山本七平botまとめ/【世論と常識】世論と常識人の考え方との恐るべきギャップを示した稀有の書「虜人日記」

山本七平著『無所属の時間』/世論と常識/137頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①【世論と常識】大分前、小松真一著『虜人日記』という本を手に入れた。 これは、陸軍に技術者として徴用され、アルコールからガソリン代用のブタノールを製造するため比島に派遣された、一陸軍文官の記録である。<『無所属の時間』

2014-12-04 11:08:57
山本七平bot @yamamoto7hei

②原稿は三十年間、銀行の貸金庫の中に放置されていたが、氏が亡くなられ、遺族の手で公刊され、生前の懇意な方々に配布された、いわば「私家版」である。 私は偶然それを手に入れ、一種の驚愕と興奮をもって読んだ。

2014-12-04 11:39:05
山本七平bot @yamamoto7hei

③これは是非一般にも出版すべき本だと思い、色々と話をしている内に、今回、筑摩書房から出版される事になった。 戦後三十年、戦争については多くの本が出たが、「その時」「その場」で記された、第三者的立場(直接戦闘員でないという意味)で書かれたものは意外に少なく、皆無といってよい。

2014-12-04 12:08:59
山本七平bot @yamamoto7hei

④東京空襲などについて、現代でも色々と取材している人もおり、そういう本も出ているが、「三十年後の聞き書」の収録は、おのずと限界がある。

2014-12-04 12:39:04
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤人の記憶は、あくまでも記憶であって、その時、その場での、見たまま聞いたままではないからである。 これは致し方ない。 だが、現場で、自分も戦火にさらされながら書く、ということは、言うべくして不可能に近い。 その点この『虜人日記』は稀有の書だと言える。

2014-12-04 13:08:59
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥小松さんがこれを…ノートに記したのは戦後八ヵ月目の21年4月、比島…の労働キャンプであった。 従って八ヵ月の誤差があるものと思っていたのだが、その後、氏がジャングルでずっと持ち続けていた「軍人手帳」を…見せて頂き、それを八ヵ月後の記録と照合して一種の強い驚きを禁じ得なかった。

2014-12-04 13:39:04
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦手帳はボロボロであり…インクが滲んでいる。 だがそれを丹念に見ていくと、あの物凄いジャングルの中、食も灯火もなき銃弾の下で虫メガネが必要な程細かい字で、その時、その場の状況の要約がぎっしりと書き込んである。 しかもそれは冷静な科学者の目で記され、所々にスケッチが入っている。

2014-12-04 14:09:00
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧これと、これを敷術し解説した『虜人日記』とは、まぎれもない「戦争中の筆」であり、戦後に豹変した”君子”の書きものではない。 そしてそこには、小松真一氏という当時の日本の、ごく普通の会社員・技術者の、ものの見方・考え方がそのまま出ている。

2014-12-04 14:39:01
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨そしてその視点は、当時の常識ある普通の日本人の普通の考え方なのである。 これを読めばだれでも、なぜ、こういう人がいて、そしてそれがおそらく国民の大多数でありながら、太平洋戦争という無謀な戦争に突入したか、首をかしげたくなるであろう。

2014-12-04 15:08:57
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩そしてこの記述と当時の新聞を対比していったら、そこに、いわゆる”世論”なるものと、常識人の普通の考え方との間の、恐るべきギャップを発見するであろう。 この本は、あらゆる面で、多くの問題を提起していると思われる。

2014-12-04 15:39:00