天雄】日差しが眩しいくらいの日にもなると、肌寒さも忘れそうになる。昼間だとそれが顕著に感じられる。薄手の上着に斜め掛け鞄を下げて、とある本屋に顔を出す。
2014-12-09 11:31:02天雄】この本屋の前は時々通るものの、入るのはあの夏以来。以前はクーラーがきいていた店内も、今はあたたかい風が吹いている。三つ編みを揺らしながら、入学式のお祝いコーナーを横目にレジの横を抜けた。
2014-12-09 11:33:51狭間】今年の冬はなんだか唐突に終わって、わずかに残る肌寒さも、桜とともに散ってゆく。よく晴れた春の日。今日は連れはなく一人で、約束の相手と落ち合うために歩く。杖は二本…ではなく、一本。体をまるごと支える必要は、もう、ない。
2014-12-09 11:35:06天雄】上着のポケットから携帯を取り出して時間の確認。約束よりも少し早いが、待ち合わせの相手ならばこれくらいに来るだろうか。本棚の間を見ていくと、まだ姿は無いようだ。少し考えて、美術関係の本が置かれている棚の前に立つ。
2014-12-09 11:36:39狭間】自動ドアの前に立ち止まり、扉が開く。多くの学校で春休みが終わり、自分と同年代以下の学生の姿はこの時間、あまり見かけなくなっている。店内へと、足を踏み入れる。ちら、と見渡す。そろそろ約束の時間だ、あの相手はもう来ているだろうか。
2014-12-09 11:38:48狭間】この街らしく大きな書店の、たくさん並んだ棚をざっと眺める。見える場所にはいなさそうで、 (…んー、) 先までとはずいぶん違う、ずるりと足一本まるまる引き摺るのではなく、単にかばう程度の動作で、一本だけの杖をこつ、こつと突いて歩く。
2014-12-09 11:42:17天雄】平積みになっている話題のイラスト集や専門書を、目だけ動かして左から右へ。そこから本棚を見上げて凸凹の背表紙を見てみるも、ピンとこない。うーん、と首を大袈裟に傾げて。
2014-12-09 11:42:57@TIS_lam 狭間】向かう先は、見当をつけて、美術書の棚。歩く速度は、今までに比べて格段に速い。ちょうど振り返る動作で、くるりと宙に揺れる三つ編みの空色を見た。 「こんにちは、」 閑散とした時間帯の書店、棚通りの端から声を投げて、軽く頭を下げる。
2014-12-09 11:49:35@c_yu_n 天雄】「こんにちは」 まるで示し合わせたかのようなタイミングで現れた少年を見て、その場で向き合う姿勢になると頭を下げる。背筋を伸ばすと大股で近付いて、暫し見下ろす。まばたきを数回。なんだか軽やかな身なりに、首を傾げる。
2014-12-09 11:54:13@TIS_lam 狭間】「へへ」 見上げるようにして小さく笑う。手にした杖は一本。何度か作り直してもらった、この相手に作ってもらった黒い杖。左側に持ち、右足にかかる体重をかばう。 「お知らせしたいことっての、これなんです」 分かるだろうか。あまりヒントを出さず、首を傾げてみせる。
2014-12-09 11:58:17@c_yu_n 天雄】「これ、」 見るのは揺れる杖。自分が作った物だ、すっかり相手の手に馴染んで傍にあるのに見慣れてしまった。けれども以前に見た時よりも、重みがない気がする。そもそも片足は使えなかったはずなのに。は、と目を丸くした。 「狭間くん…そう、なんですね?」
2014-12-09 12:02:43@TIS_lam 狭間】「…、」 にしゃ、と笑う。それから、右足をちょっと曲げて、床から靴底を浮かせてみせる。 「…風香さんの紹介で、こないだハイジと一緒に、治してくれるってヒトのとこに行ってきて。まだもうちょい、筋力を戻してってるとこなんです今、」 少し照れくさい心地で告げる。
2014-12-09 12:06:26@c_yu_n 天雄】彼の右足が、息を吹き返した。もし今、自分に尻尾があったとしたら左右に音をたてて振っていただろう。それはもう、風をきる音をたてながら。 ぽん、と頭を撫でる。目を細めて、髪を梳くように。 「お帰りなさい」
2014-12-09 12:15:13@TIS_lam 狭間】「…ええと…りがと、ございます、」 ずいぶん照れたような、どうしたらいいのかちょっと迷うような心地で、照れ笑いを浮かべながら撫でられる。 「杖も…いままで、ありがとございました…まだもうちょい、使わせてもらいますけど!」 へへへ、と赤い顔で笑い、
2014-12-09 12:22:31@c_yu_n 天雄】「不要になったら、返してください。待ってますから」 杖を作ったのは一度ではない。てっきりこれからも何度か作ることになるかも、とさえ思っていたけれども。不要になる日が来るのも遠くないと思うと、思わず撫でる手に力が籠ってわしゃわしゃと遠慮なく撫で回す。
2014-12-09 12:27:06@TIS_lam 狭間】「…ええとあの、そんなわけで!そんな報告で…!」 それだけなんですけどと、キョドキョドと周囲の書架の背表紙を眺め渡す。 「わざわざ呼び出しちゃったんですけど、あの、そんな…こんなカンジで、…えっとご報告…」 肩をすくめる。やたら照れくさい。
2014-12-09 12:27:37@TIS_lam 狭間】「! …へへ、ハイ!」 くっしゃくしゃと遠慮なく撫でてくれる手の感触を見上げながら、その遠慮のなさがうれしくて言葉にうなずき、
2014-12-09 12:29:37@c_yu_n 天雄】「ご報告有り難う御座います。嬉しいですよ」 ぴたりと手を止める。既にとんでもなくもしゃもしゃになっている髪を撫でつけながら、そわそわする相手の様子に気付きながらも気付かないふりをしてマイペースに毛先を摘み。 「せっかくですから、歩きますか?リハビリついでに」
2014-12-09 12:30:53@TIS_lam 狭間】「ですね…あ、でも、」 つままれる毛先を視線で追いながら、 「なんか、本とか、見なくていいです?」 せっかく待ち合わせがここだったのだし、と、気になるタイトルがないかを尋ねる。
2014-12-09 12:33:51