#完全ノープラン艦これ与太話 【ヒロイック・テスティモニィ】#3～#5

春魔解丼 @vespiking

曙はいつしか塞ぎ込み、思考がネガティヴになり、それが更に彼女の環境を悪化させた。酔った隣人に言いがかりをつけられ、痣ができるまで殴られた。翌朝、職場で痣が見つかった。平和なサセイボで、暴行を受けるなどありえない。故に痣は不注意、無能の証拠である。曙は解雇された。 #KZNPLN

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サセイボは法の千年王国だ。口止め料じみた鎮守府からの退職補助金があれば、数年は暮らせる。曙をさらに惨めな気分にさせた。昔好きだった番組が再開され、ほどなく劇場版公開が決定。PVは大衆向けにデチューンされ、知能指数の低そうな『視聴者』が、空洞化した感想を述べる。 #KZNPLN

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どこにでもある些細な『嫌な予感』がハノイの塔めいて積み重なる。積まれた鬱憤を取り除くのに、消費する思考がそもそも惜しい。口元を覆いたい、名を変えたい、暴力を振るいたい……抗えぬ不気味な衝動ばかりにリソースが割かれる。だが曙は一度も、暴力を振るうことはしなかった。 #KZNPLN

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彼女は聖人君主だった訳ではない。恐ろしかったのだ。己が衝動のまま他人を傷つければ、きっとケンペが来て逮捕される。いや、もっと悪いかもしれない。きっと証拠隠滅のために処刑される。そうした疑心暗鬼に囚われていたのだ。思えば、それがよくなかった。それがこのザマだ。 #KZNPLN

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曙は今、無実の殺人容疑で追われている。追っ手の名は駆逐艦、磯風。サセイボでその名を知らぬ者はいない、総司令金剛の秘書艦にしてサセイボ鎮守府『最高戦力』の一角。絶対神たる金剛の意思を下々にまで執行する冷酷無比なメッセンジャーとして、いつしか付いた異名は『代行者』。 #KZNPLN

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「ハァーッ！ハァーッ！……アイエエエッ！？」疲れ果て、憔悴し切ったアブソルーションは『法治国家』と書かれたネオン・カンバンにつまずき、身を投げ出した。「ア、アイエエエ……」ぼすり。黒い毛の塊が、アブソルーションの眼前に落ちてきた。塊はモゾモゾと蠢き、変形する。 #KZNPLN

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「わからないな。何故逃げる。君が潔白を主張するなら、悪戯に逃走罪を重ねず出頭し、法の下にて証明すればいい」塊が艦娘の姿をとり、ぶわりと全身を覆う髪の毛が解けた。内側には、『代行者』。「ウルサイ！クソ軍人め！法の下にとか言って、どうせ証拠をでっちあげてるんでしょ！」 #KZNPLN

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「今の暴言はあまり心象がよろしくないな。刑期が伸びるぞ」「な、何よ……何なのよ！もう！」アブソルーションは今にも泣き出しそうなのを必死で堪え、必死で叫んだ。叫べば叫ぶほど、磯風が優位に立つ。そんなことはわかっていた。そうするしかなかったのだ。「さあ、どうする」 #KZNPLN

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「あれあれ？アッ！帝国軍の軍人さんだ！ヤッター！」甲高い声が、2隻のサツバツ・アトモスフィアを切り裂いた。アブソルーションは呆気にとられる。磯風はぞくりと殺意を感じ、カラテを構え振り返った。「ワァーオ！何してるんです！？逮捕の瞬間！？スゴーイ！」 #KZNPLN

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「……誰だ」磯風は一片たりとも警戒を解かない。金髪碧眼の巡洋艦は、やや不格好なオジギでアイサツした。「ドーモぉ！独逸帝国から参りました、プリンツ・オイゲンです！夜のサセイボを観光してたら、迷子になっちゃって……ンモー！夜景がキレイなのがいけないんだわ！」 #KZNPLN

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「……ドーモ。磯風だ。現在、妖精の親子を殺害した凶悪犯を拘束すべく……」「違う！違うわ！無実よ！私は何も知らない！」アブソルーションは無我夢中で叫んだ。「ワァオ！シュラバ！スゴイです！ここから、決定的証拠で追い詰めるんですね！？見学させてください！」 #KZNPLN

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「……チッ」「アレ？どうしたんです？アレアレ！？」オイゲンの碧眼が、恐ろしい程に爛々と輝く。「ア、アイエエエエ！」一瞬の隙を突き、アブソルーションはビル街へとジャンプした。ニンジャ脚力で生産者の墓標を蹴り渡り、瞬く間に見えなくなる。「アーア、逃げられちゃった」 #KZNPLN

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「……どういうつもりだ、貴様」磯風はオイゲンを睨む。「何がです？私は何も知らない、ただの観光客ですよ！まあ、ちょっと色々、お仕事はありますけど！」オイゲンは肩のバルケンクロイツをこれみよがしに見せつけた。現代においては、独逸政府からの公認使節の証。この上ない脅迫。 #KZNPLN

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「……そうか。精々、夜道には気をつけろ」「ハーイ！ダンケダンケぇ！」オイゲンは芝居がかって手を振り、にこやかに別れを告げた。「……それでは、Reichstagでまた会いましょう。磯風＝サン」「……ああ、楽しみにしておこう」磯風が警戒を解いたのは、その2分後だった。 #KZNPLN

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予想外の乱入者により、からくも命拾いしたアブソルーションは降りしきる重金属酸性雨を弾き飛ばし、高層マンション8F附近の配管に張り付いた。下を向けば、背筋が寒くなるような闇が広がる。コンクリートの谷間はあたかも、セプクで首を落とす縦穴めいている。吸い込まれそうだ。 #KZNPLN

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このまま転落すれば、すっきりと全て無くしてしまえるのか。アブソルーションは大慌てでニューロンに去来したイメージを振り払った。そんなことを考えるな。生きる事だけを考えるんだ。ここで死ねば、自分は殺人犯として死ぬ。こんなくだらない濡れ衣を背負ったまま、死んでたまるか。 #KZNPLN

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「ア、アイエエエエ！？」ギイギイと音を立て、固定を外れた配管が壁から剥がれ、ぐにゃりと曲がる。アブソルーションは必死で細い管にしがみつくが、その船体はみるみる壁から離れていく。遥か下には、コンクリート舗装された路地。落ちれば死ぬ。「アイエエエ！アイエエエエエ！」 #KZNPLN

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ともかくアブソルーションは、曙は必死で助かる方法を模索した。嫌な予感が的中続きなら、いい予感も的中したっていいはずだ。だがパニック状態にある曙のニューロンには、昔見たヒーロー・カートゥーンのような、荒唐無稽な救助シーンばかりが浮かぶ。真下には現実に迫る、死。 #KZNPLN

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「アイエエエ！クソ！クソ！もういやだ！こんなの、もういやだ！何なのよ！私が一体何したっていうのよ！いやだ！助けて！死にたくない！」曙は必死で泣き叫んだ。だが静寂と秩序を重んじるサセイボの闇夜は、彼女の声を吸い込み、揉み消した。「助けて！助けて！」「――早く！」 #KZNPLN

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曙の耳に、声はふいに届いた。「アイエッ！？」「こっち！早く！飛び下りろ！早く！」曙は最早ヤバレカバレで、声のする方を向く余裕もなく、強靭なニンジャ膂力で配管から身を投げ出した！「アイエーエエエエ！」「グワーッ！」ボスン！柔らかな衝撃が全身を包んだ。フートンだ。 #KZNPLN

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耐重金属酸性雨カバーに覆われたフートンがクッションとなり、曙は隣のアパートのベランダに無傷で転がり落ちた。「アイタタタ……」フートンの向こうから、呻き声。「ア、アイエエエ！あ……アリガトウゴザイマス！」曙は慌てて横に退いた。「ダ、ダイッジョ……アイエエエ！？」 #KZNPLN

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救助者はフートンをおもむろに除ける。曙は驚愕した。「ア、ア……」「フーッ……アブナイだったわね……誰だか知らないけど、怪我がなくてよかった……うん？どうした？」救助者は曙の反応にやや困惑した。ぱくぱくと口を開閉し、こちらを唖然と見つめる。「イ、イズモマン……？」 #KZNPLN

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「エー、アー、あ、そうか……ま、まあ、ウン。そうよ」救助者、軽空母飛鷹はばつが悪そうにアイサツした。「ドーモ。軽空母、飛鷹です」「ア、アイエエエ……」曙はぼろぼろと涙を流した。「ちょ、だ、ダイッジョブ……？」「当たった……初めて……いい予感、当たったあああ……」 #KZNPLN