「山水無情」――池波正太郎風ニンジャスレイヤー

著:ショウ・イケナミ
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うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

(ということは……) ミニットマンは窓枠を乗り越え、車両の側面から、 (上へ……) よじ登った。 トンネルの壁面に、走行音が、野分の吹き過ぎるごとく轟々と反響し、 (風圧が……) 襲いかかるが、ニンジャにとっては、 (ウォームアップですらない……) 些事であった。 22

2014-10-19 23:15:06
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

ミニットマンはここで、隣の車両に人影を見据えた。 ニンジャスレイヤーは腕組みして、仁王立ちである。 この姿を見ては、ミニットマンも、ニンジャスレイヤーが、 (尾行に気づいていた……) ことに気づかざるをえない。 (待ち伏せされていた……) のである。 23

2014-10-19 23:18:09
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

「ドーモ、ミニットマン=サン。ニンジャスレイヤーです」 風に乗って、ニンジャスレイヤーの〔アイサツ〕が届く。 いまいちど、平安時代の〔しのびのハット〕を引用すれば、 「アイサツはニンジャの〔いくさ〕の掟である。アイサツにアイサツを返さぬは〔卑怯千万〕」 であった。 24

2014-10-19 23:22:24
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

だから……、 (おれの目は、復讐心と功名心、そして焦りに曇らされておった……) そう自認しつつ、震える手を合わせ、 「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ミニットマンです」 アイサツを返したミニットマンであった。 25

2014-10-19 23:25:14
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

再戦である。 トンネルに吹きすぎる、時ならぬ野分に、鬼哭啾々たる〔アトモスフィア〕が満ちみちた。 先の〔いくさ〕で、相手が、 (おそるべき手だれ……) であることを知るミニットマンは、胸中に、 (スリケンをガードさせての飛び蹴りこそ……) 最も注意を要する技と心得ている。 26

2014-10-19 23:28:51
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

しかし、 (それさえやりすごせば……) 勝機が見える。 (スリケンを撃ち落とし、飛び蹴りをブリッジで避ければ……) ミニットマンの胸中に、イクエイションの死に様が思い浮かべられた。 (あたら無駄にはすまい……) と胸に呟いた。 27

2014-10-19 23:31:12
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

「やっ」 と、ニンジャスレイヤーが声を上げた。 (来るぞ……) ミニットマンは迎撃のスリケンを構えようとした。 だが、 (なんと……) ミニットマンの目の前、 (息がかかるほどの近さに……) ニンジャスレイヤーがいた。 28

2014-10-19 23:34:49
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

ミニットマンの、 (胸の中心やや左……) そこに、温かい感触があった。 (そんな、そんなバカな……) と思う、その一瞬に、〔いくさ〕は、 (決着……) していたのであった。 ニンジャスレイヤーがミニットマンの胸から右手を引き抜いた。 29

2014-10-19 23:37:15
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

〔カラテノミコン〕に曰く、 「人体は鋼のごとく硬くなる。但し、それは体そのものが硬くなるのではなく、足運び体運び、さらには突き出す速度、果ては人体に差し込む角度による。修練こそカラテなり」 とすれば、ニンジャの体を穿つ、ニンジャスレイヤーのカラテは、 (いかばかりか……) 30

2014-10-19 23:41:58
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

おそるべき〔ぬき手〕が掴み出し、いま、手の中でまだぬらぬらとうごめく、 (俺の心臓……) を、無感動に一瞥した後、ニンジャスレイヤーはそれを握りつぶした。 足元で電車が、 (カーブに差し掛かる……) のを感じたミニットマンは、 「バンザイ!」 と叫んだ。 31

2014-10-19 23:45:13
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

電車から振り落とされた、彼の体が、 〔爆発四散〕 した。 32

2014-10-19 23:48:12
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

やがて、電車がブレーキを軋ませて、徐々に速度を落としたのは、 〔ヤヌタ駅〕 に差し掛かった時だ。 物思いに耽っていたニンジャスレイヤーは、その数百メートル手前で飛び降りた。 壁面の〔ハシゴ〕を伝い、マンホールから地上に出る。 33

2014-10-19 23:51:05
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

そこは自然公園の只中だ。 この神聖なる鎮守の森は、〔彩ノ国歳時記〕に、〔竜ヶ池〕と呼ばれた、林中の沼沢を埋め立てたものがあるとある、それであったろうか。 近未来都市の〔猥雑〕な風紀に不釣り合いな、神秘と静寂が支配する空間である。 34

2014-10-19 23:54:14
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

中天にかかる、 (血濡れたような……) 満月の下を、ニンジャスレイヤーの歩む先には、堀で囲まれた庭園がある。 おごそかに歩を進めるニンジャスレイヤー、その背中に、 〔金属のカケラ〕 がホタルのように明滅する。 これが爆発四散した、ミニットマンのカケラであると、誰が知ろう。 34

2014-10-19 23:57:08
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

これは偶然であったろうか。それとも、ミニットマンの、 (怨念……) あるいは、 (執念……) であったろうか。 〔豹は死して皮を留め、人は死して名を留む〕 の故事の如く、爬行する狩猟豹のカケラは怨敵の位置をしらしめる。 35

2014-10-20 00:00:13
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

誰に……? 上空七十メートル、〔VTOL〕の上に直立し、左耳に手を当てる、新たなるニンジャに。 「目標を補足した」 感情のこもらぬ声に、くぐもった通信が応え、しばしの、 (沈黙) ののちに、ニンジャは、 「その必要はない。九百数えて、推参つかまつる」 と告げた。 36

2014-10-20 00:03:08
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

〔無線〕を切り、このニンジャは、〔滞空〕するVTOL機から、ゆらり、身をおどらせる。 この者、 〔フジオ・カタクラ〕 またの名を、 〔ダークニンジャ〕 という。 〔ニンジャ人別帳〕の二番手に名を連ねる、恐るべき使い手は、 (死闘の予感……) に静かに目を細めるのであった。 37

2014-10-20 00:07:11
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

この戦いのゆくえを、ミニットマンは知らない。 38

2014-10-20 00:08:18
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

(今回のカラテはこちらを参考にしました) (ne.jp/asahi/ymgs/hon… ) (「ゆたかな肉置[ししおき]」を入れられなかったのが残念です)

2014-10-20 00:10:21
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

(そのうち荒山徹サンスイもやりたい) (地獄絵図)

2014-10-20 00:11:04