- love_cat_Kaga
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携帯型通信機の選定をお願いしていたイムヤが、お昼過ぎに再び執務室を訪ねて来ました。私の趣向を汲んで選んでくれたそうです。 「加賀さんにはこれがいいと思うの。どうぞ」 手のひらに収まるこれが、噂に聞くスマートフォンなのかしら。 「(らくらくふぉん なんだけどね)」
2014-06-09 20:37:48「飾りがついているけれど、これは」 「黒いうさみみ……? 島風かしら?長門さんに貸してたんだけど直ぐに飽きちゃって」 私も随分なあなろぐ派だと五航戦の子に言われたことがあります。私に扱えるでしょうか……。
2014-06-09 20:39:55「これがあれば、全4艦隊に作戦指揮が出せるのよ。1から4の番号が艦隊に連動していて、押せば所属者に加賀さんの声が聞こえるわ」 押して話すだけ……それなら大丈夫かしら。ところで、長門は何に使おうとしていたの?
2014-06-09 20:42:38「ありがとう、助かります。執務室から離れられなくて困っていたの」 「提督の代行なんて大変よね。加賀さんじゃなかったら、どうなってたか」 「皆それぞれの指揮を執っていたと思うわ。誰が旗艦でも大抵の艦隊は成立するでしょう?」 「でも私、水上艦のことなんにも知らないから困っちゃうわ」
2014-06-09 20:51:18……私はどうだろうか。他の艦種のことを、どこまで知っているだろうか。 やはり、早急に指揮系統の見直しを進めるべきでは? でも、そのための判断材料が、今は偏っている。 「でも、加賀さんなら安心よ。少なくとも潜水艦隊は満場一致なのよ?」 「……ありがとう、心配ないわ」
2014-06-09 20:55:02「イムヤに一つ、お願いがあるのだけれど」 「なぁに?司令官」 「それは―――」 「サイズ、大丈夫?」 「ええ、なんとかなるわ。元々調整がきく作りになっているのね。この……」 「ダイバースーツ。提督のお古の」 「物持ちがいい人で助かりました。」
2014-06-09 21:03:44「本当に潜っちゃうんです……?酸素ボンベに足ひれに……」 「自ら潜る提督ですか……随分思い切りましたねぇ」 「ゴーヤは心配だよぅ」 空母の私にとっては、自ら見なくては分からないことばかり。 それに、私も変わらなくてはいけない。
2014-06-09 21:17:14「潜水艦隊5隻が随伴です。これ以上心強いことはないわ」 旗艦伊168、随伴艦伊58、伊8、伊19、伊401。 艤装を外した正規空母が海を潜る……きっといい笑い話になるわね。 血迷ったかと怒られるかしら。 「すぐにでも出ます。日が高いうちに済ませましょう」 深く息を吸い込む。
2014-06-09 21:18:30頭から海底に向けて飛び込み、身に着けた重りに引かれて沈んでいく。酸素ボンベを使うために口での呼吸を常に意識する。呼吸しているはずなのに、どこか息苦しく感じる。 見た目や呼吸法は人間と同じであっても、艦娘の潜水可能深度は深い。
2014-06-09 21:29:22イムヤに手を引かれて沈んだ世界は、息を飲むような広大な青だった。 水上から見る空と海面のコラボレーションとは違う、大きなうねりと重みを含む、深海の青。 圧倒的な存在感に気おされ、心を海底に引き込まれそうになる。 (海底が、こんなに美しいところだったなんて……)
2014-06-09 21:34:57自分自身を含め、海底を賞賛する者は一人もいなかった。 しかし、実際は潜水艦隊はその美しさを知っていて、けれど口には出さなかった。彼女達の多くも、その海底に沈んでいったのだから。 海が好きだ。 単純に、そう思う。 もしかして、深海凄艦も―――
2014-06-09 21:37:22『敵艦来ます!2時方向より反応1!』 通信機を通じてくぐもったイムヤの声が届く。 1を押して、話す。 「交戦開始、期待しているわ」 『了解、任せてもらおう』 旗艦日向の声に淀みはない。 ほぼ時差なく対潜攻撃が開始され、海面から白い線が海底へと無数に降りてくる。
2014-06-09 21:44:25そのうちの一つが視界より遥か奥で大きな水泡を撒き散らす。ややあって、乱れた水流がこちらへと押し寄せてくる。 「着弾確認」 照準補正の指示を出すより早く、水泡に向けて別な白線が投下される。第一射よりも明らかに的を得ていて、複数の線が折り重なり、その一点で大きく爆裂する。
2014-06-09 21:52:41『爆発を観測、目標の沈黙が予想されます』 「潜水艦隊は直ちに状況確認を。完了次第、帰投します」 イムヤの手が私の肩に添えられる。 『……大丈夫? いきなり、こんな……』 「えぇ、平気よ。でも、これ以上の進撃は難しいわね」 名残惜しい気はするけれど。
2014-06-09 22:04:14急速な消耗のため一時医務室に運ばれた後、しばらくは寝かされたままだった。流石に無理が過ぎたのかしら。けれど、自分で確かめなければ分からないことは、確かにあった。あの美しい景色は、誰かに教わって理解できるものではない。
2014-06-09 22:10:35ううん、まだ身体が重いです。赤城さんが後で来ると言っていましたが、この体たらくでは、怒ってすらもらえないかもしれません。
2014-06-09 22:12:47