硝子の田園

珪素さん(@keiso_silicon14)の書いてらしたお題SSを(勝手に)まとめました。
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珪素 @keiso_silicon14

フィールド内に封じ込めた高熱で、侵入した者を焼き溶かす。……この装備も、一度限りだ。アスファルトと人間がくっついた様は、高度身体改造者の悪趣味な戯画化のようでもある。「残る兵装はいくつだ、ユウスケ」「2つしかない『梯子酒』。『ステッキ』」「……嘘だろう?」ぼくもそう思いたい。5

2014-10-15 01:44:28
珪素 @keiso_silicon14

闇から光る二つの瞳が現れた。しなやかな猫の肢体。まるで機械ではないかのような。「ホストフレームは残り3体もいるんだぞ。こいつだってダミーかもしれない」溶けた隠密使いを走査すべく、前足が触れる。「……そうじゃなきゃ、ぼくが死ぬだけだろう」全4体。四天王。ノスタルジカルな名付けだ。6

2014-10-15 01:50:28
珪素 @keiso_silicon14

量産護衛機『メイド』。大型飛行船『ペリカン』。ここまで無人機ばかりを狙ってきたのは――非改造者のぼくでは、人間ベースの高度身体改造者に――それもガルガンチュア直属のホストフレームには敵わないことを、十分に知っていたからだ。それができるだけの装備を、そいつらから獲得するためだ。7

2014-10-15 01:55:10
珪素 @keiso_silicon14

高度索敵。ハッキング&リペアー。現状のぼくの戦闘能力は、ほぼ『世界歩き』に依存している。こいつは何者なのか?「近いだろう。この風景なら」硝子都市は急激に開けて、西暦時代のような田園風景が球状に広がる。「……こんなところに、ガルガンチュアが」「そういうものだ。芸術者というものは」8

2014-10-15 01:59:32
珪素 @keiso_silicon14

自らが繰る科学技術とまったく相反する、倒錯したノスタルジー。芸術者はこんなものの方が重要なのだ。僕と妹が暮らした、その時代よりも。「……後悔した事はないか?ユウスケ」「今になって言うことじゃないだろ」少しだけ笑いが漏れた。田園の蓋が開いて、対人ミサイルが僕らに信管を向けていた。9

2014-10-15 02:03:21
珪素 @keiso_silicon14

四角く生い茂る緑は、所詮上辺を飾るインテリアに過ぎない。「……制御室を」右袖に隠していたロッドが一瞬で伸びる。『ステッキ』。『ペリカン』が装甲機に用いる、一種のパイルバンカーだ。僕はそれを、後ろ手に構える。敵は前だけではない。唸るジャイロの振動の群れを、ぼくは背に感じている。10

2014-10-15 02:09:59
珪素 @keiso_silicon14

「後方から飛行艦隊。まずいぞ」猫が警告を発する。やはり、次のホストフレームがぼくを捕捉していないはずがないのだ。『ペリカン』数機に『フィンチ』数十機。指揮を執るホストフレームは遥か上空だろう。前方には、田園に隠れた地中艦隊。「分かっている」絶体絶命、というやつなのだろう。11

2014-10-15 02:15:44
珪素 @keiso_silicon14

「制御室は」それ以上を喋らせる余裕はなかった。『世界歩き』を抱えて、彼が点灯した梯子のようなガイドの方向。ぼくは文明事業の時に習った草野球を思い出していた。あの頃は妹もいた。白いボールのような対人ミサイルの弾頭。この軌道を抜ける。地面に突き立てたパイルバンカーを、解き放った。12

2014-10-15 02:20:05
珪素 @keiso_silicon14

地面の反動でぼくらは空を飛び、背後でミサイルの雨が無数の爆花を咲かせた。振り返れば、綺麗な赤の光が硝子都市に反射して見えただろう。機能を果たした後の『鱗』をぼくは正面にかざした。制御室の硝子の壁は、元は大型兵器の『ステッキ』の威力で、軽々と砕けた。左腕が深く裂けて傷んだ。13

2014-10-15 02:22:59
珪素 @keiso_silicon14

「やるぞ!」間髪をいれずに、ぼくは叫んだ。空中艦隊が来る!「――ああ」『世界歩き』は旧い相棒のように答えた。あるいはいつの間にか、それだけ長く一緒にいたのだろうか?制御室。地中艦群の支配権奪取。ハッキング&リペアー。「艦隊決戦だな」『世界歩き』がシニカルに笑うのがわかった。14

2014-10-15 02:26:32
珪素 @keiso_silicon14

巨大地震のような振動が遠くから響いて、ぼくは息をついた。旅の終わりが近い。ガルガンチュアが、きっとすぐ近くにいるのなら。「『世界歩き』」「どうした。私は忙しい」「もしも君の正体が……」銃声はその時で、猫の体が弾けた。「標的。捉えました」扉から響く、無機質な声。高度身体改造――15

2014-10-15 02:33:17
珪素 @keiso_silicon14

『鱗』の盾でかばっても、次の銃撃を防ぐことはできなかった。ぼくの右腕が割れた。腕が落ちる光景よりも、『世界歩き』の中身が空中に散っている様が。歯車。螺子。やはりお前は機械だったのか。「査問委員長として、反逆個体を処刑しました」空洞じみた胴体のホストフレームが言う。反逆。誰が?16

2014-10-15 02:37:29
珪素 @keiso_silicon14

……ああ、分かっている。まるで高度身体改造じみた技術。『世界歩き』。あいつがもしかして、4体のホストフレームの最後の1体で。まるで旧い相棒のように。――「後悔したことはないか」?もしもあいつの正体が……あいつを動かしていたのが、喪ったぼくの妹だったのだとしたら。……もしも。17

2014-10-15 02:41:14
珪素 @keiso_silicon14

銃口。完全なステルス状態からの奇襲でも、無限の艦隊を率いた爆撃ですらない。仮に相手がホストフレームでなかったとしても、ぼくを殺すには一発の銃弾で十分だった。ぼくは笑った。「……麦茶のユウスケって、どうだろうね?」敵はその言葉に反応すらせず、引き金を引いたつもりだっただろう。18

2014-10-15 02:44:32
珪素 @keiso_silicon14

「ナニ、何をしタ」「今名づけた」マスクの向こうで、ぼくは笑った。「声の電子復元が鈍くなってるぞ。ポンコツ」おかしいのは仕方がない。とっさに思い出したイメージがそうだったからだ。ぼくの右腕は割れて落ちた。中の液体が飛び散った様が麦茶に見えて、そんな、呑気な自分の考えに笑った。19

2014-10-15 02:48:01
珪素 @keiso_silicon14

――そう。割れた。高度身体改造者でないとしても、『高度』でない身体改造はできる。『鱗』のブート機能のみを備えた、硝子の右腕。『ステッキ』も右袖。硝子の右腕の空洞の中には、もうひとつある。「……『梯子酒』」高度身体改造者に対して激烈な効果を持つ、揮発性の、致命的な、揮発神経毒。20

2014-10-15 02:51:11
珪素 @keiso_silicon14

「――」声すら発さずに、ホストフレームの、今や最後の1体が倒れた。人間素体の身体改造者。この手は最初から考えていたプランだった。同量の毒であれば……『生身』の体重が少ないほうが、回りが早いのだ。比較的。「……使いたくなかったんだ、本当に」硝子の扉から、ぼくはよろけて倒れた。21

2014-10-15 02:54:19
珪素 @keiso_silicon14

『世界歩き』を喪った。ガルガンチュアを殺せはしなかった。神経毒の作用がまだ残っている。マスクを外して、ぼくは血を吐いた。(――でも)硝子の田園。炎。芸術者のように、それを美しいと思いたくはなかった。(命だけは、まだ)少女の顔が硝子に映る。反射する炎は、ルビーの滴りのようだ。22

2014-10-15 03:00:52
珪素 @keiso_silicon14

全然リアルタイムでできなかったぞ!

2014-10-15 03:02:26