空想の街・灯りの樹の夜'14 二日目 #赤風車

不可村 @nowhere_7

「でもカクテルとはその場で呑むものだよな。私は酒が弱くて詳しくないが……」姉がバーによく通う姿を思い描き、徒華は時計台の辺りで独りごちる。日持ちのする洋酒、ワインだとかウイスキーだとかそういうものがいいだろうか。バーそのものは街のそこかしこに点在するようだ。 #赤風車 #空想の街

不可村 @nowhere_7

@ce1039 そろそろ激怒しているであろう姉への土産に悩む徒華の視界に、ふと黒いものが揺れて映った。黒と見るとつい弟を思い出してしまう。 相手は少女のようだった。誰かを待っている顔だ。意を決し徒華は声をかける。「あの、そこの黒い女の子、いいかな」 #赤風車 #空想の街 #黒猫

咲良 潤　#言の葉の点綴 @sakura77_sosaku

頬杖をついてうつらうつらしていると「いいかな」と声をかけられた。「なんじゃ？」と片目だけ開けて相手を見ると、そこには長い黒髪の女。いや、男か？人の世は、女はスカートを履くものだと聞いたが。でも声は女じゃな。「何か用かや？」@nowhere_7 #空想の街 #赤風車 #黒猫

不可村 @nowhere_7

@ce1039 「すみません」徒華は少女が思ったよりも落ち着いた瞳と声をしているので驚き、口調を何となく改める。もしかしてこの少女も宿の少年のように何か訳がある子かもしれない。「私は旅の者なのですが、行方不明の弟を捜していて、情報を集めてるんです」 #赤風車 #黒猫 #空想の街

咲良 潤　#言の葉の点綴 @sakura77_sosaku

『何か用かや？』と言ったが、自分が商売をしていることをすっかり忘れておった。そしてその女の言葉にわっちの耳がぴこん！と立つ。「おぬしも弟を探しておるのか。わっちも生き別れた姉さまを探しているんじゃ」@nowhere_7 #空想の街 #赤風車 #黒猫

咲良 潤　#言の葉の点綴 @sakura77_sosaku

「今はこうして店を開いて語り部をやっているが、それも客から情報を聞ければいいと思ってのこと。さっそく効果がでて何よりじゃ。おぬし、わっちの姉さまを知らんかの？」わっちは自分が質問されていた事をすっかり忘れ、逆に聞いてしもうた。@nowhere_7 #空想の街 #赤風車 #黒猫

不可村 @nowhere_7

@ce1039 なんと、相手は姉を捜しているのか。矢張り大きな街、情報や人の出入りも多い。こうして時計の下でじっとしている彼女は、歩き回る自分よりずっと正しい。力になりたい。「お姉さんの特徴を教えてもらえれば、何か私も思い出すかもしれません」 #黒猫 #赤風車 #空想の街

咲良 潤　#言の葉の点綴 @sakura77_sosaku

「いやいや、すまん。つい興奮して自分のことばかりしゃべってしもうた。お主も弟君を探しておるんじゃったな。まずはその話をしよう。その前に、わっちの名はシャノワール・ミネット・バルバロイ。見ての通り黒猫じゃ。今は人の成をしておるがな」@nowhere_7 #空想の街 #赤風車 #黒猫

不可村 @nowhere_7

@ce1039 「シャノワールさんというのですね。有難う。私は皆代徒華と言います。どうぞミナシロと呼んで下さい」何か聞きなれた音がしたが気のせいだろう。今は大事な話だ。「お言葉に甘えて、少し弟の話をさせて頂きますね」徒華はゆっくり近くの椅子に座った。 #赤風車 #黒猫 #空想の街

不可村 @nowhere_7

@ce1039 「私の弟は黒髪、黒袷に黒袴黒と尽くめの若者なのです。名前はチクサ。差別の酷い町に住んでいました。彼は釣りが趣味なのですが、何故か風車しか釣れない業を背負っていて」そう説明し、懐の赤い風車を示す。「これを持った青年を、ご存知ないですか」 #黒猫 #赤風車 #空想の街

咲良 潤　#言の葉の点綴 @sakura77_sosaku

「どれどれ」とわっちは赤い風車を見せてもらった。印象的な赤じゃ。じゃがわっちは今まで姉さまの特徴である黒い毛並みの猫ばかりを追ってきたから、男と赤い風車は意識を向けていなかった。黒髪が特徴という点では一緒じゃが、果たして…。@nowhere_7 #空想の街 #赤風車 #黒猫

咲良 潤　#言の葉の点綴 @sakura77_sosaku

「風車か。聞いた話では赤子を連れた男が用心棒として働いているそうじゃ。その赤子を乗せた車に風車がついていたという話を聞いた事はあるが……まさかミナシロの弟君はその男ではないじゃろうな」弟というにはミナシロよりずっと老けているしの。@nowhere_7 #空想の街 #赤風車 #黒猫

不可村 @nowhere_7

@ce1039 「その話、どこかで……弟ではないでしょう」デジャビュを覚えつつ徒華は風車を仕舞う。「有難う御座います。一応、夏にここにいたらしいとは聞けたのですが、その前後がさっぱりで」あとは自分で捜そう。「次はシャノワールさんですよ。お聞きします」 #黒猫 #赤風車 #空想の街

咲良 潤　#言の葉の点綴 @sakura77_sosaku

「まてまてまて」相談されておいてそれに十分答えられなかったと言えば、とんだ名折れじゃ。風車…風車……。「そういえば花畑の真ん中に大きい建物があって、それが風車に…でもそれは釣りで釣れるような小さいものではなかったな……」@nowhere_7 #空想の街 #赤風車 #黒猫

不可村 @nowhere_7

@ce1039 「そうですね、釣りにはちょっと。……あの、大丈夫ですよ」大きな風車に馬に乗って突撃する場面が浮かんだ徒華は思わず首を横に振った。「それにしてもシャノワールさん、随分物知りですね。私は自分の地元ばかりでいけません。そういうの、素敵です」 #空想の街 #黒猫 #赤風車

咲良 潤　#言の葉の点綴 @sakura77_sosaku

「……そういえば昔、風車に手紙をつけて相手に投げつけるという話も聞いたことがあるが、あれは恋文なんじゃろうか……？」わっちはミナシロの話も聞かずに考え込んでしもうた。「ん？なんじゃ？」ミナシロはちょっと困った様子。@nowhere_7 #空想の街 #赤風車 #黒猫

咲良 潤　#言の葉の点綴 @sakura77_sosaku

「ああ、すまん。わっちの姉さまの事を聞いてくれたいたな。わっちの姉さまはそれはもう素敵な黒猫じゃ。漆黒という言葉がよう似合う光沢のある黒い毛での。尻尾もピンと伸びておる。人の姿になった時も、黒髪が自慢での。それは美人な女じゃ」@nowhere_7 #空想の街 #赤風車 #黒猫

不可村 @nowhere_7

@ce1039 「黒猫」心中で驚く。耳と尻尾を不思議には思っていたが、人間になる黒猫とは。しかし徒華は真面目に考え込む。「私の故郷はそういった、猫が人の姿をとったりという話にも厳しいんです。もし誰かが見かければあっというまに広まるでしょう」 #赤風車 #黒猫 #空想の街

不可村 @nowhere_7

@ce1039 そして続ける。「でも、そういった話は何も拡がっていません。一度もない証拠でしょうね。そこまでの美人の話も美猫の話もない。すみません……どうも、お力になれないようです」徒華はシャノワールに向かってわびた。 #赤風車 #黒猫 #空想の街

咲良 潤　#言の葉の点綴 @sakura77_sosaku

「お主がわびるような事ではない。わびるならお互い様じゃ。それにほれ、見てみよ」そう言ってわっちは耳をピョコっと隠した。「わっちらは少しの時間、耳を隠すことができる。もし仮に姉さまがいたとしても、きっとうまく隠しておったのじゃろう」@nowhere_7 #空想の街 #赤風車 #黒猫

不可村 @nowhere_7

@ce1039 「有難う御座います。お優しい。何だか」何だか、女学校の頃に憧れたあの女性を思い出す。シャノワールといった彼女は少女の姿だが、話の引き出しが多くたおやかでどこか艶まである。「貴女と話して穏やかになれました。お姉さんとの再会を祈ります」 #空想の街 #黒猫 #赤風車

咲良 潤　#言の葉の点綴 @sakura77_sosaku

「お主も早く弟君に会えるといいの。わっちはこれからもここで皆に話をしておる。ついでに姉さまの話も聞いてきたんじゃが、これからはお主の弟君の情報も聴くことにしよう。時間がある時にここに顔を出してくれれば、何か教えられるかもしれんな」@nowhere_7 #空想の街 #赤風車 #黒猫

不可村 @nowhere_7

@ce1039 優しい所まであの女性にそっくりだ。徒華の翳りがちな双眸が僅か潤む。「有難う。私も、故郷では難しいかもしれませんが、貴女のお姉さんを捜してみます。何かあったらまた来ます。シャノワールさん、本当に有難う御座いました」名残惜しいがもう夜だ。 #空想の街 #黒猫 #赤風車

咲良 潤　#言の葉の点綴 @sakura77_sosaku

「礼には及ばん。大事なのは諦めないことじゃ。まぁこれは受け売りじゃがな。諦めなければ会える。もしかしたらわっちらの想像しない形で会えるかもしれんぞ。なんせここは #空想の街 なんじゃからな」そう言ってわっちは手を振りミナシロと別れた。@nowhere_7 #赤風車 #黒猫