#リプきた単語で三題噺 「線路」「焚き火」「王の器」

4作目
0
ネッシー @0ZaALZilA

やるで。お題は「焚き火」「線路」「王の器」 #リプきた単語で三題噺

2014-11-06 22:26:59
ネッシー @0ZaALZilA

「もうダメだ死のう」 好きな人にフられた。 大学受験に落ちた。 上の二つを愚痴ったら努力が足りないと返された。 「飛び降りてやる」 日本の文化と言えばハラキリ、外国人ならそう答えるだろう。 生き恥さらすくらいなら、線路で人身事故起こして死んでやらあ。

2014-11-06 22:27:26
ネッシー @0ZaALZilA

間もなく電車が到着します、白線の向こう側へ―― 「お待ちなさい!」 体重を前方に向け、いざ、というところで背後から抱きかかえられた。 決心が鈍るようなことするんじゃねえ。 「離せ!離せったら!」 「お待ちなさいといったのです!」

2014-11-06 22:27:58
ネッシー @0ZaALZilA

年季を感じさせる声なのにがっしりした体形で、体術を駆使した堅め方をしてきやがる。簡単には振り払えない。 「大野大器(おおのたいき)さん…でございますね?」 「な、何で俺の名前を?」 背後の男が拘束を解いたので、ばっと振り返る。長い顎鬚、整った黒スーツ。初老の紳士が深々と礼をする。

2014-11-06 22:28:55
ネッシー @0ZaALZilA

「申し遅れました。私はあなた様の父上…ディアモンヌ・ド・ブリオール王に仕える執事でございます」 ☆ ブリオール帝国。 国民1000人にも満たない、観光業で成り立っている小国だったか。教科書で見た程度の知識しかないが、 「俺が次期国王候補だとはね」

2014-11-06 22:29:42
ネッシー @0ZaALZilA

今時、漫画やアニメでも見ない展開だ。 で、国王のプライベートジェットで帝国に向かってる最中。 「王子は一人だけで、王妃も既に亡くなったのですが、遺産整理のためにいろいろ調べていましたら、貴方様という隠し子の存在が発覚しまして」 俺は捨て子だった。

2014-11-06 22:30:17
ネッシー @0ZaALZilA

いや、正確には養子扱いなのだろうが、手に負えないのに生んだんだから同じことだ。大方、金目当てで妊娠したけど責任取らせるのに失敗したってところか。 待てよ。 「遺産整理って言ったか?」 「はい、そのように」 「死にそうなのか、親父は?」

2014-11-06 22:30:40
ネッシー @0ZaALZilA

「…そうでございますねぇ、国を挙げて治療に取り掛かってますが、危険な状態、なのは確かですねぇ」 マジかよ。こんだけ騒がせといて死にそうなのかよ。 俺、一発ぶん殴るくらいの権利はあるだろ。 下手すりゃ国王だったんだぞ。

2014-11-06 22:31:31
ネッシー @0ZaALZilA

「そして、遺産もですが、大器様は王子と王位の継承権を争う必要がありまして」 「…は!?」 「急なお願いではありますが、何ぶん、王子本人がご所望されておりまして」 ☆ 『王子は大層、大器様に興味が御有りのようです』と言われて、城まで案内されたものの、緊張するなあ。

2014-11-06 22:31:55
ネッシー @0ZaALZilA

王子がプライベートな会話を望んだそうで、客室に出迎えられた。客室と言っても、五つ星ホテルのスイートルームが裸足で逃げ出す豪華絢爛ぶりだ。っていうか王子に日本語通じるのか? ノックが三回。ドアが開く。 「はじめまして、大器君。僕がブリオール帝国王子、アルフォンス・ド・ブリオールだ」

2014-11-06 22:32:37
ネッシー @0ZaALZilA

佇まい、声、一挙一動――全てにおいて世界が違う。 瞬間的に、圧倒的に、致命的に、そう感じた。 「お、お、大野、大野大器、です…」 「かしこまらなくていい。僕たちは王位を争うものとして平等な立場にある」 何て御方と王位継承権を争うことになっちまったんだ俺。

2014-11-06 22:33:04
ネッシー @0ZaALZilA

ここから無理矢理共通点を探そうったって、背丈の高さくらいしかないぞ。 そういや日本語で普通に通じてる。王子らしく、相応の学は積んでるってことか。 「全ての国民に平等であること、それが王の器だと僕は思っている」 「俺は日本国民だけど」 「確かにそうだが、君は僕の家族だ」

2014-11-06 22:33:37
ネッシー @0ZaALZilA

ああ、異母兄弟だ。 でも、その『母親が違う』ってだけで、俺は――全然平等じゃなくなった。 高貴さを示す丁寧な語り口が、挑発に聞こえてならない。 「…何が平等だよ」 「?」 「敷かれたレールを辿ってりゃいいだけの人生歩んできたくせによ。

2014-11-06 22:34:11
ネッシー @0ZaALZilA

俺はなあ、母親が違うってだけで、こんなに苦労してんだよ。大学落ちるし、フられるし!おまけに瀕死の親父のツラは拝ませてくれねえと来た!」 「お、落ち着きたまえ」 「どうせ王位がどうとかいって、出来レースなんだろ!それこそてめえらの筋書き通り、路線通り!」 怒りをぶちまける。

2014-11-06 22:34:42
ネッシー @0ZaALZilA

相手が王子とか知ったこっちゃない。 そういや俺、飛び降り自殺しようとしてたんだった。こうしてりゃ、国家反逆罪とかで寿命が縮まるかもな。 「勝負の内容は誰が見ても平等なものだ、それは保障しよう。そして、大野君。君が王位を継承したときのために、知っておかなきゃいけないことがある」

2014-11-06 22:35:16
ネッシー @0ZaALZilA

「知っておかなきゃいけないこと…?王の隠し子以上のことがあんのかよ」 「この国のことだ」 ☆ 場所は国営の焼却場。執事さんと、王の家臣と、王子と、俺だけしかいない。跡取りを決める戦いだってのに。 「もう知っておいででしょうが、ルールをもう一度説明させて頂きます」

2014-11-06 22:35:47
ネッシー @0ZaALZilA

「この木を全部燃やした方が勝ち、だろ?」 「そ、その通りでございます」 「早くやろうぜ」 「私としても異議はない」 ルールは簡単。自分たちが選んだ木を燃やすだけ。 木材の量は同じ、積み方は自分たちで決められる。 確かに平等な勝負だ。 「では、スタート!」

2014-11-06 22:36:27
ネッシー @0ZaALZilA

勝負は、マッチで火をつけるところから始める。 王子は一擦りで頭薬に火をつけ、引火させた紙を火種として投げ入れる。 そこからすぐさま団扇を叩いて空気を送り込み、コンディションを最適なものにしようと必死だ。 対し俺は――静観。 「どうした大器、ぼうっとして」

2014-11-06 22:36:52
ネッシー @0ZaALZilA

俺はゆったりと、俺が燃やすべき薪へと近づき。 せっかく積み上げたそれを、盛大に蹴とばした。 「なっ」 出てきたのは、燃料と説明されていた箱がたくさん。だけど、最初に手にしたときから、重さに違和感があった。開けてみると。 「おいおい王子様、何だいこの箱は」 しわがれた老人の、頭部。

2014-11-06 22:37:56
ネッシー @0ZaALZilA

「はっ、こんなことだろうと思ったぜ。後継者決めが焚火とか、意味わかんないしな」 「…ふん、愚民なら騙されると思ったが」 王子の目つきが鋭くなる。気品とか、世間体とか、そういうのをかなぐり捨てた目だ。 「察しの通り、それは君と私の父だ」 「面会させてくれない時点で怪しかったぜ」

2014-11-06 22:38:28
ネッシー @0ZaALZilA

「誤解しないでくれ。父は既に老衰で死んでいた。君という汚点を気懸りにしたまま、ね」 「どういうことだ」 「わずかな国民で国を支えるには、手広くやる必要があってね。当然クズみたいな奴とも関わりを持つことになるんだが、そいつらが優位に立つような材料はあっちゃいけない。

2014-11-06 22:39:18
ネッシー @0ZaALZilA

王の隠し子…スキャンダルの材料としては十分すぎる」 「親父はあくどい事やってたらしいが…そんな国を変えたいってお前は言ってたじゃないか」 「常識で考えたまえ!国の弱みを知られたまま、ただで逃がす訳なかろう。幸い国民は王の死を知らない。王を殺した罪人として君を裁く。この国の法でね。

2014-11-06 22:40:45
ネッシー @0ZaALZilA

そのつもりだったが…」 途端、王子が宙を舞う。 「えっ」 「つもりだったが…何だって?」 反射的な動きだった。 息がかかった連中に何かされる前に、行動を。 走って、突き飛ばす。 まっすぐ。 焚火の方向へ。 「うわあああああああああっ!!」

2014-11-06 22:41:30
ネッシー @0ZaALZilA

王子が紅蓮に染まる。 家臣が急いで水を掛けるが、王子が暴れ回るせいか、なかなか水を被れない。 「焚火は昔、罪人を焼く行為だったらしいぜ」 「王子様ー!」 「おいおい、これは後継者争いのはずだろ?もうアルフォンスはいない。これからは、俺が国王だ!」

2014-11-06 22:41:58
ネッシー @0ZaALZilA

消化が完了したころには、見目麗しかった王子様はうめき声を上げる黒になっていた。 ☆ 「失礼いたします、大野大器様」 「よせ、爺や。今の俺はブリオール・ド・タイキングだ」 「これはこれは、失礼いたしました」

2014-11-06 22:42:36