提督代行 加賀:其の八 弓引く人

「加賀」の驚異的な戦闘力を前にして、赤城は語りかける。
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猫を愛でる加賀@猫航戦 @love_cat_Kaga

(前回までのあらすじ 遠征部隊を奇襲した深海凄艦の旗艦は「加賀」だった。迎撃に向かう一同は覚悟を決めて戦闘海域へ入る)

2014-11-25 22:05:31
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水上の水飛沫や艤装の駆動音とは別な音が空を切る。 「……矢を打ってきている? 艦載機にも十分注意を。 牽制射の後にイムヤと不知火は離脱。全艦隊、牽制射始め……!」 各個に射撃体勢を取り、砲撃を開始する。直後、右方から爆音が上がった。

2014-11-25 23:21:59
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日向が後方へ緊急退避し、艤装から主砲の一部を切り離す。 「くっ……艦載機とも砲弾とも弾道が違うな。目線の高さで直線的に来られては距離がつかめない」 「矢が爆発するのか? ただの矢ではないのだな……!」 「いや……砲撃の瞬間、砲身内の砲弾を撃ち抜かれたようだ」

2014-11-25 22:34:08
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「……まさか、狙って打ったわけではなかろう。のう、一航戦?」 利根が顔を引きつらせながらこちらを見る。 直後、利根のカタパルトに矢が突き刺さり、火花が散った。 「ね、狙っておるのか!!? 只者ではないぞ……」 「早く止めましょう。でないと、更なる被害が」

2014-11-25 22:43:25
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赤城さんの言葉に頷き、目標に向けて加速する。 「距離を詰めましょう。このままではいい的です。日向、状況は」 「私は無事だが、主砲が駄目だ。副砲主体となるのはこの際好都合だな」 「了解、行きましょう」 離脱するイムヤと不知火に目が向かないよう、四隻で単横陣を敷く。

2014-11-25 22:54:22
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迫り来る矢は決して多くはないものの、いずれも急所を打ち抜く軌道を取っていた。砲撃や雷撃とは異なり艤装による防御壁が効果を発揮しないため、例えば喉を打ち抜かれれば、いくら艦娘といえども、即死する。全速力での回避が不可欠だが、動作が単調では動きを読まれてしまう。

2014-11-25 23:22:42
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弓を構え弦を引き絞るもう一人の自分からとてつもない威圧感を感じる。おそらくは、回避運動が甘くなった瞬間に射抜かれるだろう。 四隻で取り囲んでいても、追い詰められているのはこちらの方ではないのか。 (長期戦は危険……踏み込まなくては……)

2014-11-25 23:10:40
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回避運動から再加速してもう一人の自分に向かって突進する。 先に放った流星を牽制にして、弓を構える。 赤城さんの放った彗星の爆撃を回避迎撃しつつ、「加賀」は赤城さんの正面に立ちはだかる。

2014-12-13 23:19:30
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弓に矢をつがえたまま、弓の射程距離の内側ぎりぎりで両者は静止する。それをうけて、他の三隻も攻撃態勢のまま「加賀」を取り囲むように静止する。 「貴女はどこの所属なの? どうしてこんなことを」 毅然とした物言いで赤城さんが「加賀」を見据える。

2014-12-13 23:09:04
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利根と日向が「加賀」の両腕に砲口を向け、私は弓の動きに集中する。 「加賀」は赤城さんから目をそらすことなく、じっと鋭い眼差しを向けていた。他の艦の動きはおそらく気配を感じ取っているのだろう。 「私の目的は――」 「加賀」の目つきが一層険しくなる。

2014-12-13 23:09:41
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「ただただひたすらに、私の強さを貴方達に知らしめる事のみ」 「質問に答えて!」 赤城さんが弓を掲げ、警告の意を込めてゆっくりと引き絞る。 「加賀」は動じず、その様子をまばたき一つせずに凝視する。 『救助隊より報告。遠征部隊の救援を完了しました』

2014-12-13 23:10:28
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受信と同時に「加賀」が身を屈め、射形を無視した一挙動で弓を引き切り、即座に矢を放つ。 次いで、身の丈を超える水柱が上がり、「加賀」はその中に姿を消した。 (静止からの急加速? 今の矢は――)

2014-12-13 23:10:53
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着弾の衝撃に身を躍らせ、赤城さんが背中から着水する様子が、ひどくゆっくりと見えた。 胸元に突き立った矢から赤い雫が迸る。 水柱に向けて放たれた砲撃が更なる水柱を作る。 その陰から、片膝をついた「加賀」が赤城さんに向けて右手を向ける。 袖の下に砲口の先端が見えた。

2014-12-13 23:11:10
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「回避を!」 そう叫ぶ事が、その瞬間の私にできる精一杯のことだった。 「さようなら。誰だか知らないけれど」 砲撃と同時に爆発音が轟く。直撃は疑いようがなかった。 炎と黒煙が立ち上る。 目の前が真っ白になった。 これは……既視感? あぁ、そういえば、あの子の時にも……。

2014-12-13 23:11:43
猫を愛でる加賀@猫航戦 @love_cat_Kaga

「おのれ……貴様、最早加賀ではないな!」 利根の砲撃が無数の水柱を作るが、回避の必要がないと見越してか、「加賀」は動かない。 「激情で狙いが定まらないのね。その程度なの?」 「ふん、本気でそう思うておるのか?」 「……なに?」

2014-12-13 23:12:11
猫を愛でる加賀@猫航戦 @love_cat_Kaga

「加賀」の右隣りの水柱から黒い影が現れ、一筋の光が弧を描く。 日向の一太刀は右の二の腕と袖裏の連装砲を的確にとらえ、そのまま跳ね飛ばす。 「加賀」は切り離された自分の片腕を横目で追い、その場に膝をついた。 「もう弓は引けないな。観念してもらおう」

2014-12-13 23:12:34
猫を愛でる加賀@猫航戦 @love_cat_Kaga

返す刀を「加賀」の喉元に突き付ける。荒い息づかいを押さえながら、日向は努めて冷静に言った。 気づけば、私は血濡れの赤城さんを抱きかかえていた。 一目で大破と分かるが、艤装だけでなく身体の損壊も著しい。 擬装の防御の効果により一命を取り留めるとしても、この傷の深さでは――

2014-12-13 23:12:54
猫を愛でる加賀@猫航戦 @love_cat_Kaga

「……帰りましょう、赤城さん。ここは、とても寒いです」 意識を失ったその人を抱き寄せる私の手は、どうしようもないほどに震えていた。

2014-12-13 23:13:06