日本海沿岸沖の小島で鬼を目撃した男の話
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『廃棄土砂の積み上げ方が悪かったことで、何らかの拍子でバランスを崩し、自重に耐え切れず穴へめがけて倒壊し、「ジダン」氏を生き埋めにしたというのが警察の見解であります。しかしながら「何らかの拍子」とは、具体的に一体何でありましょうか?』
2014-10-16 10:20:08『「ジダン」氏は砂に押しつぶされる直前の時点ですでに畳数坪分、深さ3メートル近い穴を掘り終えており、その段階で外部に排出された土砂の量は軽くトン単位になっていたはずです。そのようなものを突き崩せる刺激が、自然界に存在しておりましょうか?』
2014-10-16 10:26:24『風でしょうか?いやそんな馬鹿げた話はありますまい。唯一可能性として考えられるのは地震ですが、拙生が調べたところによると穴が塞がったものと見られる日付において、新潟市では震度1以上の地震は観測されておりません。これは実に不可解なことであります』
2014-10-16 10:31:09『果たしていかなる力学的根拠を元に、仮にバランスを欠いていようと、積み上げられた巨大な砂の山が勝手に崩壊したという一推測を、さも確定した事実であるかのごとく彼らは捜査方針上に通したのでありましょうか?』
2014-10-16 10:46:12『無論土砂の積み上げ方いかんによっては、そのようなことが発生する可能性も否定はできますまい。しかしここで重要なのは、崩壊以前の砂の山が、どのような形状をしていたのか、その本当の姿を知るものは誰もいないという事実です』
2014-10-16 10:47:44『「ジダン」氏が構築した砂の造形物をカメラに収めたという人物はいまだ見つかっておらず、現時点で唯一の目撃者といえる件の老人も、その記憶はあいまいなもので、結局問題の土砂の山が「バランスを欠いていた」と規定すること自体、そもそもどこからでてきたのかまるで分からない話なのであります』
2014-10-16 10:49:44『となれば、当の砂の山は、些細な刺激による自壊とは程遠い、頑強な作りとなっていた可能性すら有り得るわけではありませんか。にもかかわらず警察は、前提としてそれが「バランスを欠いていた」ものとし、のみならず専門家を呼んだ上での碌な検証をすることもなく』
2014-10-16 10:54:55『(といっても山の全体像を知る術がない以上、検証の仕様もないのでありますが)それが一人でに崩れたものと断定し、哀れな「ジダン」氏にいくらでも避けて通れた意味不明な事故による、滑稽な死者との箔をつけ、氏の名誉を未来永劫に渡って傷つけたのであります』
2014-10-16 11:01:25『「文学少年」の事例に関してもいえることですが、このような杜撰な捜査が横行する背景には、社会的な弱者、あるいは奇異な行動を取る者に対する、警察の冷遇、事なかれ姿勢が、その深い部分に共通してあるように思えてなりません』
2014-10-16 11:23:27『「ジダン」氏もまた経済的には弱い立場にありました。幾つかの仕事についていた形跡はありますが、どれも長続きせず絶えず職場を転々としていたようです。また最近ではどういうわけか映画の専門学校に入り、監督の真似事などをしていたようですが、その学費ゆえか生活はますます困窮し』
2014-10-16 11:28:12『「拙生が連絡を取ることのできた氏の知人女性によりますと、最近では野外に投棄された物品を販売するリサイクル業で生計を立てられないかと度々熱く語ることがあり、実際にあちこちのゴミ捨て場から、目ぼしいものを掻き集める活動も開始していたようです』
2014-10-16 18:05:23『かくのごときある種の「不審者」が、住まいからは遠く離れたはるか新潟の日本海沿岸地域で、やはり奇行の果てに死亡した。これだけでもう、警察側からすれば事故と決め付け、捜査の手を緩めるには十分だったのでしょう。結局「ジダン」氏や「文学少年」のように、性格に難を抱えた低層階級者は』
2014-10-16 18:20:55『異常行動の末に野たれ死ぬのが当然の道理と考え、その様な者たちへ自身らの労働力を振り裂くのは惜しいという彼らの本性が透けて見えるかのようです。もし彼らが法の前には人は皆平等であるという事実を忘れていなければ、この一連の怪死はきちんと事件として扱われ』
2014-10-16 18:31:30『今頃下手人が摘発されていた未来もあったかもわかりません。またそうなれば「文学少年」や「ジダン」氏は命を落とさずにすんでいたかもしれないのです』
2014-10-16 18:34:27『さて例に漏れず、「ジダン」氏もまた最後の刻を迎えるにあたり、直前になって周囲の者へ対して、自らの死を匂わせる発言を残しておりました。その詳細な内容を、拙生は上記の知人女性の口より入手できております』
2014-10-16 18:51:48『件の女性は、「ジダン」氏と直接の面識はなかったとのことですが、いわゆるスカイプを用いたインターネット通話により、頻繁に連絡を取り合う中にありました。「ジダン」氏は今回の怪死事件群で犠牲となった三者の中でも比較的交友関係が深く』
2014-10-16 20:36:23『他に「ジダン」氏と実際に会ったことがあるという二人の知人とも接触を持つことができましたが、氏が自身の運命や、このほどの不可解な出来事に関連性を有すると思われるいくつかの材料について言い伝えた相手は、この女性一人でした』
2014-10-16 20:47:00『女性と「ジダン」氏との間に親交が結ばれたのは今から1年ほど前、インターネット上にある友人募集サイトで知り合った仲だといいます。当時女性は現実世界におけるうわべだけの人間関係に疲れはて、直に会うことこそないもののだからこそある程度心を開ける誰かの存在を求め』
2014-10-16 21:24:00『そのサイトに入り浸っていたとのことなのですが、彼女いわくジダン氏の印象は「同じ穴のムジナ」であったそうです。「結局あの人もさ、無駄に社交的な割りに心は常に孤独なままだったのよね」と彼女は語ります。彼女の前で「ジダン」氏は、職場を移し変えるたびにその事実を正直に告げたそうですが』
2014-10-16 21:47:02『見た目上「ジダン」氏に悲壮感はなく、氏は常に目を輝かせては「僕は一箇所にとどまってる人材じゃないから」「自分に合う職業にめぐり合えるまで自分の意思で流浪しているだけだから」などと嘯いていたそうです。女性によれば出会った当初の「ジダン」氏は、とかくよく笑っていたといいます』
2014-10-16 21:53:33『「ジダン」氏に変化の兆しが現れたのは今から半年ほど前、ちょうど第一の犠牲者「ロベカル」氏が亡くなった時期と符合するのですが、氏はそれまでの空元気を急になくし、パソコンの向こうで暗い顔をしながら「失敗した」「失敗だった」と口癖のようにぼやく事が常になっていったそうです』
2014-10-16 22:15:49『女性は「ジダン」氏が人生に行き詰ってしまったのだろうと捕らえ、しなしながら安易に刺激しないほうがいいとの考えから、彼の背景で何がおきているか自分から聞くことはなかったそうです。しかしながらさらに今から3ヶ月ほど前、深夜のパソコン通話上で、画面の向こうの「ジダン」氏が』
2014-10-16 22:23:14『突如目に涙をにじませながら地団駄を踏み出した段階になって、その異常性に黙っていることができなくなり、「あんたいったいどうしたの?仕事がうまくいっていないの?」と語りかけてみたといいます』
2014-10-16 22:31:01『女性の問いかけに対し、「ジダン」氏は「仕事?そんなものはもうやめたよ。そんなのしてる場合じゃないし」と答えたそうです。女性が「仕事もせずに他に何をするのか」と聞くと、氏は気弱に微笑みながら「今映画学校に通ってるから」と返しました』
2014-10-16 22:36:11