【突然の】枇杷先生の止血凝固講義【真面目】

枇杷先生の止血と凝固の講義 Hemostasis and Coagulation presented by Dr.Biwa
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枇杷 @loquat_priest

XをXaに転換する経路のひとつがFVII。FVIIは、ヒトの身体の至るところに存在する組織因子(TF。実はFIIIで、旧称組織トロンボプラスチン)と結合して、FVIIaとなりX→Xaを触媒する。これがいわゆる「外因系凝固」。この経路の活性を測定するのがPT:プロトロンビン時間。

2014-12-20 20:10:00
枇杷 @loquat_priest

TFは全身に分布するが、脳に極めて多量に存在するなど、生理的な出血の抑制に重要と考えられているほか、腫瘍細胞中のTFや、敗血症時に血管内皮細胞から産生されるTFはDICの重要な原因と考えられている。

2014-12-20 20:13:49
枇杷 @loquat_priest

XをXaに転換するもうひとつの経路がFIX。FIXは、カスケードの最上流に位置するFXI,FXIIに引き続いてFIXaに活性化される。この経路が「内因系凝固」で、血液が生体外の異物に触れた際に発動すると考えられている。APTT:活性化部分トロンボプラスチン時間として測られる。

2014-12-20 20:19:46
枇杷 @loquat_priest

と、ここらへんまで書くとさすがにややこしくなったでしょう。凝固のカスケードはネズミ算的に短時間で反応速度を増幅させる仕組みで、外因系TF+VII→X、内因系(何か)→IX→X、X→プロトロンビン→フィブリノゲンは共通、くらいで十分と思います。

2014-12-20 20:35:51
枇杷 @loquat_priest

ネズミ算カスケードにすることで、少量の物質でスタートしても最速で凝固反応を進められるようになりました。ただ、カスケードの上の方がごく少量でいいってことは、小さな間違いでも体中が血餅だらけになりかねない、というリスクを背負うことになります。不要な凝固を抑える仕組みが必要。

2014-12-20 21:42:31
枇杷 @loquat_priest

凝固系の実現したいことのうち「不必要に固まらせない」「間違って作動した止める」の部分。この機能の主役となるのが、アンチトロンビン(AT, ATIIIともいう)とプロテインC。凝固抑制因子とも呼びます。

2014-12-20 21:53:16
枇杷 @loquat_priest

アンチトロンビン(AT)はその名の通り、トロンビンに結合して不活化するタンパク質。こいつは仕事がめちゃくちゃ速くて、どれくらい速いかというと、こいつがすぐにくっついちゃうせいでトロンビンを検査で直接測ることができないくらい(<0.1秒)。

2014-12-20 21:59:15
枇杷 @loquat_priest

ただし、ATはそれ単独でトロンビンに結合することはできなくて、血管内皮細胞のつくるヘパリン類の助けが必要。血液が勝手に凝固しては困るところでだけ、しっかり働けるようになってる。

2014-12-20 22:03:54
枇杷 @loquat_priest

また、ATはトロンビンだけじゃなくて、FXa(FXの活性型ですね)にも結合して不活化する。ATとトロンビンの結合にはある程度長いヘパリンが必要だけど、ATとFXaは、人為的にわざと短くしたヘパリンでもくっつけることができる。

2014-12-20 22:07:23
枇杷 @loquat_priest

これを利用したのが、低分子ヘパリンや新規ヘパリノイド。普通のヘパリンはATにトロンビンもFXaも同じように結合させるのに対して、低分子ヘパリンではトロンビンの2-5倍FXaに結合しやすい。オルガランでは22倍、アリクストラではトロンビンへの結合が理論上ほぼゼロ。

2014-12-20 22:12:52
枇杷 @loquat_priest

トロンビンとFXaを阻害するのの何が違うかというと、カスケードの上か下かの違い。凝固が活性化しているとき、FXaよりトロンビンの方が作られる量が桁違いに多い。トロンビンを抑える方が大変だし、間違って必要なところで働いてるトロンビンを抑える(=出血を起こす)可能性もある。

2014-12-20 22:17:53
枇杷 @loquat_priest

話のついでに。平常状態ではトロンビンはほとんど作られないはずだから、トロンビンを測って増えていれば凝固が亢進してることがわかり、DICの診断にすごく役立つ。でも、ATが仕事速すぎてトロンビンは直接測れないので、代わりにTAT(トロンビン-AT複合体)を測る系が実用化されてる。

2014-12-20 22:33:27
枇杷 @loquat_priest

続いてプロテインC。ATと同じく過剰な凝固にブレーキをかけるタンパク質ながら、その働き方はちょっと複雑でおもしろい。説明する前に、ここまでわざと登場させてなかった役者を2つほど紹介する必要があるので、まずその説明から。

2014-12-20 22:39:14
枇杷 @loquat_priest

ひとつめはFV(凝固第5因子)。こいつは凝固が開始してから、トロンビンによってFVaに活性化される。FVaはそれ自身が触媒にはならず、FXa(プロトロンビン→トロンビンの酵素ね)の補酵素として働き、プロトロンビナーゼ複合体全体でFXaの活性をおよそ30万倍に増強する。

2014-12-20 22:49:31
枇杷 @loquat_priest

FVは一言でいうと、すでに始まった凝固のカスケードに対して、ものすごく強力なポジティブフィードバックをかける働きをもつのです。

2014-12-20 22:54:57
枇杷 @loquat_priest

FVはFX、プロトロンビン(FII)、フィブリノゲン(FI)とともに内因系、外因系両方に関わるので、共通系の凝固因子と呼ばれることもある。数字は覚えにくいので、自分は「共通系は10の約数(1,2,5,10)」と覚えてます。

2014-12-20 22:56:38
枇杷 @loquat_priest

もうひとつの役者はFVIII。こいつはFIXとともに血友病A,Bの凝固因子として有名。その機能はFVに似ていて、やはりトロンビンに切断されてFVIIIaになり、FIXaとテンナーゼ(X→Xaを触媒)複合体をつくって、その活性を10万倍に増強する。

2014-12-20 23:00:03
枇杷 @loquat_priest

プロテインCが抑えるのは、このFVaとFVIIIa(協力して働くプロテインSが必要)。ATのように凝固の主役を相手にするんじゃなく、強力な脇役を消すことで凝固にブレーキをかける。面白いのは、プロテインC自身もトロンビンによって活性化プロテインC(APC)になること。

2014-12-20 23:15:27
枇杷 @loquat_priest

トロンビンがプロテインC→APCになるには、やはり血管内皮細胞でつくられるトロンボモジュリン(TM)が必要。APCが登場する場面は、本来凝固が活性化してはいけない(TMがある)ところで凝固が活性化(トロンビンがある)しているところ、ということ。

2014-12-20 23:19:24
枇杷 @loquat_priest

ちょっと詳しくなりすぎたけど、こういうAPCの面白い性質を利用したのが、組換えヒトトロンボモジュリンであるリコモジュリン。理論上は出血の副作用がほとんどなく、実際に臨床でもそのように受け止められて使われています。

2014-12-20 23:21:58
枇杷 @loquat_priest

やっと最後の実現したいこと、「いらなくなった血餅を解かして消す」。血腫(たんこぶ)や間違ってできた血栓がそのまま残っては困るので、できあがったフィブリンを分解する仕組みも用意されてます。線維素(=フィブリン)溶解、略して線溶。

2014-12-20 23:29:43
枇杷 @loquat_priest

線溶系は、凝固系ほど短時間に強力に作動する必要がないけど、必要な場所で働いてくれないと困るので、カスケードは1段階だけ。あと、凝固系をちっちゃくしたような仕組みが備わってる。

2014-12-20 23:33:52
枇杷 @loquat_priest

直接フィブリンを分解するのはプラスミンというタンパク質で、プラスミノゲンが切断されてできる。この反応を起こす代表選手がt-PA(組織プラスミノゲンアクチベータ)で、すでにできあがったフィブリンの上でしかこの反応は起こらない。

2014-12-20 23:36:53
枇杷 @loquat_priest

プラスミンも不必要に働かれては困るので、α2-プラスミンインヒビター(α2PI、アンチプラスミンともいう)とこれまたあっと言う間に結合して不活化され、測定できなくなります。間接的にはPIC(プラスミン-α2PI複合体)という形で測定可能。

2014-12-20 23:41:14
枇杷 @loquat_priest

よくヘパリンとかワーファリンを投与して「血栓を溶かす」と言うけど、抗凝固薬に血栓を溶かす働きはありません。凝固を抑えてる間にプラスミンで徐々に溶けるのが真相。だから、脳梗塞の超急性期治療はt-PAだし、胸腔内の癒着解除はウロキナーゼだったりする。

2014-12-20 23:43:37