#東京定年 まとめ

蝉川夏哉さん(@osaka_seventeen)の嘘企画『東京定年』が形になる(かもしれない)過程をまとめてみました。  ↓↓↓ 実現しました ↓↓↓ 続きを読む
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糸畑要 @boreford

八重洲口の夜行バスに並ぶ列が視界に入る。かつては若者の乗り物だった夜行バスに、みすぼらしい老人達がトランクケースを持って並んでいる。彼らは「東京定年」後の居住地に関東近郊の家が得られなかったのだ。「青春ドリーム号」と書かれた札がくすんで見えた。夢の行き先は一方通行だ。#東京定年

2015-01-03 20:07:14
糸畑要 @boreford

「いやぁ、ザル法のおかげでボロ儲けですわ」埼玉で不動産会社を営む星は言った。「大宮から南にマンションを建てるだけで、ドンドン人が入ってくるのですよ。今度は都心にウィークリーマンションを建てます。住民票さえ移動させなければ、いくらでも東京に居続けることはできるのです」 #東京定年

2015-01-03 20:55:22
糸畑要 @boreford

「そりゃ、苦労して東京に家庭を築いた人にとっちゃ不幸だったかもしれませんがね」初老を超えたタクシーの運転手が言った。「私みたいな身寄りのないものにとっちゃあ、かえって良かったですよ。さいたま市役所で廉価な空き家を紹介してもらえた上に、足の悪い客まで連れてきてくれた」 #東京定年

2015-01-03 21:14:52
糸畑要 @boreford

「そろそろだったと思いますが、もう行き先は決まったんですか」 長年のサークル馴染みに聞かれて、しばし言葉に窮した。 「いやあ、独り身だと思うと、もうどこに行っても同じかなぁと思うとなかなかね」 「テレビ東京系が映るところがいいですよ。ローカル即売会の数も違います」 #東京定年

2015-01-03 21:26:46
蝉川夏哉 @osaka_seventeen

「地方も良いものだよ。住めば都というじゃないか。悠々自適だよ」息子夫婦にskypeでそう虚勢を張る田所の家計簿は今月も赤字だ。僅かな嘱託の口も今や取り合いでスーパーの警備員さえ高嶺の華だという。「それでも私は貯金があるから」固定電話は解約した。NHKも払う充てはない。 #東京定年

2015-01-04 11:18:06
蝉川夏哉 @osaka_seventeen

「時代小説の復権、あると思ったんですけどね」編プロ代表の待場の表情は暗い。「時間があるでしょう? 皆、本を読むと思ったんです」その本を買う場所がない。紙の本はまだまだ健在だが、大手書店への再編は留まるそぶりさえ見せていない。「パソコン使えないと、本も買えないんですよ」 #東京定年

2015-01-04 11:21:37
蝉川夏哉 @osaka_seventeen

「コンビニって本当にコンビニエンスだったんですね」バス停のベンチに腰掛ける沢渡は力なく笑った。昔はペットボトルの水しか飲まなかったが、今は水道水だ。最寄りのスーパーからでも、買って帰る気力がない。「帰れるものなら帰りたいですよ」バスは来ない。路線は既に廃止されている。 #東京定年

2015-01-04 11:25:03
蝉川夏哉 @osaka_seventeen

「猪が憎い」そう言いながら草を刈る吉村さんの畑は無残に荒らされていた。東京にいた頃は動物愛護団体に所属し、月の輪熊の保護に取り組んでいた。「東京から出るとね物の見え方が変わりましたよ」畑の薩摩芋は全滅だ。楽しみにしていた孫の為には、近くの農家から分けて貰うのだという。 #東京定年

2015-01-04 11:31:27
蝉川夏哉 @osaka_seventeen

「水を落とすって何のことかと思いました」水道管の修理を見ながら、片山さんはぼやく。旭川に越してはじめての冬。水を落とさなかった水道管は破裂し、集合住宅の水道が止まった。「郷に入っては、というけど、知らないことが多過ぎるよね」修理代は一万を超える。余計な出費は、厳しい。 #東京定年

2015-01-04 11:34:59
蝉川夏哉 @osaka_seventeen

「九州ってね、スナックが多いんです。キャバクラとかそういうのはあまりない」ほろ酔い加減で歩く坂島は、元芸能プロダクションの役員だ。「でもね、こういうのもいいもんですよ。話を聞いてくれるスナックのママってのも」こちらで一旗揚げる為の軍資金は、もう半分飲み潰してしまった。 #東京定年

2015-01-04 11:39:20
蝉川夏哉 @osaka_seventeen

「幹線道路にね二つも三つも紳士服屋があるんですよ」苦笑するのは大手衣料品販売店のデベロッパーを務めた葛西だ。「建てた時はね、誇らしかったですよ。でもこの人口規模でこんなにスーツが要るのかな?」業績の悪さは店の問題だと思っていた。「申し訳ないって気持ちはあまりないかな」 #東京定年

2015-01-04 11:44:58
糸畑要 @boreford

「若い嫁を貰ったと思ったら、この歳で単身赴任さ」 久々に会った以前の上司は努めて明るい調子で愚痴を言った。 「一緒に引っ越すとか、埼玉あたりに」 「女房は今の家が好きだし、子供の学校を考えるとなぁ…なに、引っ越しは慣れとる。むこうで愛人の一人や二人見つけてみせるさ」 #東京定年

2015-01-04 11:35:33
蝉川夏哉 @osaka_seventeen

「亡命政権っていうと大げさですよね」<全国足立区民の会>の事務局長、内藤は今も週に五日、電車に乗って足立へ帰る。「孫がいますから。家を出る時はさよならじゃなく、行ってきます」住まいは伊勢佐木長者町。同志は各地にいるが、体調を崩す者も多い。「死ぬ時は足立で」が合言葉だ。 #東京定年

2015-01-04 12:14:35
蝉川夏哉 @osaka_seventeen

「新しい生活もいいもんですよ」東京で飲食チェーンを経営していた甑野の表情はどこまでも明るい。駅前再開発で新しくなったがテナントの撤退した料理店を次々と居抜きで契約する。「地方にも東京の風を吹き込まないと」取材から三ヶ月、彼の会社の倒産が、帝国データバンクに記載された。 #東京定年

2015-01-04 12:23:34
蝉川夏哉 @osaka_seventeen

「香典の額が貼り出されるんですよ」大手銀行にいた政野は苦笑する。多ければ多いという物でもなく、序列のようなものがあるのだという。「越して来た時にお世話になった方なので、多く包んだのが間違いでした」余所者扱いは生活にも影響する。妻とは、二度目の転居を本気で検討している。 #東京定年

2015-01-04 12:44:26
蝉川夏哉 @osaka_seventeen

「映画を映画館で観られるってね、凄い贅沢ですよ。新宿に住んでる時は分からなかった」元映画ライターの小郡はAEONに併設されたシネコンの出口で苦々しく吐き捨てた。車がないのでバス電車で1時間半。節約の為にパンフレットも買えない。ライターとしては廃業したが、映画は好きだ。 #東京定年

2015-01-04 14:33:10
蝉川夏哉 @osaka_seventeen

「犬が飼えるのは本当に嬉しい。ずっと飼いたかったから」毎日の散歩は里見さんの仕事だ。血統書付のドーベルマンはよく懐き、実の子のように可愛い。「ただね、お隣から苦情が来るんですよ。鳴き声がうるさいって」御徒町を離れて長野に越したが、ここでも付き合うのは向こう三軒両隣だ。 #東京定年

2015-01-04 15:02:28
蝉川夏哉 @osaka_seventeen

「ちょっとしたバブルの様です」結婚式場で統括マネージャーをする井越の表情は明るい。「東京から御発ちになる方の”壮行会”は今後も需要が伸びる見通しです」結婚式と違って平日に開かれる壮行会だが、意外にも予算は大きい。「見栄と言うんでしょうか、他と較べられる方は多いですね」 #東京定年

2015-01-04 15:27:28
糸畑要 @boreford

「東京定年」世界の東京、だいたい今の湾岸部とか新宿区が進んだ感じになっているものと思う。日本国外由来の「新都民」がかなり「大きなマイノリティ」になってる。浅草あたりの「再開発」はたぶん中国系のディベロッパーがバブルの地上げ屋とか顔負けのエゲツナイやり方でやってる。#東京定年

2015-01-04 22:21:08
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