【第三部-十二】時雨の二年目のクリスマス #見つめる時雨

時雨 山城 龍鳳 浜風
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誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

部屋の作業机に向かう山城の背中を見つめる。羽織が薄いせいもあって、よくわかる華奢な背中。それは海の上で大きな艤装を身に着けて戦うにはあまりにも細かった。でも、背筋が伸びた綺麗な姿勢からは、気品と誇り高さを感じる。…そんな、山城の背中。

2014-12-25 19:30:09
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ここ、扶桑と山城の部屋はとても静かだった。暖房の音と、山城が手元を弄る音だけが聞こえていた。扶桑は今はいない。…この部屋には、僕と山城だけ。 「…はい、出来たわよ」 山城がこちらを振り向く。彼女の手には、綺麗に修復された髪飾りがあった。

2014-12-25 19:35:09
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「ありがとう…山城」 …僕はその髪飾りを、両手で受け取った。 「…?なんだか元気ないわね」 「え…?…ううん、そうじゃないよ。…胸がいっぱいで…」 僕は両手で包んだそれを胸に抱いた。…僕の中から、沢山の気持ちがこみ上げてきた。 「…本当にありがとう、山城」

2014-12-25 19:40:09
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「…ちょっとそれ貸して」 …山城が僕の手から髪飾りを摘まみ取る。そして僕の髪を手ぐしで整え始めた。 「んっ…」 「…くすぐったい?」 「…ううん。…気持ちいい」 髪を撫でる山城の優しい手つきが、とても心地が良かった。

2014-12-25 19:45:09
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「ぁ…ふ…」 「…ねぇ、あんまり変な声出さないでよ。顔も緩み過ぎ…」 う…いけない。あんまりにも気持ちよかったから、つい…。 「…まったく、あんたってコは…」 山城は呆れるように言ってたけれど、頬はほんのりと朱を帯びていた。…何だか、恥ずかしいね…。

2014-12-25 19:50:09
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僕の髪に、ほんの少しの重みが加わった。それは僕がいつも感じていたもの。…もう、これがないと落ち着かない。 「…うん。やっぱり似合ってるわ。…もう、顔緩み過ぎだって言ったでしょう」 …僕は堪らず手で顔を覆った。だって…だって…。

2014-12-25 19:55:09
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「山城、時雨、そろそろクリスマス会が始まるわよ」 「うわぁぁぁ!?」 突然の扶桑の来訪に飛び上がる勢いで驚く。気づけば僕も山城も、顔が真っ赤になっていた…。 「…あら、邪魔しちゃったかしら?」 「そ、そんなんじゃありません、姉様…」

2014-12-25 20:00:14
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「あら、直ったのね。…やっぱり似合ってるわ」 扶桑は髪飾りに触れながら山城と同じことを言ってくれた。…扶桑の指がそのまま僕の顎を掻いてきた。 「やっ…んん…」 「時雨…だからあんたねぇ…」 変な声が出た口を慌てて手で抑える。山城は額に手を当てながら呆れた表情をしていた…

2014-12-25 20:05:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「さ、食堂に行きましょう。もう始まっちゃうわ」 扶桑は僕の頭をポンと叩くと立ち上がり、部屋の出口へと向かった。 「あ、姉様、待ってください。ほら時雨、行くわよ」 山城がひんやりした手で僕を引く。僕はその手を握り返し、食堂へと急いだ――

2014-12-25 20:10:08

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とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

浜風「このチキン美味しいわよ。貴女もどう?」 磯風「む…だがバルジが気になってだな…」 浜風「じゃあこれは私が頂くわ。ん…美味しい」 磯風「く…少しだけなら…ん?もうないのか!?そんな…」 浜風「…私の分けてあげるわよ」 磯風「浜風…!!」 浜風「(…ちょろい)」

2014-12-25 20:30:23
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

龍鳳「これ私が作ったんだけど、良かったら食べて?」 時雨「うん、いただきます。ん…うん!美味しいよ」 龍鳳「よかった…。あ、こっちも良かったら」 時雨「龍鳳も食べなよ。美味しいよ」 龍鳳「え?あの…」 時雨「あーん」 龍鳳「うん…。ん…美味しい…です」 時雨「ふふ」

2014-12-25 20:40:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

鈴谷「熊野。口元にソースついてる。指でほいっと」 熊野「あっ…。もう、さも当然のように自分の口へ運ぶなんて。…あら、鈴谷も口元ついてますわよ」 鈴谷「え?じゃあ熊野取って…って、え?ええ!?普通直接舐める!?」 熊野「ささやかな仕返し、ですわ」 鈴谷「いや、あはは…」

2014-12-25 20:50:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

由良「…夕立は皆のところ行かなくていいの?療養室にいても退屈でしょ」 夕立「…今日はここにいる。村雨が料理持ってきてくれたし、由良も食べよ!」 由良「…私はいいかな」 夕立「…やっぱりまだ痛いっぽい?」 由良「あ…えっと…じゃあ少しだけ頂戴」 夕立「…うん!」

2014-12-25 21:01:12
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

夕張「今由良には夕立ちゃんとの時間が必要よね…。一緒に料理食べたかったけど…」 五月雨「私で良かったら…」 夕張「え?そんな、気を使わなくていいのよ」 五月雨「私、夕張さんとお料理食べたい…です。夕張さんは嫌…ですか?」 夕張「わっ!?そんなことないから泣かないでぇ!?」

2014-12-25 21:10:21
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「時雨」 声をかけられ後ろを振り向くと、そこには山城が立っていた。 「またお酒足りなくなった?」 「違うわよ。…よく覚えてるわね」 勿論。…僕にとって、忘れられない夜だから。 「…少し付き合って」 「え?…うん」

2014-12-25 22:20:08
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

龍鳳「あ…時雨…」 浜風「…龍鳳、覗きは良くないですよ」 龍鳳「うぅ…」 磯風「よし、この磯風が見て来よう!」 浜風「一体何を聞いてたのよ!座ってなさい!!」

2014-12-25 22:26:29
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

寮内をふたりで並んで歩く。みんな食堂に集まっているせいもあって、途中で誰ともすれ違うことはなかった。山城がどこへ向かっているのか、わかるような、わからないような。 「…山城、ちょっと待ってて」 「…ん」 僕は途中で自分の部屋に向かった。

2014-12-25 22:30:10
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

戸棚から用意していた物を取り出す。…去年もこうして、山城へのプレゼントを持って行ったっけ。あの時は山城とふたりきりってだけで本当にドキドキして、どうしようもなくて、いっぱいいっぱいだったな…。今はこうして落ち着いてられるけど、でもやっぱり少しドキドキしてる…。

2014-12-25 22:35:08
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

廊下に出ると、山城が窓際で外を眺めているのが見えた。僕は小走りで山城の元で向かう。 「おまたせ」 「…うん」 「外を見ていたの?…あ…」 「見て、雪が降ってるのよ」 …窓の外には、真っ白な牡丹雪がちらついていた。

2014-12-25 22:40:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「去年も雪が降ってたわね」 「…そうだね」 …山城がおもむろに…懐からマフラーを取り出した。そしてそれを、僕の首にゆったりと巻いてくれた。 「はい。メリークリスマス、時雨」 僕の瞳の色と同じ、青いマフラーだった。

2014-12-25 22:45:10
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「…ありがとう、山城」 この前の戦闘で燃えてしまったマフラー。それは去年のクリスマスに山城から貰ったもの。山城はその代わりになるものをくれた。…嬉しい。思い出が、また詰み重なっていく。 「…今年は泣かないのね」 「…泣いてたの、やっぱりばれてた?」 「バレバレだったわよ」

2014-12-25 22:50:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「…山城」 「何かしら?」 僕は手に持っていた小包みを山城に渡した。 「…開けてもいい?」 「うん」 山城が包みを少しずつ丁寧に解いていく。そして、中のものを手に取り、小さく笑った。 「折り畳み傘。…何だか時雨らしいわね」

2014-12-25 22:55:09
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「時雨。外、出てみない?」 「え?」 山城が僕の手を軽く引く。僕は山城に連れられるままに、非常口へ向かった。…雪が、僕たちの頭の上で舞う。山城は今しがた僕がプレゼントした傘を開いて、外へ出た。

2014-12-25 23:00:16
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「ほら、時雨も」 山城と同じ傘の下に入る。…この折り畳み傘は特別大きいわけじゃない。二人で入るには小さい。…そのせいで、僕と山城の距離はあまりにも近い。冬の空の下、とても寒いはずなのに…温かかった。

2014-12-25 23:05:10