浜風「山城、貴女に聞いておきたいことがあります」 山城「…何?」 浜風「単刀直入に聞きます。結局、貴女は時雨をどうしたいんですか」 山城「どうって…あんたに何の関係があるのよ」 浜風「…龍鳳のこと、ご存知ですよね?」 山城「……」
2014-12-31 19:00:59浜風「時雨にとって、貴女の存在は大きすぎる。貴女の微細な表情の変化でも、時雨は敏感に感じ取ってしまう。貴女の心に迷いがあれば、彼女もまた迷ってしまう」 山城「…あんたに私の何がわかるっていうのよ」 浜風「わかりません。だから聞いているんです」
2014-12-31 19:10:36山城「私は…。……」 浜風「…時雨は今でも心に迷いを抱えています。…彼女を、解放してあげて下さい。それが出来るのは、貴女だけなんです」 山城「…そんなの、あのコが勝手に私を好きになって、勝手に離れられなくなってるだけじゃない!!」
2014-12-31 19:15:36浜風「…最初はそうだったかもしれません、でも…」 山城「違う、違う!私は…」 浜風「…今の貴女の態度で確信しました。貴女は…」 山城「やめて、やめなさい…!」 浜風「やめません!!」
2014-12-31 19:20:36浜風「…私は貴女を尊敬していました。あの戦争で、どんな地獄が待ち受けていようと突き進む強い意志をもった貴女を。でも今は何なんですか。ずっと逃げ続けるつもりですか」 山城「うるさい、うるさい…!」
2014-12-31 19:25:37浜風「…貴女がそんな状態でいる限り、時雨は…龍鳳は…!…だから、お願い…します」 山城「…何で、あんたまで…泣いてんのよ…」 浜風「わかりません…!もう、もう…」
2014-12-31 19:30:39扶桑「…山城」 山城「姉様…!?こ、これは…その…」 扶桑「…ごめんなさいね。聞かせてもらったわ。…浜風」 浜風「…はい」 扶桑「…山城のことは私にも責任があるわ。だから、あとは私に任せて欲しいの…」 浜風「……」
2014-12-31 19:35:35扶桑「…ありがとう。こんなに真正面から山城に向かってくれて」 浜風「…私は、やっぱり、どうしても…このまま放っておけなかった。それだけです」 扶桑「ええ。…お願い。席を外して欲しいの…」 浜風「…はい」
2014-12-31 19:40:35山城「扶桑姉様…私は…」 扶桑「私は、貴女の気持ちはよくわかっているつもりよ。私は、貴女の姉だから。…何より、私はいつでも、貴女の傍にいたから」 山城「……」 扶桑「…時雨に、離れて欲しくないのよね」
2014-12-31 19:45:35山城「…私、自分が許せないです…。結局また、私は同じことを…。私だけ、私だけ何も変われてなかったんです…。姉様…」 扶桑「…山城。貴女にとって、時雨はどんな存在?」 山城「…それは」
2014-12-31 19:50:36山城「……。……」 扶桑「…うん。それを、時雨にもきちんと伝えてあげて。…大丈夫」 山城「……」 扶桑「山城、愛しているわ」 山城「姉様…」――
2014-12-31 19:55:35 *
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「お邪魔します」 僕は、扶桑と山城の部屋の扉を開けた。…あれ?てっきり扶桑もいると思ったのに、部屋には山城だけだった。 「何キョロキョロしてるのよ。姉様なら、満潮のところに行ってるわ」 「へぇ?珍しいね」
2014-12-31 21:30:17丸机の前に用意された座布団に招かれ、僕はそこに腰を下ろした。…斜め向かいに座る山城の視線が僕に来たり、下に落ちたりと落ち着かないのは、何故だろうか。 「…それで、話って何かな」
2014-12-31 21:35:13「…ねぇ、時雨は、今でも私のこと、好き…?」 「え?…勿論」 「…私が、扶桑姉様を好きでも…?」 「うん。……」 心の底から流れ出る、この言葉。そこには嘘も偽りもなく、僕の本心。僕は、山城のことが…。
2014-12-31 21:40:13山城の顔が、少し泣きそうに歪む。…また、この顔。クリスマスの夜、山城が僕に見せた顔。 「…時雨は、どうしてそこまで私に…?」 「え?迷惑…だったかな」 「そうは言ってない…。でも、どうして?」 「…そうだね。ずっと一緒にいたいって、心から思ってるから、かな」
2014-12-31 21:45:14「……」 山城が俯く。僕、何か山城を悲しませてしまうようなこと言ったかな…。ねぇ、山城。どうして…泣いているの…? 「…私じゃ、貴女を幸せにはしてあげられない」 「え?僕は幸せだよ」 …山城が首を振る。
2014-12-31 21:50:13「…龍鳳」 山城が小さく呟いた。…その名前は、僕の心を大きく揺さぶった。 「…貴女の大切なコなんでしょう?龍鳳も、貴女も、今まで何回も泣いたんじゃないの?そんなに泣いて、どうして幸せだって言えるのよ…」
2014-12-31 21:55:14「夕立の時だって、随分泣いたんじゃないの…?どうしてよ…」 「…夕立も、龍鳳も、僕にとって大切なひと。でも…自分に嘘はつきたくなかったんだ。それに、山城の傍にいられれば、僕はそれで…」 「…どうして…あんたってそう…」
2014-12-31 22:00:23「…山城は、やっぱり迷惑…だよね。…ごめん」 「はぁ…!?そうじゃないって言ってるでしょう!?いい加減怒るわよ!!」 山城が僕の服を掴む。顔が、間近に迫る。山城は本気で怒っていた。でも…目からは涙が零れていた。
2014-12-31 22:05:12「私はね!!あんたなんか…あんたなんかねぇ…!!」 山城が、顔を伏せていく。そして…。 「あんた…なんか…」 …僕の胸に、崩れ落ちた。
2014-12-31 22:10:13山城の様子がおかしい。どうして。どうしてそんなに怒っているの。どうしてそんなに泣いているの。僕が怒らせてしまったの。僕が泣かせてしまったの。ねぇ、どうして…?
2014-12-31 22:15:13「…私は扶桑姉様が好きよ…。だけど、あんたにはずっと傍にいて欲しかったのよ…。離したくなかったのよ…。そうよ、これは全部私の我儘のせいなのよ…。時雨や皆を本当に泣かせてきたのは、私なのよ…」 …山城。
2014-12-31 22:20:14「皆みんな、不幸にしてきたのは私…。私は、所詮…」 「違うよ」 僕は、山城の言葉を遮った。その言葉だけは、言って欲しくなかったから。 「山城の、せいなんかじゃない。絶対に」 「…やめて。もう…」
2014-12-31 22:25:13山城のせいなんかじゃない。…じゃあ、皆を泣かせていたのは誰?…それは…僕以外にいない。そうだ。僕がいけなかったんだ。ああ、どうしよう。皆、みんな、僕が泣かせてしまった。山城も泣かせてしまった。笑っていて欲しかったのに。僕は誰の為に、何の為に意固地になっていたのか…。
2014-12-31 22:30:14