あなたがいる日々【ぬい霜】

当たり前だと思っていた日々が当たり前じゃないと気づくのが大事だと思います。
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リン @tiger_lingon

旗艦である初霜を庇った不知火は、生死の境をさまよい、ドック内のベッドで1週間も目を覚ますことがなかった。負い目か心配か、初霜は目を覚ますことのない不知火のもとへと通い続けては何をするでもなく、ずっと目を覚ますのを待ち続けていた。#ぬい霜

2014-11-27 21:25:40
リン @tiger_lingon

ある日初霜がいつものように不知火のもとへ行こうとしていると、駆逐艦たちが騒がしい。陽炎がドックの方を指さしている。まさか、そう思い耳をすませば、「不知火が目を覚ました」確かにそうきこえ、初霜はドックへと駆け出した。 #ぬい霜

2014-11-27 21:29:33
リン @tiger_lingon

不知火が眠っているはずの部屋には入りきれないくらいの艦娘たちが訪れていた。その中には教官である神通も、主力艦隊の一員である、比叡や榛名、飛龍たちもいた。初霜は人だかりの後ろの方で精一杯背伸びをして、部屋の中を覗いてみる。#ぬい霜

2014-11-27 21:33:33
リン @tiger_lingon

少しボーっとしている気もしないではないが、確かに不知火は目を覚ましている。今すぐ彼女に伝えたい、庇ってくれたことへの「ありがとう」や庇わせてしまった「ごめんなさい」が口から零れそうになるが、初霜はぐっとこらえて飲み込んだ。今は駄目だ。そう言い聞かせて。#ぬい霜

2014-11-27 21:35:49
リン @tiger_lingon

また後で来よう、そう思った初霜は不知火のいる部屋を後にした。 もうそろそろいいだろうか、しばらく時間が経ってから初霜はもう一度不知火の部屋を訪れた。思った通り人だかりはさっぱり消えていた。部屋に入れば不知火がベッドの上で上半身を起こして窓から見える海を眺めていた。#ぬい霜

2014-11-27 21:40:48
リン @tiger_lingon

「不知火さん」名前を呼べば彼女の肩が驚きで震える。振り返って姿をその両の瞳で捉えれば笑顔になってくれる。滅多に見せない不知火の笑顔が、今はとても嬉しく、それでいて胸が痛い。「初霜さん、」「おはようございます。…不知火さん、1週間以上眠っていたんですよ」#ぬい霜

2014-11-27 21:43:55
リン @tiger_lingon

「陽炎から聞きました。それで初霜さんが、不知火が目を覚ますまでずっと、ここに通ってくれていたってことも。ありがとうございます。…初霜さんはあのとき、傷を負いませんでしたか?」自身の心配より自分の心配をしてくれる不知火はいつもどおりで。しかし、先にお礼を言われてしまった。#ぬい霜

2014-11-27 21:46:44
リン @tiger_lingon

「私は大丈夫でしたよ、あなたが私を、守ってくれたので」「よかった」「ねぇ不知火さん、あのとき私のことを守ってくれてありがとうございました」不知火の顔を直視できなくなってきた。視界が歪んでいく。「それで、私を守らせてしまってごめんなさい。私がもっと気を付けていればあなたは」#ぬい霜

2014-11-27 21:50:10
リン @tiger_lingon

「気にしないでください。艦隊運動において旗艦の安全を守るのが僚艦の役目ですし、何より、あなたが傷つくところは見たくありませんし」初霜の言葉をさえぎって不知火はつぶやく。「それでも…」理解はしている。だがそれよりも、感情のが勝ってしまったのだ。#ぬい霜

2014-11-27 21:54:07
リン @tiger_lingon

目頭が熱くなって視界がぼやけた。「それでも、あなたがこのまま目を覚まさなかったら…、って思ったら、本当に怖かったんです。いつもあなたがそばにいてくれて、私の隣にあなたがいることに安心しきっていたんです。それで、隣にあなたがいなくなって、寂しくって、悲しくって」#ぬい霜

2014-11-27 21:58:48
リン @tiger_lingon

「あなたがいることをいつの間にか当たり前だと思ってて。でもそんな当たり前だと思っていた日々が、私にとってとても大事で、楽しくて、愛おしくて、かかせない日々なんです。ごめんなさい私、ずっとあなたに甘えていた。ごめんなさい」いつの間にか零れた雫が頬を伝い落ちていく。#ぬい霜

2014-11-27 22:04:50
リン @tiger_lingon

ずっと何も言わずに黙って初霜の言葉を聞いていた不知火が、一つため息をこぼした。「不知火は、ずっとあなたに甘えていていただいてかまいませんよ。初霜さんが言うように不知火も、あなたが傍にいてくれる日々に甘えていたんです。その甘えた日々に同じように幸せも感じていました」#ぬい霜

2014-11-27 22:08:40
リン @tiger_lingon

「今回の不知火の行動に、私情がなかったかというとそれは勿論嘘になります。だから、そんなに責任を感じないでください。初霜さん、不知火はあなたに笑っていてもらいたいんです」そっと、涙が流れている初霜の頬をなでる。「泣かないで。笑っていてください」#ぬい霜

2014-11-27 22:13:08
リン @tiger_lingon

腕で涙をぬぐって、無理やり笑顔を作る。普段通りになんて笑えない、少しだけひずんだ笑顔。「あなたには泣き顔より、笑顔の方が似合います」「ねぇ不知火さん、私の名前を呼んで」「初霜さん」「もう1回」「初霜さん」「不知火さん、大好きなの」「不知火も、初霜さんのこと大好きですよ」#ぬい霜

2014-11-27 22:18:51
リン @tiger_lingon

「ねぇ、これからの毎日、いつまで続くかなんてわからないけど、当たり前なんて思わず、大切に過ごしていきましょう?」「もちろんです」お互いに名前を呼び合った心が温かくなって、涙が零れた。#ぬい霜

2014-11-27 22:23:03