シー・ワー・リビング・ゼア #4

映画版モチーフです。2じゃありません。でも参考にした場面はアーケードです。
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劉度 @arther456

第一波は凌いだが、次の足音が早くも入り口から近づいてきている。弾を込め直した提督は、踵を返して先へと進む。数も分からない敵を全部相手にするのは、無謀。次の通路に駆け込み、逃げ道を探す。横道に逸れるドアがいくつかあった。その中の一つに飛び込み、息を潜める。 23

2014-10-25 22:20:49
劉度 @arther456

すぐにあのヒトガタたちが、ドアの前を通り過ぎていった。数はざっと20体程だろうか。銃で相手にするには少し無理な数だった。後続がいないことを確認してから、提督はそろそろとドアの外に出る。いつの間にか、通路は金網から頑丈な鉄板へと変化していた。 24

2014-10-25 22:24:12
劉度 @arther456

こつ、こつ、こつ。先程までの騒々しさは嘘のように消え去り、靴裏が鉄板を叩く音だけが響く。このまま進めば、いずれあのヒトガタたちと出くわすことになる。そうなる前に横道に逸れたかったが、どのドアも鎖で施錠されていて、開けることはできなかった。 25

2014-10-25 22:27:46
劉度 @arther456

「嫌だな、なんか……」進む道が決められているのは、どうにも窮屈だ。渋々進んでいると、突き当たりに念願のT字路があった。ようやく選ぶことができる喜びに、足が軽くなる。辿り着いて右を見てみると、何もない赤錆びた通路が続く。続いて左を見る。血溜まりが広がっていた。 26

2014-10-25 22:31:03
劉度 @arther456

「……え?」一瞬、錆が血に見えたのかと思ったが、違う。本物の血だ。先ほど提督の前を通り過ぎたヒトガタたちが穿たれ切られ潰されて、どくどくと際限なく赤黒い液体を流している。何がこの惨事を引き起こしたのか。明快な答えが、赤い光を背に血溜まりの中に立っていた。 27

2014-10-25 22:34:16
劉度 @arther456

真っ先に目についたのは、顔を完全に覆い隠した、三角錐の金属兜だ。体のパーツは人間のものなのに、その三角頭がハッキリと彼女を人ならざるものだと示していた。そう、"彼女"だ。艶かしい体は、返り血で汚れた革のエプロンに覆われ、その手には身の丈と同じ長さの大鉈を握っていた。 28

2014-10-25 22:37:34
劉度 @arther456

異形の全貌を認識した途端、提督の本能が絶叫した。勝てない、と。姿形、威圧感、そんなものを超越し、第六感を恐怖で満たす力が、かの三角頭には備わっていた。「う……うああああっ!?」遅れて出た悲鳴に追い立てられ、提督は踵を返して逃げ出した。 29

2014-10-25 22:43:04
劉度 @arther456

走る、走る。赤い世界の中を、息を切らして提督は走る。振り返ると、大刀を引きずりながら赤錆びた処刑人が追ってくる。ゆっくり歩いているだけなのに、コマ落ちしたビデオ映像のように、急速に迫る。「なんで……なんで……!?」走る提督の口から漏れるのは、恐怖よりも困惑。 30

2014-10-25 22:46:26
劉度 @arther456

もう一度振り返る。処刑人はすぐそこまで迫り、右手の大刀を振り上げていた。「うわぁっ!」咄嗟に銃の引き金を引く。しかし、赤錆びた鉄兜に銃弾は容易く弾き返された。大刀が横薙ぎに振るわれる。提督の首を狙った一閃は、しかし足がもつれて転んだ提督の頭の上を通り抜けた。 31

2014-10-25 22:49:41
劉度 @arther456

「くうっ……!」地面に強かに体を打ち付けながら、提督は更に銃を撃つ。2発、今度は頭では無く胴体に!パァン、パァン!銃撃に怪物は怯む。起き上がりながら更に3発、よろめく怪物に背を向け、再び提督は駆ける!弾を込めることも忘れ、一心不乱に脅威から逃げる! 32

2014-10-25 22:52:55
劉度 @arther456

扉を潜った時、通路に鉄パイプが落ちているのが見えた。それを手に取り、たった今潜った扉の取っ手に突き刺す。即席のかんぬきだ。ドォン、と鈍い音がドアに叩きつけられる。だが鉄パイプは保っている。暫くは足止めになる、そう思った矢先、ドアの下の隙間がもぞもぞと這い回った。 33

2014-10-25 23:00:17
劉度 @arther456

隙間から、ゴキブリともカミキリムシともつかない虫が這い出してきた。大きさは、大人の頭ほどもあろうか。鋭いアゴをカチカチ鳴らしながら、嫌悪を形にしたような蟲群が迫る。「っ、ぐ、あああっ!」足を止めて、提督はこの異形の群れを撃った。緑色の体液が飛び散り、床を汚す。 34

2014-10-25 23:03:31
劉度 @arther456

「何なんだよ!次から次へと!何だって、こんな、チクショウ!」支離滅裂な悲鳴を上げながら、提督は撃ち、弾を込め、また撃つ。一見しただけでも、同じ空間にいたくないと思わせる怪物たち。それが立て続けに襲ってきて、提督の精神はいよいよ追い詰められつつあった。 35

2014-10-25 23:06:53
劉度 @arther456

蟲の一匹が銃撃を縫って、提督の腕に噛み付いた。「があうっ!……ぐっ、離せ!」鋭い痛みが腕を突き刺し、提督は腕を壁に叩きつける。ぶちゃ。醜い音がして蟲が潰れた。粘ついた体液が腕に絡みついて気持ち悪い。顔をしかめていると、殴られ続けていた扉が遂に吹き飛んだ。 36

2014-10-25 23:10:12
劉度 @arther456

「あ、く、くそっ!」入り口から姿を表した三角頭から、提督は再び逃げ出す。蟲たちは処刑人の足元に纏わり付くように群がり、時折その中の一群が提督に飛び掛ってくる。それらを払いのけて、提督はさらに逃げる。かなり走った。息も切れてきた。そろそろ出口が見えてもいい頃のはず。 37

2014-10-25 23:13:27
劉度 @arther456

そして、先が見えた。行き止まりだ。「……あ?」通路に重厚な鉄格子が降りていた。手をかけこじ開けようとするが、びくともしない。呆然と立ち尽くす提督だったが、追手の存在を思い出し、慌てて銃を構えて振り返った。だが、追ってきてるはずの処刑人の姿がない。 38

2014-10-25 23:16:44
劉度 @arther456

「どこに……?」という疑問は、頭ごと握り潰された。後ろから伸びてきた手が、提督の頭を掴んで持ち上げたのだ。「うぐッ!?」振り返ると、鉄格子越しにあの処刑人に頭を掴まれていた。岩のようにゴツゴツした腕からは、およそ体温らしきものが感じられない。冷え切っている。 39

2014-10-25 23:20:03
劉度 @arther456

怪物が大刀を振り被る。「じょ、冗談じゃ……っ!」提督はもがきながら後ろ手に発砲、しかし銃弾は兜に当たり弾き返される。「やめ」次の瞬間、怪物が大刀を振るった。錆びついた巨大な刃は安々と鉄格子を切り裂き、当然、その先にいた提督の体も両断した。腰から下が、ドサリと地に落ちる。 40

2014-10-25 23:23:31
劉度 @arther456

声もあげられない激痛。むせ返るような自分の血の匂い。ごぷ、と口から血が溢れ、嫌な鉄の味が舌に染みこむ。あまりの激痛を脳は受け入れることを拒絶し、視界が急速に暗くなっていく。急速に迫る死の中で、最後に提督は、声を聞いた。 41

2014-10-25 23:26:54
劉度 @arther456

お願いです、提督。どうか不知火のことを、人として扱わないで下さい。不知火は軍人です。戦うためだけの機械でいいのです。貴方の命令一つで敵を屠り、蹂躙する、一隻の軍艦でいさせて下さい。軍人を終えて、人を始めることは、不知火には……私には、怖い。 43

2014-10-25 23:29:31
劉度 @arther456

【シー・ワー・リビング・ゼア】#4おわり#5へ続く(次回、最終セクション)

2014-10-25 23:30:03