ロンゲスト・デイ・オブ・アマクダリ10100745:ショック・トゥ・ザ・システム #1

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

マスターマインドが眉間に皺を寄せる直前、チバがグンバイを掲げ、ハーヴェスターにIRC退室を促した。「では、良い船旅を!」コート姿の老兵は呵々と笑い、湾岸警備隊式の敬礼を行って切断する。ハーヴェスターの目と口元には、隠しようのないウォーモンガーじみた笑みがこびりついている。 21

2014-10-13 22:49:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アガメムノン=サンの状況は?」マスターマインドが問う。「ハナミは第3段階へ。休憩を挟みタコの間に移った。秋のハナミだ」チバが返す。「予定通りですな。では全体計画に変更は?」「無論、無い。システムは完璧だ」チバが返す。アガメムノンから命じられた言葉を伝えるだけの傀儡めいて。 22

2014-10-13 23:03:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

マスターマインドはチバとの形式的な報告を消化しつつ、網膜モニタの時刻とIRCタスクを確認。日本政府からは、アマクダリ・ネットよりもやや遅れて、治安維持関連のノーティスが届いている。彼は己のスケジュールを秒刻みで管理している。あの戦争屋との雑談で、少々時間を削られてしまった。 23

2014-10-13 23:13:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

同時に、アルゴスからもIRC経由でデータが届く。「……確かに、この程度の混乱ならば、洋上、前線、ニチョーム、いずれにも支障は出ますまい」マスターマインドは頷く。「むしろ、市民の目がそちらに向けられ好都合。対テロを掲げるシバタ=サンへの権力委譲プロセスも、よりスムーズに進行」 24

2014-10-13 23:23:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「滞り無く権力委譲プロセスが進む事を期待しております。私一人では少々、荷が重い…」マスターマインドは政治家的な作り笑いを浮かべた。シキタリは日本政府の官房長官である。当然、ネオサイタマ市議会は日本政府より上位にある。そして、ネオサイタマ市議会より上に暗黒メガコーポ群がある。 25

2014-10-13 23:28:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

事実上、現在の日本を裏から操っているのは、暗黒メガコーポ群の有する膨大なマネーだ。シキタリはその事実を快く思ってはいない。複雑だからだ。ゆえに、ニンジャの力によってそれら全ての最上位に君臨せんとするアマクダリ・セクトと、その「十二人」の地位を、彼は大いに好ましく思っている。 26

2014-10-13 23:33:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

日本国会は、暗黒メガコーポのために新たな法案を通し、またスケープゴートを提供する場に過ぎない。多ければ年に4度も首相が交代し、大半はセプクで政治生命の幕を閉じる。その度に内閣は総辞職し、進行中の案件も凍結されるのだ。これでは何も進まない。だが、アマクダリならば戦争ができる。 27

2014-10-13 23:42:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

戦争は極めて合理的だ。ミニマルで、機能的で、美しい。マスターマインドはそう考える。彼はハーヴェスターのような、前線のケオスに胸躍らせるような戦争狂ではない。自分はあの“収穫者”のために下地を作る。私情は挟まない。そのようにして「十二人」は機能する。そして世界を征服するのだ。 28

2014-10-13 23:46:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

世界征服……それこそがアマクダリの究極目標である。計画の全貌を握るのは、アガメムノンただ独り。それ以外の「十二人」は、各々の専門分野に邁進するのみ。だがマスターマインドはその立場上、アマクダリの陰謀規模を推測できている。彼らの征服対象はネオサイタマでも日本でもない。世界だ。 29

2014-10-13 23:57:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

Y2Kによってこの世界は一度変わってしまった。それをあるべき姿に正すのが、アマクダリの計画だ。何故秘密裏に、宇宙開発関連の事業が進められているのか。何故湾岸警備隊が、これほどまでの重火力を有しているのか。全てはある一点に収束する。……世界を分断する磁気嵐が、晴れたとしたら? 30

2014-10-14 00:14:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

マスターマインドはその計画の一端を担っている。全容を知る欲求など無い。システムは正しく理想的な責務の配分によって構築されているからだ。そのようにして組織は動く。そして世界が磁気嵐とY2Kのフートンに包まれ寝静まっている間に、途方も無い計画の実現へと、一足飛びに移行するのだ。 31

2014-10-14 00:25:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

日本政府とのIRCを水面下でこなしながら、ラオモトとの通話は続く。マスターマインドは彼に敬意を払う。チバはやがて、地球の新たな盟主となるやもしれぬ少年だからだ。そこへ艦内の通信網から些末な報告。『ドーモ、前方の戦闘演習海域に、シーライフ保護団体のものと思われる船が一隻……』 30

2014-10-14 00:35:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キョウリョク・カンケイ艦隊は10分後に、オナタカミ社から納品された無人原子力空母艦隊と遭遇戦闘演習に入る予定だ。その遭遇ポイントとなる海域に、微弱な救難信号を発しながら、「ラッコ」「地球規模で」「カウボーイ」などの旗を掲げた、シーライフ保護団体の遭難船が漂っていたのである。 31

2014-10-14 00:43:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

人命ごときを優先すれば戦闘演習に遅延が発生する。くだらぬ遅延が。『私は何も聞いていなかった』シキタリ官房長官はIRCを送る。即ち、この遭難船の存在を無視して良いということを意味するのだ。ナムアミダブツ!『アリガトゴザイマス!捗ります!』高官のIRCとオジギ・コマンドが返る。 32

2014-10-14 00:49:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「では最後に、洋上戦闘演習の首尾はどうか?」チバが問う。「問題ありません。滞り無く10100800より開始されます。これでオナタカミ社の無人艦隊計画が実用レベルに達することを期待しましょう。よろしいでしょうかな?では、これにて」マスターマインドはオジギし、IRCを切断した。 33

2014-10-14 00:56:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「間もなく8時ドスエ、オツカレサマドスエ」高級電子マイコ音声が鳴り、壁がパカリと開く。オーガニック朝食セットが自動アームで彼の前に供された。「ふむ」シキタリ官房長官は時刻を確認し、頷き、食卓につく。総菜は煮物、トーフ、トロなど。見た目の華やかさは無いが、1食数十万円はする。 34

2014-10-14 01:02:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ファオオオオオー、オーン、ファオオオオオーン……。清々しいサイバー雅楽が、船室に響き渡る。シキタリ官房長官はゆっくりと朝食を取りながら、全方位モニタに映し出される洋上戦闘演習の様子を観察した。網膜モニタには、オナタカミ社からリアルタイムで送信される各種高次データが流れる。 35

2014-10-14 01:10:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

10100800。艦隊は予定通り、戦闘演習を開始。モニタに最初に映し出されたのは、敵が放ったドローン攻撃機ハイタカの強襲編隊だった。続いて、黒い船体のスリットに青色LED光を灯すオナタカミ無人空母艦隊の威容。そして海中をアノマロカリスめいて泳ぎ進む、多脚戦車シテムシの編隊。 36

2014-10-14 01:19:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

10100802。対空射撃を突破したハイタカ編隊が、ショットガンを装備した甲板上の警備隊員に襲い掛かる。隊員視点のカメラ映像が何十個も映し出される。「アイエエエエエエ!」「アバーッ!」そして次々途絶する。「AIが改善されたか。殺傷効率も良い」シキタリはミソ・スープを啜った。 37

2014-10-14 01:30:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

10100803。最初のブロードサイド砲撃が開始。タイコを叩くような音と微かな震動が、シキタリの船室まで届いた。リズミカルな水柱が上がり、その一発がシーライフ保護団体の船を爆散せしめた。別な一発が、息継ぎに浮上してきていた不運なクジラの親子を絶命させ、空高く弾き飛ばした。 38

2014-10-14 01:51:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

10100804。上空の戦闘は、機動力で勝るハイタカ編隊が有利。甲板を持たず全面を装甲化したオナタカミ無人空母は、左舷側で砲撃を受けつつ、右舷側の射出口を開き、さらなるドローン兵器を放出。負傷者がうめく有人艦隊の甲板上にはシデムシの第一波が這い上り、ミニガン斉射を開始した。 39

2014-10-14 01:51:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

10100805。シデムシが甲板から有人駆逐艦の内部へ侵入。キョウリョク・カンケイの主砲が火を吹く。無人空母大きく揺れる。クジラの親子は仰向けのまま、寄り添うように、海中深く沈む。誰も顧みる者は無い。無論、その隣を高速スキューバ潜行する2人も、誰にも見咎められることはない。 40

2014-10-14 02:02:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

それは誰あろう……ニンジャスレイヤーと、ナンシー・リーである!果たして彼らは、ネオサイタマから如何にしてこの海域へ辿り着いたのか?その答えは、先程のシーライフ保護団体の船である!あの船に乗っていたのは、彼ら2人だけ。戦闘開始直前に乗り捨て、海中深くへと潜行退避していたのだ。 41

2014-10-14 02:08:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

最新鋭のサイバー潜行スーツと推進装置を装備した二人は、偶然遭遇したクジラ死体の物憂げな目の横を進んだ。この世のものとは思えぬ光景だった。ナンシーはすれ違いざま、クジラの頬に優しく触れ、これがコトダマ空間ではないことを確かめた。その横で、復讐者は目標艦隊をじっと見据えていた。 42

2014-10-14 02:15:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「クジラ重点!」ナンシーの推進装置に内蔵されたモーターチイサイが、後方に消え行くクジラを照らし電子音声で告げた。「それはもういいのよ」ナンシーが返した。2人は無言で頷き、さらに深く潜った。このまま有人艦隊の腹の下を潜り、反対側へ抜ける。モーターチイサイが進行ルートを照らす。 43

2014-10-14 02:22:14