FF6二次創作SS【鎮魂のアリア】~その11~
- minarudhia
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フィストが墓の奥底から戻ってきたのは、戻ると二人に告げてから一時間程になる。 「あ、フィストさん」 リルムが気づいて駆けてくる。 少女も老人も無事であるのを見たフィストは、自身の愛騎の方を向いた。 「ご苦労様、テラ」
2014-12-30 22:13:22純白のグリフォンは翼を退屈げに扇ぎ、クチバシを軽く打ち鳴らす。 その足元には、墓から出てきたアンデットだったものが無残にも形を失い転がっていた。 フィストのかけた術により守られたリルムとストラゴスに手出しができなかった彼らは必然的にこの誇らしくも力強い魔獣に向かってきたのだ。
2014-12-30 22:18:37その結果としては当然の末路だろう。 「フィストさん、これでよろしいかな?」 「見つけてくださったのですね。感謝します」 ストラゴスから石とトリカブトを受け取り、フィストは手を前方へと伸ばす。 その手に小さな五色の光がぽうっと点ったかと思うと、一匹の蝶に変わった。
2014-12-30 22:20:46「それより、一体何を取ってきたの?」 そう聞くリルムの前に、何かの液体が入った筒状の容器が出された。 「…何これ?」 「知らない方がいいわ」 そう言い、フィストは腰に取り付けたポーチのような部分を探り、紙を取り出す。
2014-12-30 22:29:24その一方でフィストはトリカブトをすり潰し、汁を採るとそれに筒状の容器に入った液体を混ぜる。 鼻をふさぎたくなる異臭を放つそれは、墓の中に入り込んだまま息を引き取った者の死体から採ったわずかな量の脳漿。 さすがにその事実は二人には伏せられたが…。
2014-12-30 22:37:53その二種類の液、そして自らの唾液を混ぜて置き、続いて石を笛の形にする作業を行う。 ――― 「終わったよ!」 段取り通りに魔法陣を書き終えたことを告げにリルムがフィストの元へやってくる。
2014-12-30 22:50:34そこで彼女が見たのは、何かを呟き続けるフィストと、その眼前に浮き上がりまるで粘土のように形を変える石だった。 「・・・」 ぽかんとして見ているリルム。 彼女も自身の故郷で魔法に慣れているつもりだったが、物の形を変えるという手合いの魔術を見たのはこれが始めてた。
2014-12-30 22:53:24そう言い、フィストはふと思い出したようにリルムに聞いた。 「そうだわ、リルムちゃん。あなた、筆を持っていないかしら?」 「筆?」 「ええ、貸してくれないかしら?後で綺麗にして返すわ」 「わかった」 ちょうど、いつも持ち歩いていた筆がある。
2014-12-30 23:00:24それをフィストに貸すと、彼女はその毛先に先程の液を染みこませ、石の笛に何か模様のようなものを描いていく。 それを見つめながら、リルムは聞いた。 「…ねえ」 「ん?」
2014-12-30 23:04:17「フィストさんはどうしてあのキンニク男のこと追っかけてきたの?あいつの方、何も覚えなかったみたいだけど」 「…そうね…」 描きながら、フィストは少し口をつぐむ。 傍から見るとただ、模様を描いているだけに見えるが、リルムは描かれた模様がうっすらと光を放っているのを見ていた。
2014-12-30 23:06:32「彼とは、2年前に会ってるの。…その時から、かな」 「その時からって、好きなの?」 「えっ…」 「キンニク男のこと、好きなの?だから追いかけてきたんじゃないの?」 「ええっと……」
2014-12-30 23:11:14それは、あまりにも巨大だった。 50mを軽く達するそれは、力強く足を踏みしめながらロック達を追いかけてくる。 眼窩の奥におぞましい光を宿してそれはどこまでも復讐を果たそうと追いかける。 ジュリアスが憑依した死体であったもの――巨大な骸骨は。
2014-12-30 23:14:53「な、なにあのでっかいガイコツ!?」 「あれは…ジュリアスの怨念に惹かれて野晒しになって死んだものの霊達が彼と融合したんだわ!この世界でもこうなるとは…」 笛を完成させ駆けつけたフィストは巨大な骸骨を一瞥し、表情を曇らせる。
2014-12-30 23:16:59まもなく、キランを先頭に次々とチョコボ達が三人の元へなだれ込んできた。 「皆無事じゃったか!」 「ああ、ただあいつが…その、でっかくなっちまって!」 「俺達がいくら攻撃食らわせてもすぐに治っちまうんだ!ああなっても魔列車なんて呼べるのか?」 「・・・」
2014-12-30 23:19:41フィストはこちらへ迫ってくる巨大骸骨を再び仰ぎ見る。 もう骸骨は目の前、そしてそれを封じ込めるに目の前の魔法陣はあまりにも小さい。 「…仕方ない。あれを分解する」 「分解?」 そう質問が投げかけられた直後だった。 周囲の空気が徐々に熱を帯びるように感じられたのは。
2014-12-30 23:22:05「なっ…!?」 全員がフィストを見ていた。 彼女の黒髪は風もないのに揺らぎ、その足元はまるで焦土と化したかのように黒く焦げ付いていく。 そして彼女の周囲に沸き立ち舞い上がる赤や金の輝きは…火の粉だ。
2014-12-30 23:24:59彼女を覆うように纏いついていた火の粉は、やがてその足元へと落ち、巨大な魔法陣を描いていく。 その魔法陣からフィストごと覆うように炎が湧き出ていた。 「こ、これは…」 ストラゴスが息を呑んだ。 魔法陣から湧き出た炎は、やがて大きな何者かの姿へと形どろうとしていた。
2014-12-30 23:27:13そこへ骸骨が迫り、腕を振り下ろそうとする。 「危ない!」 キューン! 素早く舞い上がり、その腕めがけて体当たりを仕掛けたのはテラだ。 それを受けた腕がコントロールを狂わせ、見当外れの場所へ叩きつける。
2014-12-30 23:29:57その間に炎はある物への形を取ることに成功した。 10mはあろうという巨大なトカゲの形を。 「行け!!」 フィストが指差し、炎のトカゲが巨大骸骨へと肉迫していく。
2014-12-30 23:32:17触れた先から炎が骸骨を包み込んだ時、おびただしい叫びが骸骨の全身から響き渡った。 炎が舐め尽くすうち、骸骨の形は大きく崩れ去り、そのまま前へとつんのめっていく。 「すごい…こんな、こんな魔法…」
2014-12-30 23:34:04ティナが唖然としながら目の前で骸骨だったものが再び元へと戻りつつあるのを見つめた。 自分達が知っている魔法とは、明らかに異質なもの。 そして、彼女が見せた力の一片が、一撃で目の前の怨霊達を無に帰してしまうことへの怖れを見せつけられてもいた。
2014-12-30 23:37:24「……スコッ…ト」 骸骨という形が崩れ、核となっていた死体が、魔法陣の上へと倒れていく。 その瞬間、魔法陣が強い光を放ち、彼を閉じ込めた。 ひゅるるるるるぃいいいいいいいっ!! 空気を震わすように鳴らされるホイッスル。 二度、三度と吹き鳴らされ、そして凛とした声が響き渡る。
2014-12-30 23:41:38「我らが生ける者の領域と死せる者の領域の狭間に漂い魂を迎え送るものよ 我が霧笛の導きに従い 己の安寧を拒む魂を束縛し 死せる者の界域へ運び給え」
2014-12-30 23:44:08その直後に詠唱が始まる。 やはり、あの歌と同じく難解な言葉だが、極めて単調な言葉を繰り返すものだ。 その詠唱が終わり、再びホイッスルが鳴らされる。 ひゅるるるるるぃいいいいっ ひゅーるるるるるるるぃっ ひゅるるるるるいいいいいいいいぃぃぃぃ!
2014-12-30 23:47:20