稲川淳二のつぶやき怪談　2014年10月31日投稿分

稲川淳二 @Junji_Inagawa

もしかすると、服を着た白骨死体を見付けるかもしれないぞ・・」 と言うと、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

女の子の一人が、 「ちょっと待って、その前に私、おトイレ行きたい」 と言って、 見るとすぐ近くに新しい公衆トイレがあるんですが、それが建築途中でまだ使えない。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「ああ、ここ駄目だァ・・」 と、見回すと、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

駐車場の向こうの端に、 ポツンと一つ、外灯が立っていて、 わずかにその周囲を照らしている。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

その明かりの先にボヤーッと、公衆トイレらしい建物が見えたんで、 「あっ、あそこにあった。行ってくるね」 と、駆けて行った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

仮に彼女の名前をＡ子さんとしておきましょうか。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

近付いてゆくと、 男性用と女性用が背中合せになっていて、 薄らと明かりを受けた外壁の部分が汚れているのか、色あせたのか、 元の色がわからない古い公衆トイレで、中は真っ暗。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

女性用の壁の内側にあるスイッチを入れると、 カチッと音がして、 クモの巣の向こうに、薄暗い明かりがボンヤリとついた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

“よかった、明かりがついて” 一つしかない懐中電灯は三人の方にあるんで、 自分は明かりを持ってない。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

入ったすぐのところに手洗場があって、 陶器の洗面台が壊されている。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

“嫌だな”と思いながら、 濡れたコンクリートの床を踏んで、奥に行くと、 個室のトイレが二つ並んでいて、 一方の扉には、赤のラッカースプレーで 「使用不能」と大きく落書がされている。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

“たぶん中も壊されてるんだろうな” と思って、 もう一方の、扉のノブをつかんで、回して引くと、 ギィィーッと擦れた音を立てて開いた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

中を覗くと、 “アレ？”古い公衆トイレで、 和式だと思っていたら、便座のある洋式だった。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

個室に入って扉を閉めると、とたんに真っ暗になってしまった。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

個室の仕切りの壁と天井との間が少し空いていて、 そこから洩れてくる薄暗い明かりが、 個室の天井をボンヤリ照らしているだけ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

シーンと静まり返って、物音ひとつ聞えてこない。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

さすがに怖いんで、 気をまぎらわせようと、誰に言うともなく、 “早くすまして出よう” と独り言を呟くと、 その声が、狭い個室の中で小さくこだまして、却って恐さが増した。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、突然、静寂を破って、 ガタン、ジャアアアァー　ゴゴゴゴーッ

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、大きな音を立てて、 水洗の水が、勢いよく流れる音が、 壁越しに隣の個室から聞こえたんで、 ビックリして、危うく悲鳴を上げるところだった。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

“・・・隣に人がいたんだ” と思った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

この静まり返った闇の中で、 まさか、トイレに入っている人がいるとは思わなかった。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

“いつからいたんだろう？

稲川淳二 @Junji_Inagawa

自分は、今入ったばかりだし、 すぐ後から来たんなら、 靴音や扉の開いて閉まる音がするだろうし、 その前からいたのなら、 明かりのスイッチを入れたのは自分だから、 それまでこの人は真っ暗闇の個室にいた事になる。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

・・・誰と来たんだろう？ 駐車場には他にクルマもスクーターもなかったし、 人の姿も全くなかった。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

・・・どうやって来たんだろう？ この辺りには民家も無いし、 街からは離れているし、 ・・・一人で来たんだろうか？