【タッグバトル】草原にて

フロリーシャ・ラウィーニーア @flou_siki

子供を拾った。水色の髪で、黄緑色の服を着た小さな子供。誰もいないところで、一人スヤスヤと眠っていた。たまたま通りかかったジャックは、このまま放っておくのは悪いことだと思って、拾った。だって、きっとそのうち凍えてしまう。 お城のあの子なら、きっとお家に帰してあげる方法を知っている。

フロリーシャ・ラウィーニーア @flou_siki

だからジャックは、その子を抱えて城へ帰ろうとした。 しかし、歩けども歩けども城には辿り着かない。見えるのは平原ばかり。月白の髪を風に揺らし、銀灰の瞳を瞬かせて首を傾げる。あれ、此処は何処だろう。右も左も、前も後ろも、見渡す限りが平原で、緑色だった。

グラナート @ktmyng

――うつら、うつら。 ――ゆうら、ゆうら。 その子供は眠っている。眠った先で、夢を見る。 夢の中を駆け回る。さぁ、今日は、どんな“遊び”をしようか？ ――子供はまだ、目を覚まさない。

雛未クロエ @r_sinoxx

草原に紫煙が燻る。 幾ら歩けど変わらぬ景色に、在里は眉を寄せた。草原。草の匂いが満ちた其処は、頭の中に叩き込んでいた、仕事の地図にはない場所だった。 煙草を吸う。白煙を吐き出す。周囲を見回して立ち止まった。目を伏せ、首を回す。警戒するように、感覚を研ぎ澄ませながら、目を開いた。

【魔王】 @Tokimine_Seo

さわやかな草原にず、と闇が沁みだす。布地に垂れたインクめいて広がる漆黒の中から、人型が姿を現した。闇を纏い、闇を靡かせ、瞳と虹彩の境界のない闇で周囲を睥睨しながら、口端にわずかな微笑をのせている。 ――ここには愉しいことがありそうだ。 そんな予感を抱えながら。

フロリーシャ・ラウィーニーア @flou_siki

横を見て、前を見て、後ろを見る。それから足を動かして、白いハイヒールで地面を踏み締める。ぽふりぽふりと優しく子供の背を叩きながらゆっくりと歩く女の目に、一つ。人影が映る。 「あらぁ〜？」 女は首を傾げ、更に歩を進める。黒衣。黒のショートカット。ハッキリと輪郭を持ったそれは、女性。

フロリーシャ・ラウィーニーア @flou_siki

「こんにちは〜」 穏やかに声をかけてみる。悪い人でなければいいのだけれど。 「突然こんなことをお聞きするのもと思いましたが〜貴女は此処が何処か分かりますか〜？」 話しかけないことには、始まらない。

雛未クロエ @r_sinoxx

研ぎ澄ませた感覚は、柔らかな足音を拾った。空気が揺れる。背後から間延びした声が掛かった。それに何処ぞの解体狂を思い出し、在里は不機嫌そうな顔を一瞬だけ更に顰めた。息を吐き、吸う。新鮮な酸素と共に入ってくる煙草の煙に思考を紛らわせて。 振り返る。居たのは、子供を抱いたナースだった。

雛未クロエ @r_sinoxx

月白の髪に銀灰の双眸。白に身を包んだ女の腕の中で、水色と黄緑色を持った子供が寝息を立てている。 「……こんにちは」 警戒は解かず、だが相手に届く声量で挨拶を返した。 「悪いが、俺も此処が何処かなんて分からねぇな」 肩を竦め、女に向けていた双眸で周囲を見回す。広がる緑に目を細めた。

フロリーシャ・ラウィーニーア @flou_siki

黒い髪の女が振り返る。一房だけ跳ねた黒髪が、特徴的だった。 「そうですか〜残念です〜」 ぽふりぽふりとまた子供の背を軽く叩きながら辺りを見回す。どこもかしこも緑だらけで、道は見えないし、どこまで行っても木も見えない。ううん、と首を傾げて、ハッとする。

フロリーシャ・ラウィーニーア @flou_siki

「そういえば、申し遅れました〜私、ジャックと申します〜貴女は〜？」

雛未クロエ @r_sinoxx

名を問う声に、思考が巡る。偽名を使うべきか否か。そう考えて、ふっと息を吐いた。 「在里だ」 端的に、言葉を返す。必要以上に警戒し、動けなくなるのも馬鹿らしい。自身の思考にそう結論付けた。 いくら立ち止まっていようと周囲の光景が変わることはない。かといって、闇雲に動く気もなかった。

雛未クロエ @r_sinoxx

息を吐く。周囲を見渡す。 どうしたものか。変わり映えのしない草原を睥睨する双黒は、不機嫌な色を深め、更に細まる。

フロリーシャ・ラウィーニーア @flou_siki

「在里さんですか〜」 名乗られた名前に、そうですか〜と意味もなく頷きながら、同じように辺りを見回す。緑、緑、緑、辺り一面の緑。変わる気配もなく、ぽんぽんと子供の背を叩きながら、そういえばこの子はなかなか起きないな、と思った。

グラナート @ktmyng

ゆら、ゆら。とん、とん。 心地よい揺れの中に、優しい振動。 （……なに、かな。） 声もないのに、何故か呼ばれたような気がした。 子供がきょろきょろと辺りを見回せば、とある方向からはより一層明るい光が降り注ぐ。 その光に興味を持った子供は、その方向へと歩を進めて――……

グラナート @ktmyng

ぱちり。 水色の睫毛が震えて、橙がゆっくり色を覗かせた。 ぼんやりとした意識の中に飛び込んできたのは、緑。青々とした草原の景色が広がっている。 綺麗な場所(ゆめ)だなぁ、というのが最初の思考。 頬を緩ませて小さくちいさく笑おうとして、 ――暖かさと、浮遊感。

グラナート @ktmyng

「、ぅ？」 それもそのはず。地面に足は付いていなかったのだから。暖かいのは自分を抱えた腕だったと気づいて、視線を上へ。 すると目に入ったのは白い人と、黒い人だった。たぶん、どっちも知らない。 誰だろう、なんて言葉にはせず。ただそれぞれを見やりながら、首をこてんと傾げた。

フロリーシャ・ラウィーニーア @flou_siki

ふと、腕の中の子供が動いた気配がした。ジャックはそっと子供の顔を覗き込み、その橙の瞳が現れているのを確認すると、柔らかく微笑んだ。 「おはようございます～私はジャックと申します～貴方は～？」 声もまた柔らかく、穏やかに。驚かせないよう、聞こえる程度に小さな声だった。

グラナート @ktmyng

白い人が、顔を覗き込んできた。 かちあった銀灰は柔らかにしなり、かけられた声は穏やかで。湛えられた笑みは綺麗だった。 「ジャック、」 名を復唱。ぽつりと、確認の意味を込めてそう零したあと、 「……ミリュー」 自分を指さしながら、一言。言葉は最小限だが、これで伝わるだろうか。

【魔王】 @Tokimine_Seo

愉しげな気配を感じて闇を引きずり歩いていく。草原の緑とは違う色を見つけ、するすると近づいて、自身の色合いにもっとも近い、黒い女性の背後辺りにぬっと立った。 「やあ、諸君。私も混ぜてはくれないか」 貼りつけたような微かな笑みはのせたままで。深く底から響いてくるような、低い声音で。

【魔王】 @Tokimine_Seo

「ここで何をしているのかな？」 不気味なほどに深い黒は、集まっている妙な面々を見回してから、遠く緑の地平線に視線を移す。 「愉しげなことがあるようにも見えないが」

雛未クロエ @r_sinoxx

ちらと視界に映ったジャックの挙動に、子供が目覚めたことを知覚する。だが、それに興味を持つことはなく、再び周囲を見回しかけーー、背後から新たな気配。耳朶を打つ、低い声。僅かな驚きを隠すように息を吐いて、一歩、二歩前へ、そして振り返る。 黒。というよりは、闇。それを纏った人らしき者。

雛未クロエ @r_sinoxx

微笑みさえ異様に見えた。外見だけでは性別の区別はつかない。思考を回し、また息を吐く。 「何もしていない」 問いには、淡々とした声音で答えた。何もしていない。自らの情報を交わし、名乗り合った程度。後はただ立ち止まっているだけ。 そう思考を纏め、自身もまた周囲を見回した。

フロリーシャ・ラウィーニーア @flou_siki

子供がジャックの名前を呼ぶ。それに静かに頷いて、頭を優しく撫でてやる。それから子供は自分を指差し、短く言葉を口にした。ミリュー。口の中で同じそれを転がす。ミリュー、ミリュー。数瞬の間を置いて、ああ、と気が付いた。 「ミリューさんですか〜」 にっこり笑って、背を叩く。ぽふりぽふり。