【邪悪の樹――二籠】第一戦闘フェイズ――花の樹

万斛の鎌――色欲(@Setsu_MM) 伽藍の矢――愚鈍(@actLust
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【愚鈍】雪 @Setsu_MM

熱を与えられるところが、痒い。痛い。それは凍傷にも似た痛みだ。温感を拭い去られた身体には、痛みと痒みしか与えない傷。 頬を撫でる手から逃れようと顔を背ける。ぐしゃ、と片腕から柔らかいものが潰れる音がした。 身体の内側。肉袋に詰め込まれた雪が溶けて、保っていた形が崩れ始めた。

2015-01-16 03:47:39
【愚鈍】雪 @Setsu_MM

掴まれた片方、左手首。表面の皮に痛覚はなく、身体を溶かされている痛みだけが駆け巡る。 左手を犠牲に、保たれていたバランスが崩れた。後ろに倒れながら、辛うじて形を保ったまま拘束を逃れた右手が、無意識に伸ばされる。首か、肩か。掴む場所を求めて掌が開く。 ひきつる喉は言葉を紡げない。

2015-01-16 03:48:36
【色欲】ルスト @actLust

肩を掴まれれば、そこに種が根付きいびつに、艶やかな花を咲かせるだろうか。 ──しかし、例え痛みが奔ろうと、色欲が止まる事はない。全身で己の熱を、伝えようとせんと。 「にげないでよ、」 唇を舐めた。身体の芯から凍ってゆくような感覚に、ぞくぞくと背を這うナニかに悦を覚え。

2015-01-16 13:25:00
【色欲】ルスト @actLust

バランスを崩し愚鈍が倒れゆけば、それに釣られるようにして色欲も倒れるように、──いっそ押し倒すように。 「いいよ、すきなだけぼくにさかせれば、イイ」 愚鈍に見える色欲の表情は、悦しか非ず。それはいっそ、酷く対称的な光景であったろうか。 「──でも、ぼく/あたし/これは、きみを、」

2015-01-16 13:26:45
【色欲】ルスト @actLust

「──放しは、しないよ?」 性差など存在しえない身。薄くも無く厚くも無い身体が、圧を掛けるようにしなだれかかろうと。 「おいで、アタタカイを知らないなんて」 「──モッタイナイよ?」 自分本位の言葉を投げながら、色欲の片手は愚鈍の喉へ、迫る『手』は起き上がらないように、と。

2015-01-16 13:29:19
【愚鈍】雪 @Setsu_MM

氷の花は咲いたままさらにその大きさを増していく。氷の根を、伸びる限り。養分の続く限り。 熱に耐えきり花が命の水を奪うのが先か、身体が溶けきってしまうのが先か。 「う、あ、」 触れられる喉か痛くて、痒くて、かきむしりたくなる。 それよりも何よりも、触れる熱を追い払いたくて。

2015-01-16 13:56:48
【愚鈍】雪 @Setsu_MM

涙も零れない冷たい身体は、逆に苦痛を留め置いた。いっそ叫べたら楽だろうに、じわりじわりと痛みは侵食する。 「や、やだ、ぁ」 首の形を留めるのも困難になり、頭も振れない。 「いた、いた、い、かゆい」 首に伸びた手を振り払うべく、右手をやっとのことで持ち上げた。

2015-01-16 13:56:51
【色欲】ルスト @actLust

「──あは、」 吐く息が白く感じるのは目の錯覚だろうか。 指先を這わせる。 「ああ、イイよ、たまんない」 この眼で表情を見れないのが残念だ、と心の底から思った。 「ぐずぐずにとけて、まじりあって、そうして、どこかへながれついたら、──ああ、」 か細い息。

2015-01-16 14:31:47
【色欲】ルスト @actLust

首元には手を這わせたまま。徐々に、徐々に呼気は細さを増して。──覆いかぶさるような姿勢のまま、遂には色欲の身体に動きが無くなるだろう。 「──ああ、なんて、きもちよさそう、な、」 吐息が零れ、言葉は落ちず。 ──やがては、呼吸音すらも、途切れ。

2015-01-16 14:33:30
【愚鈍】雪 @Setsu_MM

花が、咲いていた。かつてないほど大きく茎を、葉を伸ばして花びらを開いた、赤い氷の花が。 何故だか花びらは半ばほどから萎れた形をしていて、中に丸いような赤黒いものを抱えている。 ぽとりと落ちたそれは、心臓。求めるべき敵の命。

2015-01-16 15:10:33
【愚鈍】雪 @Setsu_MM

顔のそばに落ちたそれを、ほんの少し顔を傾けて見た。首の皮がひきつれて綻び、雪と水の混じりあったものがじわと溢れる。 手を、伸ばして。それをとった。 1度氷に抱えられたそれは冷えきっている。痛みもかゆみもない接触に、なんだか安心した。 「は、ふ、」 冷徹な指令は心の中に落ちていた。

2015-01-16 15:10:39
【愚鈍】雪 @Setsu_MM

零れていってしまう記憶を、これで取り戻せるのだと。 こくり、と喉が鳴って、綻びが大きくなる。飲み込んだ赤の一部が、外気にも触れた。 銀瞳が瞬いた。花々の香りがする。春の陽気。たったいま眠ってしまったこの人も、春のいろ。 春の、訪れ、は 「…………そっ、か」

2015-01-16 15:10:42
【愚鈍】雪 @Setsu_MM

消え入るような声を皮切りに。 みるみるうちに、色が失われていく。髪の雪色も、瞳の雪も、取り繕うような白い肌さえ。 暖かな雪融け水が染み込んだ跡には、抜け殻がひとつ、遺されていた。

2015-01-16 15:10:44