#リプきた単語で三題噺 「葬儀屋」「超能力」「疫病神」

14作目
0
ネッシー @0ZaALZilA

僕は葬儀屋の息子だ。葬儀屋と言っても、お爺さんお婆さんじゃなく、犬とか猫とか、そういうの相手の。人より場所を取らないという理由で、納骨堂を始めたパパ。ニッチな分野とか、スキマ産業とか、そんなこと言ってたけど。小学生の僕には何のことかよく分からない。

2014-12-06 22:21:58
ネッシー @0ZaALZilA

そんな訳で、ペットと最後のお別れをするお客さんをよく見る。 『うぅ…ポチ…』 『うぅペロ…』 『うぅ…チョコモナカジャンボ…』 急においしそうな奴来たな。 『うぅ…アレキサンドロ・ジョン万次郎…』 これに至っては、覚えるの面倒なんじゃないか?

2014-12-06 22:22:23
ネッシー @0ZaALZilA

何だか話が逸れちゃったけど。飼い主さんを見ていると、心が痛む。来るべき別れってやつを直視させられる。だから僕はペットを飼ってない。飼う気がしない。 なので、今、枕元で僕に付きまとっている奴は決してペットではない。 「そうです。私は疫病神なのです」 だ、そうだ。

2014-12-06 22:23:11
ネッシー @0ZaALZilA

葬儀屋だからこういうのも来るんだろうきっと。足のない、中年のおっさん。見た目はどっちかって言うと幽霊だ。こんな姿でも神だって言うんだから、先生の見た目で人を判断しちゃいけないって言葉は正しいな。相手、神だけど。 「眠いんだから手短に頼むよ」

2014-12-06 22:23:52
ネッシー @0ZaALZilA

「いや、ね。病気を流行らせるのが私たちの役割なんですよ」 「まさしく疫病神だね」 「でも、何せ医療技術が発達したでしょう?我々疫病神業界も厳しいものがあるんですよ」 「大変だね」 「わかってくれますか」 分かるわけがないだろ。 「でね、今ちょうど疫病の営業を行ってるんですよ」

2014-12-06 22:24:41
ネッシー @0ZaALZilA

「営業?」 「はい。といっても病気をあげるわけじゃなく、ある疫病を流行らせる超能力を人間にプレゼントしておりまして」 「何それ興味ある、いらないけど」 「全身の穴という穴から血を噴き出して死ぬ疫病とか、体がドロドロに溶けて死ぬ疫病とか」 「きっつ」

2014-12-06 22:25:39
ネッシー @0ZaALZilA

「他にはそうですね…生物を蘇らせる疫病とかもありますね」 …は? 「それ、疫病なの?」 「まだ出回ってない新商品でして」 そんな、家電製品みたいな扱いしなくても。でも、それさえあれば、皆ペットとお別れしなくて済む。誰も悲しい思いしなくて済むじゃないか。

2014-12-06 22:26:56
ネッシー @0ZaALZilA

「蘇らせる…その能力、欲しいんだけど」 「おっ、やっぱり子供は能力バトルに憧れるっていう推測は正しかったようですね」 「そういうのいいから」 「そうですか。それでは」 ぼうっと、全身が黄色く発光する。ちょっとカッコいい。 「手をかざして念じれば、死体が疫病にかかります。

2014-12-06 22:27:38
ネッシー @0ZaALZilA

お代は結構。疫病を流行らせてくださればそれで充分です」 そう言い残して、おっさん…もとい疫病神は消えてしまった。 ☆ あれから数日経った。 「タマァァァ!」 トラックに轢かれて死んだのだろう、血塗れの猫が痙攣を起こしている。そこで僕の出番。猫に向けて、すっと手をかざす。

2014-12-06 22:28:33
ネッシー @0ZaALZilA

すると、何ということでしょう、見る見るうちに傷が治った。 「タマ、無事だったんだね!」 とまあ、こんな感じ。あの日を境に、僕は人知れず救いの手を差し伸べるヒーローになったわけだ。でも、最近は手をかざすまでも無く生き返る事もある。疫病だからだろうか。

2014-12-06 22:30:33
ネッシー @0ZaALZilA

「バニラモナカジャンボォ!」 おいしそうな奴も生き返った。 「フランソワーズ・エドモンド本田!」 せめて統一感を持たせてくれ。 とにかく。肉体さえ無事ならちゃんと蘇るのは、納骨堂で確認済み。白骨遺体が大行列、とはならなくて安心した。 このとき、僕はまだ知らなかった。

2014-12-06 22:31:41
ネッシー @0ZaALZilA

良かれと思ってやってきたことが最悪の事態を引き起こすこともあるということを。 ☆ 疫病が流行りに流行り、深刻な問題が出てきた。 「最近めっきり客が減ったな…あの疫病のせいか」 一つは葬儀屋が儲からなくなったこと。感染力が予想以上に高くて、死んだ傍から生き返るなんて日常と化してる。

2014-12-06 22:33:08
ネッシー @0ZaALZilA

そしてもう一つ。その感染力の高さが生んだ問題が。 『次のニュースです。死者が蘇るという不可解な疫病が、深刻な事態を招いています。世界人口は増える一方、貧困は止まることを知りません』 『農作物の被害も深刻です。農薬の効果もむなしく、イナゴが水田の空を埋め尽くしています。

2014-12-06 22:34:20
ネッシー @0ZaALZilA

これに対し農林水産省は――』 『中南米で、食糧を求めるデモ隊が暴徒と化し、警備隊と衝突――』 食べ物がなくなってきたのだ。蘇る病に感染しても、食べきってしまったら生き返らない。自分のしでかしたことに恐怖を覚えても、今更誰に何と説明すればいいのか。とてもじゃないが無理だ。

2014-12-06 22:34:57
ネッシー @0ZaALZilA

普通の小学生を装って、今日も学校に通うしかない。 「いってきます」 通学路は一面、板が敷かれている。上を歩くとパリパリと音が響くんだけど、これについてはあまり説明したくないな。簡単に言うと、その、アレだ、G。下に大量のGがひしめいてる。たまに隙間からはみ出すのがキツい。

2014-12-06 22:35:45
ネッシー @0ZaALZilA

「うわーい!」 「キャハハハハハッ!」 同級生の子が、縄跳びの紐で、何かを引きずりながら走ってる。 「こら、やめんか!」 近所のお爺さんが呼び止めて、何を引きずってるのか分かった。沢山の野良猫だ。喉元を縛られて、地肌が見えるくらいボロボロになってる。

2014-12-06 22:36:34
ネッシー @0ZaALZilA

「えーっ、だって死んでも復活するでしょ?」 「そうそう、ウイルスがどうたらって、ニュースでやってたよ」 「そ、それは…」 遮るように、にゃぁ、と、かすれた鳴き声が聞こえてきた。 「爺さんもどうせこんな風に生き返るんでしょ?」 「あんまりうるさいと殺しちゃうぞ」

2014-12-06 22:37:21
ネッシー @0ZaALZilA

同級生が、筆箱からハサミを取り出した。 「ひぃっ」 お爺さんがよろめきながら、慌てて逃げ出す。 「アハハハハッ!」 姿が見えなくなるまでずっと笑ってた。間違ってる。狂ってる。皆おかしくなってしまった。 「こんな、はずじゃ…」 でも、世界を狂わせてしまったのは――僕だ。

2014-12-06 22:37:56
ネッシー @0ZaALZilA

「おや、お久しぶりです」 やたら丁寧な語り口、間違いなく奴だ。 「疫病神…!」 「いやあ、予想以上ですよ、これだけ流行らせてくれるなんて。貴方に任せたのは正解でしたね」 「こんな、こんなはずじゃなかったんだ!元に戻してよ!」

2014-12-06 22:38:28
ネッシー @0ZaALZilA

「そう言われましても…これだけ流行った疫病は、もはや私たち神でさえ手に負えませんよ。いや、今の私では、と言うべきでしょうか…」 「そんなこと言わないで、何とかしてよ!」 泣きじゃくりながら、頼み込む。 悔しいけど、疫病神以外に何とかできるとは思えない。

2014-12-06 22:39:30
ネッシー @0ZaALZilA

「方法があるとしたら、致死率の高い疫病を流行らせるくらいですかね」 「ちしりつ…?」 「簡単に死ぬような病ですよ。それも、死体も残らないようなやつを」 耳を疑う、でも、聞き返したくもないような、恐ろしい提案。

2014-12-06 22:40:03
ネッシー @0ZaALZilA

「ちょうど、体がドロドロに溶けて死ぬ疫病を流行らせる能力を用意しておりまして」 「それしか…ないの?」 「もっとも効率的と言えるでしょう。死体を残さないために」 でも、生き返るのがまずいって言うなら、手段はそれしかない。――殺すしかないのだ。嫌だ。無理だ。そんなことしたくない。

2014-12-06 22:40:52
ネッシー @0ZaALZilA

だったらもういっそ諦めた方が。 「どんな生物も、無限に増え続けることは出来ません。死んで土に還る。その土が草を育て、動物が草を食う。そういう仕組みなんです。だから――」 「生きるために殺すのは、何の問題も無いんですよ」 この一言で、僕の中で何かが弾けた。

2014-12-06 22:41:30
ネッシー @0ZaALZilA

「そっか…死んだり殺したりは、別に悪いことじゃないんだね」 「ええ、生きてるものはいつか死ぬ。至極普通のことです。心配ないですよ。ちょっと生物が増えすぎた分、減らすだけですから」 「減らさなきゃね。命は所詮数なんだもんね」 「胸を張るといい。君は地球の救世主になるんです。

2014-12-06 22:42:59