茂木健一郎氏 @kenichiromogi 第1350回【通り過ぎる出会いでも、出会わないよりはいい】連続ツイート

茂木健一郎 @kenichiromogi

連続ツイート１３５０回をお届けします。文章は、その場で即興で書いています。本日は、昨日ふと思っていたこと。

茂木健一郎 @kenichiromogi

昨日、Tokyo Designers Week @DESIGN_ASSOCIAT facebook.com/pages/Tokyo-De… の会場を歩きながら、「これって、文化祭だなあ」と思った。年に一度、デザインやアートに関心のある人が集まる、フェスティヴァル。

茂木健一郎 @kenichiromogi

子どもの頃から「文化祭」が好きで、近所の高校の文化祭などにもぐりこんでいた。残念ながら？　近所にあったのは男子校だったが、お兄さんたちのめったやたらの、やけくそなエネルギーに笑ってしまっていた。女子高生が来るのを期待して、実は男同士で踊っているフォークダンスも面白かった。

茂木健一郎 @kenichiromogi

それで、ガキとして高校の文化祭に潜り込んでいた頃、おれたちは、「見極め」がものすごく早かった。面白そうだと思って、ある部屋に行っても、チラ見して、「あっ、これはダメだ」と思うと、さっと出てしまうのである。部屋にいたお兄さんたちは、ちょっと哀しい思いがしていただろう。

茂木健一郎 @kenichiromogi

ちら見して、「ダメだ」と見切られた出し物が、悪いとは必ずしも限らない。ほんとうは、じっくり見たら、スルメを噛むように味がある内容だったかもしれない。でも、限られた時間の中で、回らなくてはならないから、内心悪いなあ、と思っても、「はい、次！」と先に行ってしまうのだ。

茂木健一郎 @kenichiromogi

数年前、金沢の２１世紀美術館を訪れ、アニッシュ・カプーアのすばらしい彫刻をずっと見ていた。そしたら、二人の小学生の男の子が、部屋にぱっと入ってきて、ちらっと見て、「こりゃダメだ」とばかりに、あっという間に出ていってしまった。カプーアかわいそうに、と思ったが、仕方がない。

茂木健一郎 @kenichiromogi

というのも、２１世紀美術館のカプーアの作品は、斜めに切られた壁の上の、大きな黒い楕円の「シミ」だからだ。この「シミ」をじっと見ていると、さまざまな視覚現象が生じるのだが、小学校の男の子２人にとっては、世界的な美術家の作品も、「あっ、シミだ」と片付けて先に行ってしまうものなのだろう

茂木健一郎 @kenichiromogi

さっと通り過ぎてしまうからといって、価値がないとは限らない。昨日、Tokyo Designers Weekで、何しろテレビの収録なので、じっくり話を聞く展示と、さっと前を通ってしまう展示がある中で、通り過ぎてしまった展示について、「本当はカプーアかもしれない」という思いがあった。

茂木健一郎 @kenichiromogi

最近は、どうしても製作者目線になる癖がついていて、さっと通り過ぎられた展示の人は、さびしいだろうな、と想像する。でも、その中にカプーアがあって、自ら恃むものがあると想像すると、楽しくなってくる。そして、さっと行ってしまった小学生二人も、本当は心の隅でカプーアと会っているはずだ。

茂木健一郎 @kenichiromogi

無意識の作用というのはバカにできない。「あっ、シミか」と通り過ぎてしまった小学生二人も、ひょっとしたら、何年か後に、カプーアの作品に正面から向き合うことがあるかもしれない。通り過ぎる出会いでも、出会わないよりはいい。そんなことを考えながら、文化祭の会場を歩いていた。

茂木健一郎 @kenichiromogi

以上、連続ツイート１３５０回、「通り過ぎる出会いでも、出会わないよりはいい」をテーマに、９つのツイートをお届けしました。