ブリテン古譚集異聞「猿蟹合戦拾遺」

実在性ミリオンアーサー3話からの、二次創作。ニンジャスレイヤーやその他の作品の要素も混じりました。
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フジウズ @fuzzwall02

《ブリテン古譚集異聞「猿蟹合戦拾遺」》

2014-10-18 20:55:23
フジウズ @fuzzwall02

「どう、とは?」猿の血臭と張り詰めた殺気に包まれ、特異型ヘルヴォールは素知らぬ態で問い返した。「勝手に猿を殺しちまいやがって、どう言うつもりだって言ってんだよ!」羽の振動に基く非人間的な“声”を蜂があげ、牛の糞も粘つく声で非難に和す。「いけませんねぇ…本当に、いけませんよ」 1

2014-10-18 20:55:46
フジウズ @fuzzwall02

「無為な嬲り殺しをする気は無い。栗の一撥ねは蟹を騙した分として、私の一撃は蟹を殺した分の制裁。これで帳尻が合う」涼やかに答えるヘルヴォール。「てめぇふざけてんじゃ――」「そもそも、それが蟹の子らを食い殺した貴様らの言うことか」 2

2014-10-18 20:56:12
フジウズ @fuzzwall02

「え…」それまで青褪めて静観していた栗が、更に顔の色を失いつつ声を漏らす。臼は尚も沈黙を続け、蜂と牛の糞も束の間黙り込む。「私と栗が蟹の住処を訪れた時、貴様らは蟹一家が猿に皆殺されたと言った。けれど家の裏に捨ててあった小さな肢や甲羅の残骸は、それとは違う事実を語った」 3

2014-10-18 20:56:48
フジウズ @fuzzwall02

「猿に全ての罪を被せる算段だったのだろうが、小さな顎で砕き、あるいは雑菌で腐らせるあのやり方は、あの獣のものではなかろうよ。――どうだ? 蟹は美味かったか」「……はは、は。まあ、な」「ふふ…ご馳走でしたよ」蜂と牛の糞の肯定! 4

2014-10-18 20:57:41
フジウズ @fuzzwall02

屋内の殺気が濃度を増す! 蜂と牛の糞が出口を遮る! 沈黙していた臼が口を開く。「……彼らは、儂に願った。復讐の力を、代償を問わず。これは、正当な取引だ」「なるほど、貴様の正体の確信が持てた。願望器の一。魔法の臼。フロディ王のグロッティだな?」 5

2014-10-18 20:59:02
フジウズ @fuzzwall02

「どうだっていいぜ!」毒針を露出させて蜂が飛びかかる! 囲炉裏に突き刺していた魔剣を抜き払い、特異型ヘルヴォールは勢いのままサイドステップ! 回避! 「避けるな!お前も死ね!」ターンした蜂の再突撃! 特異型ヘルヴォールが再回避! 着地直前に床を刺突! 6

2014-10-18 21:00:11
フジウズ @fuzzwall02

「アバーッ!?」待ち構えていた牛の糞を貫通! 刃に籠もった囲炉裏の熱が牛の糞を焼き殺す!「馬鹿なーッ!?」必殺のコンビネーションを破られ狼狽する蜂の、その首が、次の瞬間ぽとりと落ちた。「拭わせてもらったぞ」感情の籠もらぬ声で特異型ヘルヴォールが嘯き、だが、その時――! 7

2014-10-18 21:00:50
フジウズ @fuzzwall02

異音と共に天井が裂けた!特異型ヘルヴォールの頭上に致死速度で落下する臼!おお!これぞ臼の必殺の術(スキル)! 因果を捻じ曲げ、過程を吹き飛ばして大質量を犠牲者に落下させる、《特異黒点=願望器(ヘヴィーオブジェクト)》!危うし特異型ヘルヴォール! 8

2014-10-18 21:02:36
フジウズ @fuzzwall02

轟音! 床と肉と牛の糞が圧潰! 臼の偉容の下から血が溢れ出し……「オゴーッ!」臼が、血を吐いた。おお!見よ!その上部から突き出た魔剣の切先を!「殺戮魔剣#13(スリータイムブレード)」 やや離れて臥していた特異型ヘルヴォールが、呟きつつ立ち上がった。 9

2014-10-18 21:05:19
フジウズ @fuzzwall02

落下に際し、特異型ヘルヴォールは魔剣を突っかいに立て、自身はしゃがみこんだ。ドヴェルグの鍛えた業物をオリジナルとする殺戮魔剣は、死の超重量の到達を一瞬遅らせた。特異型ヘルヴォールは転がって離脱し、臼は自らの重みで自らを貫かせたのである。 10

2014-10-18 21:06:47
フジウズ @fuzzwall02

「アッ……アバッ……」2度ほど痙攣した後、臼は動かなくなった。吐いた血は急速に白くなり、乾いて白い粉末となった。体も同様に白く変色し、ずぶりと崩れ、形を失う。「…塩?そうか、これは分身。端末か」 特異型ヘルヴォールは眉をひそめ、呆れたように肩をすくめた。 11

2014-10-18 21:09:40
フジウズ @fuzzwall02

「特異型ヘルヴォール…これ、は……」栗の震え声。「聞いての通り。他者の願いを叶えながら、結局は破滅に至らせる願望器。蜂と牛の糞は、あれに仲介されて呼び出された邪悪存在だろう。まあ、臼のこの次元における端末は殺した。当分、ちょっかいをかけてくることはあるまい」 12

2014-10-18 21:12:22
フジウズ @fuzzwall02

「あなたにとっては迷惑だったろうな。私にとっては好都合だったが」「な…に? なに、を…?」「この剣だ。3度に1度は、持ち主の仲間の血を求める。だから私は、3度に1度、斬り伏せても構わぬ相手と組む」特異型ヘルヴォールは笑った。邪悪な笑みだった。栗は言葉を継げなかった。 13

2014-10-18 21:14:15
フジウズ @fuzzwall02

「さて、私の休暇も、もうすぐ終わる。遠からず《円卓》の召集が掛かりそうだ。キャメロットに戻らねば」魔剣が小さく震え、唸っている。栗は不意に思い出す。数多の次元に無数の分身を持つ黒い剣の伝説を。百万の剣が互いに食らい合う争闘のビジョンが、不思議に脈絡なく脳裏を過ぎった。 14

2014-10-18 21:44:25
フジウズ @fuzzwall02

気がつけば栗は、死と破壊の爪痕の中、一人佇んでいた。身震いをして頭上を見上げる。屋根に開いた穴から髑髏のような月が、地の有り様に嘆息する顔を示すかのように、その姿を覗かせていた。 15

2014-10-18 21:20:41
フジウズ @fuzzwall02

《ブリテン古譚集異聞「猿蟹合戦拾遺」》 了

2014-10-18 21:20:50