【ただ一度の永遠】オレのエースをよろしく

弱虫ペダル二次創作 腐向け ただ一度の永遠番外編
3
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

【ただ一度の永遠17・裏話】 滝幸治にとって、人生とはすなわち野球だった。 寝ても醒めても野球一色。生活のすべてが野球に捧げられているといっても過言ではなかった。 そして、かれにとっての野球とは、イコール荒北靖友だった。 彼の生まれた初めての友人にして、幼馴染。

2014-12-24 21:52:05
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon (そして、オレの、エース) 荒北がピッチャーをやるというから、滝はキャッチャーになった。 『オレがなげるから、おまえがとるのな』 『うん』 滝の前にはいつも荒北がいて、いつも道を示してくれた。 荒北の足は早くて、追いつくのがやっとだった。

2014-12-24 21:54:40
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon たぶん、荒北に会わなければ、滝は野球をやっていなかっただろう。 そして、こんな風に野球に打ち込むこともなかった。 滝は荒北がやることは、自分もやるのだと当たり前のように思っていた。 だから、荒北がリトルリーグに入るときも一緒に入ったのだ。

2014-12-24 22:02:25
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 荒北には人並以上に才能があった。 それは輝かしいあふれんばかりの才能が。 ……そして、滝は、かろうじてそれを追いかけることができた。 自分に荒北のような才能があるとは思わなかった。 (でも、ヤストモの後を追うことができるくらいの能力はあって……)

2014-12-24 22:08:56
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon そのことにどれだけ滝は感謝しただろう。 荒北と共に歩くためだけに、滝はすべてを費やしてきた。 (オレはただ『野球』をしてたんじゃない。オレはヤストモと『野球』をしてたんだ) 荒北靖友という輝かしい才能に尽くすことが、滝にとっての野球だったのだ。

2014-12-24 22:12:20
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon だから、荒北が故障し、もう二度と野球ができないと知った時、滝は自分が歩く道を見失った。 荒北は、甲子園での優勝を夢なのだと何度も口にしたが、滝の夢は荒北を優勝投手にすることだった。 滝にとって、荒北のいないグラウンドはあまりにも広すぎた。

2014-12-24 22:18:29
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon (でも、野球をやめることはできなかった……) 今更、野球なしの生活はありえなかった。 荒北のいない喪失感だけがただぽっかりと口をあけていて、時々、自分がどこにいるのかわからなくなるような感覚に囚われた。 そんな滝を引き戻したのは、やはり荒北だった

2014-12-24 22:23:36
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 『……てめえは、甲子園行けよ!ぜってーにだ』 荒北は言った。 『俺の代わりになんてぜってー言わねえ。おまえは、おまえで行け。……俺は、違う道で「1番」めざすからよ』 それが、荒北と滝の道が、分かれた瞬間だった。抗うこともないまま、ただ分かたれた。

2014-12-24 22:26:25
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 文句も何もなくただ受け入れるしかできなかった。 (だって、ヤストモはもう二度と野球ができないから……) 内緒で訪ねた荒北の主治医は言った。 学校の授業とかで軽くやる程度ならできるだろう、と。 でも、靖友くんにとって、それは野球じゃないそうだよ。

2014-12-24 22:29:52
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 荒北ならばそう言うだろうと滝は納得した。 滝だってそう思う。 彼らにとっての野球は、そんなものではありえなかった。 学校の友達が、ゲームをしたり、遊んでいる時も、彼らはただひたすらトレーニングや練習をしていた。 遠足も修学旅行すら行かなかった。

2014-12-24 22:35:33
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 試合や合宿があったからだ。 彼らのその努力は、おそらく充分に報われたと言われるだろう。 彼らの所属していたリトルリーグは全国大会優勝を果たし、世界大会で優勝したし、荒北と滝はジュニア選抜に召集されたりもした。 ずっと一緒に在る事を疑いもしなかった

2014-12-24 22:41:09
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon だが、これから歩む道が強制的に分かたれることによって、今更のように自分たちはあまりにも近しく、当然のように共にいたのだと思い知った。 何度か、野球をやめるという選択肢が頭の片隅をよぎった。 けれど、そのたびに荒北の言葉を思い出した。

2014-12-24 22:48:40
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 荒北が自転車を選び、再び自分の道を構築していく間、滝は滝で、自分の野球というものを見つめなおし、自分を再生していた。 時間はかかった。 当たり前だ。物心ついたときからのつきあいだ。15年かけて構築されたものを改める事が、簡単に済むはずがない。

2014-12-24 22:56:37
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「タキコージ、どうしたのだ?悩み事か?」 ひょこっと顔を出したのは、東堂だった。 東堂尽八……滝の何度目かの一目惚れの相手で、滝の知らない荒北の友人だった。 知らない、といえば語弊がある。 今は、もう滝ともちゃんとつながりがあるからだ。

2014-12-24 23:02:42
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「いや。ちょっと思い出してただけ」 結局、二人の決着をつけたのは。彼らが何よりも大切にしてきた白球だった。 最初で最後の三球勝負。 どちらも全力だった。 「何をだ?」 「ヤストモとの勝負」 「勝負?」 「そう」 「何の勝負をしたんだ?」

2014-12-24 23:06:22
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「オレらが勝負するのなんて野球しかねえよ、パチちゃん」 「そのパチちゃんというのはやめろ」 「いいじゃん。可愛いだろ、パチちゃん」 「おのれ、ケーキやらないぞ」 「え、ケーキあんの?」 「もちろんだとも!クリスマスにケーキはつきものじゃないか」

2014-12-24 23:10:07
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 今夜は、荒北の家でクリスマスを祝っていた。 パーティというほど本格的なわけではない。約束をしていたわけではない。 けれども、毎年、クリスマスは必ず荒北の部屋でダラダラと二人で過ごしていた。 練習が終った後、家で夕食を食べてから荒北の家で過ごす

2014-12-24 23:15:16
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 今年は、たまたま泊まりに来ていた東堂もそこにいたというだけだった。 東堂はクリスマスということでケーキをもってきたらしい。 滝の差し入れはいつも決まってる。ベプシだ。 「イチゴのやつ?それとも、チョコの切り株?」 「イチゴの奴だ」

2014-12-24 23:17:28
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「ヤストモにイチゴ大目にやってね」 「なんだ、靖友、イチゴ好きなのか?」 「うん」 「へえ。何かかわいいな」 「甘いもの好きなんだけど、甘すぎるのはダメなんだよな」 「面倒くさい男だな」 「別に口では言わないよ。ただ無言になるけど」

2014-12-24 23:23:31
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「無言ね」 「……あとヤストモは、あんまり自分からしゃべらないから。悩んでるみたいだなって思ったら、ぱちちゃんが聞き出してやって」 「っていっても、オレがそれに気づくかわからないだろ」 「しつこく何度も聞けば、根をあげて答えてくれるから」

2014-12-24 23:27:25
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon まあ、その前に手が出るかもだけど。 「……俺も、何度も叩かれてるぞ」 あいつは気軽に叩きすぎる、とぷんと東堂は頬を膨らませる。 「ぱー?ぐー?」 「ぱーだな。あるいは、デコピンとか?」 「ああ、それは怒ってないときだ」 「そうなのか?」 「うん」

2014-12-24 23:30:04
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「平手ってのは全然怒ってないから。怒ってなくてもムカつくとアイアン・クローな」 「アイアン・クロー」 「こう、がっと手で顔を挟まれんのな」 「痛いのか?」 「マジで痛い。投手の握力だぜ、当然でしょ」 「でも、荒北はケガをしたんだろう?」

2014-12-24 23:32:46
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「そうなんだけどな」 (でもさ、パチちゃん。右も左もどっちも鍛えてんだぜ。左でやられても相当くると思うんだけど) でも、それは東堂が自分の身で覚えればいいか、と滝は小さくうなづく。 「なあ、パチちゃんは、自転車乗ってんだよな?」 「おう」

2014-12-24 23:35:03
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「……じゃあ、これからヤストモと一緒なのはパチちゃんなんだな」 「………?」 「ヤストモ、箱根学園だって」 「え?」 「進学先」 「……本当か?」 「うん。ヤストモママ情報だから、確か」 「……そっか……」 東堂は幸せそうな表情で笑う。

2014-12-24 23:37:30
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon それを悔しいとは思わなかったけれど、羨ましくはあった。 自分の道は分かたれてしまったが、東堂の道は荒北の道と交わっているのだ。 それを羨ましく思わないはずがない。 (でも……いいんだ) 滝はこれからもあの白球を追っていくことを決めた。

2014-12-24 23:39:12