【邪悪の樹――二籠】第一戦闘フェイズ――花の樹

万斛の鎌――色欲(@Setsu_MM) 伽藍の矢――愚鈍(@actLust
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【愚鈍】雪 @Setsu_MM

背後で扉の軋む音がした。扉は閉じられ消え去り、後には雪色の邪悪が残される。 空は高く晴れ渡っている。風が花の香りと草いきれを運び、さわさわと音を立てていた。 花咲く草原の中、朽ちた家屋がぽつりぽつりと建っている。蔦と花に覆われたそれらは既に自然の一部と化している。

2015-01-11 18:24:20
【愚鈍】雪 @Setsu_MM

茫、と虚ろな視線を空に向けた。花と草の香りが強い。生きている匂い。春の香。 「……くさ、い」 抜け落ちたような表情に、微かに嫌悪が浮かんだ。この空間に真正面から拒絶されているような、錯覚。 冷たい負の感情は、記憶の雪原の一角に確と積もった。 空を見るのをやめ、そろりと周囲を見る。

2015-01-11 18:24:39
【色欲】ルスト @actLust

「──よいしょ、っとお」 手を貸してくれる人は、此処に居ない。だから、『自分』で『自分』に手を貸した。噎せ返るような花の香りにすん、と鼻を鳴らした。イイ香りだ、気分が昂揚する。 「ここ……どこだろ、おうちの中かなあ?」 首を傾け、壁から生えた『手』に捕まる。『手』から『手』へ、

2015-01-11 18:46:17
【色欲】ルスト @actLust

取り歩きながら、ようやく扉らしきものを見付けた。触れた雰囲気から感じるに、木作りの扉だろうか。大分朽ちているらしい。足裏が柔らかな草を踏み締める。 「ふうん、こんなところにいるんだあ……? ええと、なんだっけえ……」 ナンカ。リョウセイのヤツ。 壁に生えた手共々、腕組みをして。

2015-01-11 18:48:50
【色欲】ルスト @actLust

「歩き回るのは、危ない──かなあ」 ぼんやり考えながら、外へ出ようとした足を一旦止め、中へと戻る。さて、こうして『仮初の外』へ出てみると、目が見えないというのは中々不便である。 「どうしようかなあ」 ううん、と首を傾ける。足は止まっている。

2015-01-11 18:51:07
【愚鈍】雪 @Setsu_MM

いた。何か動くものが。覚束ない足取りで、もたもたと近づいていく。蔦の絡まる家の中に何故か戻ってしまったが、声を上げれば、気づいてくれるだろう。【物質主義】や【不安定】のように聞こえなければ、また別だけれど。 家の壁までたどり着いて、扉をこんこん叩いた。

2015-01-11 19:02:18
【愚鈍】雪 @Setsu_MM

ええと、こういうときは、なんて言うんだっけ。 抜け落ちた常識をかき回して、それらしい言葉を紡ぐ。 「あ、きみ、え、と、だれ?」 ――どこかずれた問いになってしまっているが。

2015-01-11 19:02:21
【色欲】ルスト @actLust

それは振り返る。瞬くのは、何をも映さぬ鏡のような血濡れた双眸。こてりと首を傾げれば、布を纏っただけの身体を声のした方へ向けた。 「色欲(ルスト)だよお。ぼくにきいてるんだよねえ?」 危なげない足取りの色欲を支えるのは、壁から生えた『手』。そこに自身の手を乗せて、握らせ立っている。

2015-01-11 21:42:17
【愚鈍】雪 @Setsu_MM

「うん、え、と。ここ、ぼく、と、きみしか、いない、から」 他に誰かいたのかと思い、周りをもう一度よく見てみた。だが他の人影は見当たらず、首をかくん、と傾げながら視線を元に戻す。視界に入る手がひとつ多いような気になりながら、再び口を開いた。

2015-01-11 22:15:20
【愚鈍】雪 @Setsu_MM

「あ、う、ぼく」 邪悪か、名か、どちらを名乗ればいいのか数瞬混乱して、一息おいてから、どっちも名乗ればいいことに思い至る。 「ぼく、雪、えと、【愚鈍(ドゥムハイト)】、ていうの」 ここに来た理由も、目的も、もう既に春の暖かさに溶かされてしまっている。 「あ、」 言葉に詰まった。

2015-01-11 22:15:25
【色欲】ルスト @actLust

「そっかそっか、そうだよねえ、他に人がいたらおかしいよねえ」 けらけらと笑いながら、壁から生えた『手』と指を絡めながら、こっちゃこいと手招く。 「セツ。ドゥムハイト。──んー、セツのがかわいいねえ? セツって呼んでいーい?」 呼び掛けは人懐こく、朗らかな笑みを浮かべて。

2015-01-11 22:34:08
【色欲】ルスト @actLust

ゆっくりとした喋り方。聞き取りは易いだろう、色欲に『今』は、眼前の愚鈍を害す思考は無い。 「さっきも言ったけどお、ぼく、見えないからさあ」 「きみの顔とか、髪とか、身体つきとか。わからないから、触らせてくれると嬉しいんだけどお」 ──其れは、触れ合いを深く望む。

2015-01-11 22:35:52
【色欲】ルスト @actLust

「──だめかなあ?」 首を傾げて、人差し指を唇に当てる。

2015-01-11 22:36:37
【愚鈍】雪 @Setsu_MM

手招かれるままにのこのこと近づいていって、首を再び傾げた。 「うん、ぼく、雪だよ?」 雪か【愚鈍】か、呼ぶならどちらかしかないと思うし、呼ばれた名が間違っていなかったから、肯定を返した。接触を望む声にも。 「いい、よ?」 見えないから触る。難しい事が何もなく、すんなり理解できた。

2015-01-11 22:56:09
【愚鈍】雪 @Setsu_MM

「あ、でも、ぼく、」 触られたらよくないことがあった気がする。だが――思い出せない。触られたら自分にとって、よくないことが分かられてしまう気がして。 しかし思い出せないし、頷いてしまったから。ただそこで言葉を切った。

2015-01-11 22:56:13
【色欲】ルスト @actLust

「ぼくはルストだよお。だからねえ、そうだねえ……ルスって呼んでくれてもいいよお」 へらりと笑う。近付いて来た雪を求むようには手を伸ばして、まず手の感触を確かめるように触れて、一本一本、指をふにふにと摘まむように、撫でるように、触れて。 ──嗚呼、ツメタイ。

2015-01-12 00:50:59
【色欲】ルスト @actLust

「セツう、ずいぶんと、“ツメタイ”ねぇ?」 触り、撫でながら触れる手は、腕から肩へ、肩から首筋へ、首筋から頬へ。拒絶されなければ、指が手の平を撫ぜるだろう。 「んー……さむい?」 ほんのりと暖かい色欲の手を、愚鈍は果たしてどう感じるだろうか。

2015-01-12 00:52:51
【愚鈍】雪 @Setsu_MM

「るす、」 触れられながら、言われた名前をオウムのように復唱して。触られているやわらかな感触はあるけれども、そこに温度を感じることは、この邪悪にはできず。そして、その言葉の意味も、わからない。 「つめ、たい……?さむい?」 ことり、と首を傾げながら、撫ぜる手を握り返そうとする。

2015-01-12 01:10:46
【愚鈍】雪 @Setsu_MM

――そして、握ろうとした手が、届いたなら。触れた手から、「種」が生まれることだろう。水に反応して瞬く間に根を張り、水分を吸い上げ、奪った水で育ち咲く氷の花の種が。 本人に害意がなくとも、その身は邪悪。その力は見境なく、自発的に触れたものを『咲かせる』。

2015-01-12 01:10:50
【色欲】ルスト @actLust

「うん、ツメタイ。んー……、あ、サビシイは? サビシイはわかるう?」 こてりと首を傾げたまま、手に奔った痛みには僅か身じろいで、バランスを崩す。──結果、盛大な尻もちをついて。 「あたたたあ……。なあにこれえ、お花あ?」 つんつんと自分の手に咲いたであろう何かをつつく。

2015-01-12 01:36:00
【色欲】ルスト @actLust

殺意は感じられなかった。触れようと伸ばされた気配は感じたから、自分から握りに行った。──成る程、邪悪。薄笑いを思わず浮かべ掛けて、仕舞い込み。 「あー、びっくりしたあ。これ、セツのカザイってやつう?」 壁から生える『手』が色欲を支え、立たせた。

2015-01-12 01:40:34
【愚鈍】雪 @Setsu_MM

「あ、う、わすれ、てた」 ごめんね、と手を伸ばしかけて、止めた。たった今した失敗はさすがにまだ忘れていない。手を戻して、ふらふらと彷徨わせる。 「でも、きれい、に咲いて、る」 外に咲き乱れていた色とりどりの生きた花より、生を吸って咲く死んだ花の方が好きだ。何となく。

2015-01-12 02:57:25
【愚鈍】雪 @Setsu_MM

「ぼく、の。【雪実】、咲くの。もっと、吸ったら、もっと、おおきく、なって、なったら」 一体、どんな花になるのだろう?気になった。 じ、とルストの手に咲いた花を見ていた。モデルになったのは外で見たタンポポだろう。おぼろげな記憶がベースのせいで、花びらの一枚一枚が妙に平たくて大きい。

2015-01-12 02:57:32
【愚鈍】雪 @Setsu_MM

「……どんなのが、咲くのかな」 ぽろ、と考えていただけの言葉が、零れた。

2015-01-12 02:57:36
【色欲】ルスト @actLust

「──咲く花が見たいなら、」 微笑み掛ける。手招き。 「ほら、その『手』に咲かせてみたら、いいんじゃないかなあ」 壁から生える、無数の手。どの『手』も色欲のものとよく似た、性差の無い生白いものだ。 「それも、あたしの一部分だからねえ」

2015-01-12 22:48:01