【因果応報】

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「…ここは何処だ？」男は上半身を起こし、周りを見渡した。彼の目に入ってきたのは、溶岩を勢いよく噴き出している火山、そして溶岩流。「なんだこれは」自分の身体を見て男は驚いた。袖のない白い胴着、手には赤色の打撃格闘技用のグローブ。 そして頭には赤色の鉢巻。

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「これじゃまるで、あのゲームの主人公…」男が立ち上がろうとした時、何処からともなく声が頭に響いてきた。(((目覚めたようだね、囚人512号君))) 男はもう一度周りを見渡し、天を仰いで叫んだ「お前は誰だ、俺をここから出しやがれ！」

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(((それは出来ない相談だ。お前は取り返しのつかない罪を犯した。今からそれを償ってもらう))) 「なんだと…罪を、償う！？」 そう言った次の瞬間、男は思い出した。「…俺はゲーセンで対戦格ゲーをやっていて、相手に負けた、それも理不尽な技でハメはめられて」

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「それから俺は、気がついたら相手の胸ぐらを掴んで、腹に膝蹴りをぶち込んだ。悲鳴を上げてうずくまった相手を、俺は…あ、あああ…」男は頭を抱え、その時の相手と同じようにうずくまった。(((思い出したかね)))頭に再び声が響く。

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「あいつは…あいつは…あれからどうなった…」男は絞り出すように聞いた。(((彼なら死んだよ。死因はクモ膜下出血。君の執拗な殴打で倒れ、壁に頭を打ち付けた事が決定打になった))) 男は呆然と手のグローブを見た。「風林火山」の四文字が、男の心を締め付けた。

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「俺は、これからどうなる」そう聞いた瞬間、男から数メートル離れた地面に突如人間が現れた。金髪に赤色の袖なし胴着、手には赤いグローブ。(((あいつは…！？))) 言葉を発する間も無く、男は立ち上がった。そして、静かに身構えて独特のリズムを刻み始める。

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(((か、身体が勝手に！))) それは、先程目の前に現れた金髪赤色胴着の男も同じだった。「闘いの中に答えはある」口から勝手に台詞が漏れ、身構え直す。「いつでもいいぜ、かかってきな！」 金髪赤色胴着の男も同じく台詞を吐いた。

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(((待ってくれ、俺は…))) 男が考えている間に赤色金髪胴着へおもむろに近づき、水面蹴りめいた足払いを一閃！「グワーッ」金髪赤色胴着はガード出来ずにダウン！！ すかさずそこへ近づき、起き上がり際に赤色胴着の襟元を摘んで投げの動作に入ろうとした。

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(((やめろ！ そんな迂闊な投げ重ねをしたら…))) 身体は彼の意思に従うことはなかった。そして「昇龍拳！！」「グワーッ！！」投げを打とうとしていたノーガードの身にリバーサル昇龍拳がもろにヒット！！！ 激しい痛みと炎の熱さが彼を襲う！！！

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(((痛ぇ！痛ぇよ！！))) 心で悶えながら起き上がる男を尻目に、金髪赤色胴着が華麗なステップで急接近！普通なら投げられない間合いからまるで掃除機めいた動きで男の襟元を掴み、背負い投げ！！「グワーッ！！」受け身を取れずに背中から落下、ダメージは大きい！

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そして彼らは互いに殴り合い、ついに金髪赤色胴着の男が起き上がらなくなった。「K.O！！」聞き覚えのある声が頭に響く。腕が勝手に胸の前で組まれ、頭の鉢巻が風になびいた。(((なんだよ…なんだよこれ)))

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(((まだわからないのか。ここはかつて、君が対戦相手を思うがままに痛め、貶め、嘲笑い続けたゲームそのものだよ))) (((しかし、この痛みや熱さはゲームじゃない))) (((その通り。それが償いなのだよ))) (((なんだと！？))) 金髪赤色胴着が起き上がり、構えた。

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(((これはゲームであってゲームではない世界。君は誰とも知らぬプレイヤーに操られ、殴り合い、痛めつけられる。そして未来永劫に闘い続けるのだ。))) (((そんな…))) (((君は、相手の気持ちを考えた事があったかね？))) (((そ、それは…)))

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男にとって、自分の方が強ければ相手は誰でもよかった。たとえそれが初心者であっても、自分さえ気持ちよくなれれば、それで良かったのだ。男に負け、嘲笑われ、貶められた者は自信、気力、楽しみを奪われ、ゲームを止めた。そこに残ったのは男に対する憎しみ、ゲームに対する失望感だけだった。

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(((自分のことしか考えていなかった。このゲームの楽しさを、ゲームを通して得た人同士の絆の大切さを、誰かに伝えようともしなかった…))) 走馬灯にも似た想いが、彼の頭によぎった。「竜巻旋風脚！！」「グワーッ！！」赤色胴着の必殺技が容赦無しに男の体力を削った。

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((((やめろ、止めてくれ…))) これは多分PP1000以下のプレイヤーだ、ガードもせずひたすら殴りに行って、やられたら自分勝手にキレで… (((君を操っているプレイヤーが上達することを祈っておくよ。それではご機嫌よう))) それを最後に、声は聞こえなくなった。

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(((俺は…))) それから男は何度も倒され、立ち上がり、相手を倒し、殴り合いを続けた。やがて男は、自分が誰だったかも、何時から戦ってあたかも忘れてしまった。 「タノシイッテ、ナンダ？」 ただ一つ、それだけを口にしながら、男は今日も闘い続けている。 【終わり】