれている。自らの運命を悟ったのか。ジャックはそう考える。……いや、その視線はジャックの後ろに注がれている。「……ジャックさん、後ろ!」振り向くジャック! 26

2014-10-14 01:56:54
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

そこには、起き上がる原子力ゾンビの姿!そう、ゾンビ映画に詳しい方はご存知であろう。ゾンビは、喉を切られた程度では倒れない!(※作品により耐久度には差があります)しかも彼はただのゾンビではなく、アトミックなゾンビなのだ! 27

2014-10-14 01:58:25
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

だが、ノーUTSUWA、ノーアーサー。彼女はUKATSUではあったかもしれない。しかし、彼女のUTSUWAは確かなものであった。その確かな器の力で原子力ゾンビは思考能力を破壊され、体内の核物質は制御を離れてバーニング大怪獣めいた暴走状態となったのである! 28

2014-10-14 02:04:39
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

このままでは、原子力ゾンビはメルトダウンしてしまう!そうなればロンドンは具体的には言えないが大変なことになってしまう!とにかくどうにかなんとかせよ!「くっ……!」ジャックもアーサーも、アーサー王としての勘によって原子力ゾンビの異常をおぼろげながら察していた。 29

2014-10-14 02:08:04
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「AAAAA------!!」「どうするの!?」「逃げッぞ!」ジャックはアーサーの手を引く!「駄目だよ!」だが、アーサーはそれを拒んだ!「なんで!」ここは市街地。周囲には、ARSで意識を失った人々が横たわっているのだ。「だってそんなの……アーサー王じゃない!」 30

2014-10-14 02:13:57
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「バッ、お前!死ぬぞ!」「それでも……王様なら、みんなを守らなきゃ!」「夢見てんじゃねぇ!こんな粗製乱造の聖剣握らされて、何が王様だ!お前の代わりなんて、幾らでもいるんだぞ!」「アーサー王は、器……でしょ?」「……」それは、ジャック自身が口にした言葉だった。 31

2014-10-14 02:20:52
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「……」「剣より鞘、か」それはかの魔術師マーリンの言葉。「……意地張っても仕方ねぇな。付き合うよ」数秒のにらみ合いの後、ジャックは根負けした。自分だけではない。沢山の人の命が賭かっている。それでも、アーサーの心は晴れやかだった。 32

2014-10-14 02:27:55
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「AAAAA-----!!」更なる絶叫とともに、原子力ゾンビの体が溶け始める。完全なメルトダウンまで、もう猶予は幾何もないだろう。「勝算はあんのか?」「……わからない」「……ハッ」だがもう、怪物におびえていた少女はそこには居なかった。「なら、好きにやってみな」33

2014-10-14 02:32:00
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

アーサーは頷き、剣に手をかけた。或は、ジャックの聖剣が穢れていなければ。怪物を一人で倒すことが出来たのかもしれない。ここでアーサーと出会わなければ、別の結末を迎えていたのかもしれない。すべては巡り合わせだ。それはきっと、剣の刺さった岩に、誰かが手をかけたその時から。だから。34

2014-10-14 02:36:18
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「応えて……私の聖剣(エクスカリバー)!」そう口にして、アーサーは剣を抜き放つ。 その刀身には、二匹の黄金の蛇が刻まれていた。二匹の蛇は炎となり、剣を包む。「まさか……あれは、アルスルの」「うわああああああーーーーーっ!!」アーサーは絶叫と共に、炎と化した聖剣を振りぬく! 35

2014-10-14 02:43:15
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「本物の……聖剣」ジャックは呟く。剣の炎は光の柱となり、怪物を焼く。天を昇る龍……天龍めいた聖剣の光。龍を統べる者、ペンドラゴン。 彼女のような少女こそが、本物のアーサーなのかもしれない。ジャックは、思った。 36

2014-10-14 02:46:24
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「AAA……アー……サー……」聖剣の光に焼かれる刹那。男は、過去を見ていた。自分は、本当に聖剣が欲しかったのだろうか。何のために原子力を欲したのか。……何のために。もう、思い出せない。それでも。暖かい光の中で逝けるのならば幸せなのだろう。それが、男の最後の思念であった。 37

2014-10-14 02:51:09