【第三部-小話】大鯨へささやかな贈り物 #見つめる時雨

時雨×龍鳳
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龍鳳視点

とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

弓道場の備品室。弓具と艦載機の整備道具が置かれている、考えて見れば少し不思議な部屋。ここは加賀さんによってきちんと整頓されていて、入口に張られた備品地図によって何がどこにあるのかすぐにわかるようになっていました。

2014-11-16 21:35:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

夕刻に覗いて見たら丁度整理の真っ最中でした。部屋にいたのは加賀さんと瑞鶴さん。瑞鶴さんは少し嫌そうな顔をしていたので、きっと加賀さんに捕まっちゃったのでしょうね。

2014-11-16 21:40:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

私も手伝おうと思ったのだけれど、間宮さんにお使いを頼まれていたのを思い出して、その場を後にしました。そして用事を済ませて今覗いて見ると、二人は既にいなくて、部屋は綺麗に整頓されていました。お二人ともお疲れさまです。後で何かお礼をしないといけませんね。

2014-11-16 21:45:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

今回の作戦で弦の中仕掛けがボロボロになってしまいました。戦闘中に弦が切れなくて本当に良かった…。…今回の作戦と言えば、高射装置が開発されました。対空射撃がだいぶ楽になり、敵艦載機の撃墜率も格段に良くなりました。

2014-11-16 21:50:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…戦闘中、弓を構えた私のところへ敵爆撃機が迫ってきた時のことを思い出します。私は急いで墳進砲で迎撃しようとしましたが、その前に爆撃機は撃墜されていきました。そして正面に目を向けると時雨と目が合い、彼女は私を見てくすっと微笑みました。…もう、時雨ったら。

2014-11-16 21:55:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「龍鳳?」 「きゃああああ!!?」 背後から突然声をかけられ、私は悲鳴をあげてしまいました。だって、たった今心の中で想いを馳せていたひとの声だったんだもの。 「ど、どうしたの?」

2014-11-16 22:00:36
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「驚かせちゃったみたいだね、ごめん、龍鳳」 そう言いながらくすくす笑う時雨。誰のせいだと思ってるんですかぁ…。少し頭にきたのでぷいっと視線を逸らせると、時雨が私の顔を覗き込むように見て来ました。 「龍鳳、怒らないで。ね?」

2014-11-16 22:05:22
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

時雨の澄んだ青い瞳に私の視線が吸い込まれていきます。自分の顔が熱くなってきているのを感じていました。 「し…時雨はどうして弓道場に…?」 「うん、ちょっと龍鳳に用があって。部屋で待ってたんだけど戻ってこないから探しに来ちゃったよ」

2014-11-16 22:10:56
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

目の前で突然ぱんっ!と音が鳴りました。 「ひゃあ!?」 時雨が両掌が眼前にありました。どうやら時雨が手で鳴らした音だったようです…。 「もう、聞いてる?」 「えっ…あの…すみません…」

2014-11-16 22:25:22
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「龍鳳が時々何かを考え込むのは今に始まったことじゃないけどね…。…そうだ。龍鳳、ちょっとごめんね」 「え?えっ?」 時雨の手が私の髪に触れたと思ったら、私の鉢巻きを解いていきました。 「時雨…?」 一体何のつもりなのか、私にはわかりませんでした。

2014-11-16 22:30:24
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

鉢巻きを私の手に置くと、私の羽織に手をかけました。そして…それをすっと開きました。 「し…時雨!?ちょっと…!」 私の身体は固まってしまっていました。時雨が私の羽織を脱がせているのです。今起きている出来事に私の頭は混乱していました。

2014-11-16 22:35:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

羽織を半分まで脱がされたところで時雨の手は止まりました。 「…これで今のキミは、大鯨…かな?」 「ふぇ…?」 時雨が何を言いたいのかわかりませんでした。大鯨?確かに羽織を脱げばそういうことかし…ら? 「ごめんね、混乱させちゃったみたいだ。…手、出して?」

2014-11-16 22:40:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

言われるままに出した両手に、小さな紙袋が置かれました。…何?これ…。 「開けていいよ」 「は…はい…」 紙袋の中を覗くと…ハンドクリームが入っていました。とても高価そうな。 「料理や洗い物していると、これからの季節、特に手が荒れちゃうと思うから」

2014-11-16 22:45:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

ハンドクリーム…嬉しいけど、どうして…? 「大鯨、進水日、おめでとう」 「え?」 …あれ?今日って…あっ。そうだった…今日は…。 「もしかして、忘れてた?」 …は、恥ずかしながら…。

2014-11-16 22:50:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「ふふ、どうりで」 二人で部屋の壁に寄り掛かり、時雨が持ってきていた温かいお茶を飲む。パニックになっていた心が少し、落ち着きました…。 「…確かに進水日を忘れていたっていうのはあるけど…でも羽織を脱がせるっていうのはどうかと思います…」 …すごいドキドキしたんだから…。

2014-11-16 22:55:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「大鯨にあげたかったんだ。大鯨の進水日だから、ね」 時雨が柔らかく微笑む。だからって…もう…。…貰ったハンドクリームをじっと眺める。…これって、よく効くって有名なブランドの。 「村雨が教えてくれたんだ。ハンドクリームならここが絶対にいいって。村雨が言うんだから、間違いないよ」

2014-11-16 23:01:00
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「でも、もし合わなかったら言ってね。また探すから」 「…うん。その…ありがとう…時雨」 …時雨が私の為に用意してくれたもの。ちゃんと私のことを考えて選んでくれたもの。…どうしよう、とっても嬉しい…。

2014-11-16 23:05:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…自分の中に湧いてくる邪な心を振り払う。時雨は純粋に私の進水日をお祝いしてくれただけ。それ以上の意味はない。ただそれを素直に受け止めて、喜んでいればいい。それなのに、私の心は、それを許してくれない。やめて。やめてよ。折角お祝いしてもらったのに、悲しくなっちゃうから…。

2014-11-16 23:10:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…龍鳳」 「…え?」 羽織を着直した私を時雨が呼ぶ。時雨の手が私の髪を撫でた。 「……」 黙って、ただ私の髪をすくう。時雨の青い眼差しは、まるで私の心を見透かしているかのように感じられた。

2014-11-16 23:15:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

時雨はどこか何かを言いたそうに、でも何も言ってはくれなさそうで。その何かはとても気になるけれど、言って欲しくはないような気がして。私は時雨の手に身を任せた。時雨に触れられるのが、ただ心地よかったから。

2014-11-16 23:20:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…でも、やっぱり思ってしまう。時雨が私の為にプレゼントをくれたこと。それって、ちょっとだけでも時雨の特別になれたんだよね。…この気持ちだけは消えてはくれなかった。でも、これ以上を望んじゃいけない。きっと悲しい未来が待っている。今私に触れてくれている時雨の手が、全て。

2014-11-16 23:25:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

やがて、時雨の手がゆっくりと私から離れる。もっと触れて欲しいという名残惜しさを、私に残しながら。 「…ごめん、龍鳳はここに用事があったんだよね。僕はこれで失礼するよ。また後で」 時雨はお茶が入った水筒を持って立ち上がった。 「あ…待って!」 「うん?」

2014-11-16 23:30:25
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「そのお茶…まだ飲みたいから、頂戴…?」 「え?うん、いいよ」 私は時雨から水筒を受け取る。中にはまだ半分くらいのお茶が入っていた。 「ありがと…」 「…じゃあまた後でね」

2014-11-16 23:35:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

時雨が去った備品室。そこで私は弓を張り、中仕掛けの修復に入った。そして修復を終えて一息ついたところで、時雨から受け取った水筒を開けた。…私は時雨が先程使っていた蓋にお茶を注ぐと、彼女が口をつけていた場所に唇を重ね…すっとお茶を啜った――

2014-11-16 23:40:21